第20話 ダンジョンづくり
そのあと、末吉からダンジョン作成について、色々とレクチャーを受けるため、僕はキャットウォークと呼ばれる金属製の狭い
その部屋は天井に大きな照明があり、部屋全体が少し広い感じのする現代風で周囲の壁は木目調で統一していた。
また、部屋の中央には大きなテーブルが置いてあり、テーブルの上には僅かに宙に浮いた謎の構造物のような透明な物体が置かれていた。
僕はその物体が気になり、末吉に聞いてみる。
「末吉さん。テーブルの上にあるものはなんですか?」
「高槻くん。あれはねぇ。ダンジョンの模型になるわよ。実は、ダンジョンを作る場合は『グリモア』を使って、こんな感じで作ることで出来るの」
「えっ!? 末吉さん。それって、ダンジョンは模型だけで作れるということですか?」
「そうよ。この模型がベースとなって『グリモア』を使えば、現地に実物大の大きさで作成することが可能なの。凄いでしょ!」
驚きでしかない。街は今まで現地でコツコツと作っていた。
だから、ダンジョンを作る場合は掘削作業から始まるだろうと思っていが、ところが、全然予想しない方法でダンジョンが作れるということ。
「末吉さん。どうしてダンジョンだけ、こんな感じで作れるのですか? それなら街だって同じように作れないんですか?」
「そうねぇ――少し、説明が足りなかったわね」
末吉が言うには、僕が、この前に作っていた『クイーザ』街とかは、地形などの景観が関係するので現地で作業する方が良いらしく、仮に街のミニチュア模型を作ったとしても、細部の作り込みは現地に行かないと駄目になる。また、街とは異なるダンジョンの場合は、地下になるため、あまり地形とは関係なく、さらにこちらの世界と仮想空間の間で転送が必要になるため、始めから模型を作った方が良いらしく、あとから『グリモア』に登録して、現地で実物大の構造物を生成する方が楽なんだとか。
「そうなんですね」
「そう、高槻くん! 『グリモア』って便利でしょ!」
ここでも『グリモア』の凄さを知る。
末吉はテーブルのところに移動して、謎の物体の一部を指差して説明を始めた。
「では、高槻くん。少し説明するね。始めにこのダンジョンの模型では、ここにある袋小路になっている個所があるでしょ?」
「どこですか?」
僕も謎の物体のところに近づいて、末吉が示す場所を見ると。
末吉はモコモコした透明な物体の先端の部分が、ざっくりと切断している箇所を指差す。
「この部分は、行き止まりでなくて、この先が部屋になるのよ」
「……末吉さん。その部屋と言いますけど、そこにプレイヤーが踏み入れるとどうなりますか? 例えば、どこかに転移する罠があるってことでしょうか?」
「そうね。罠はないけど、この部分は実際にプレイヤーの視点から見ると扉があって、部屋の中が仮想空間になっているのよ。それに、高槻くん。そもそもダンジョンはね。複数のプレイヤーが同時に入ることができる場所になるから、途中の経路で仮想空間を組み込まないと混雑してトラブルも発生するからね。それと戦闘する場所とかも仮想空間を使うようになっていて、ダンジョンイベントとして必要なボス戦もすべて仮想空間を使っているのよ」
「そうなんですか……」
たしかに地上の場合は、戦闘危険指定領域と銘打った場所を指定してプレイヤーが条件を満たしていれば、自動的にプレイヤーを仮想空間のある場所に転移させ、ボス戦を行なっていた。
それがダンジョンだと、通路の途中や各部屋で必要になるということか……。
「末吉さん。実はダンジョンって、始めからすべて仮想空間にした方が良かったのでは?」
「私もそう思いますけど。しかし、アバターがね。プレイヤーの感覚からリアル感がなくなるということで、必要な個所だけ仮想空間にしているのよ」
「そうですか……」
「では、高槻くん。この模型について、他の場所についても説明しましょう!」
「はい。よろしくお願いします!」
ダンジョン模型は、僕がイメージしていた迷路のような平面構造でなく、立体的で変わった構造をしている。外観のモコモコした感じの配管が空中で入り組んだ形をしていて、内部がダンジョンの通路となり、また、透明であるから外側と内部がどのようになっているか構造が分かる仕組みだ。
それに内部の通路は、狭い場所と広い場所があり、くねくねと折れ曲がった場所が多くある。
さらに階段とか坂路を組み合わせて、とても複雑な形状に入り組んでいた。
また、こうして外観から全体を見ることで、どこにどのような仕掛けを設置しているのかよく分かる。例えば、壁から飛び出す矢などは、自動販売機の中身にあたる機械部分を逆さまにしたような木製の装置が、壁の裏側に取り付けられており、それらをメンテナンスするスペースや、そこに向かう通路もちゃんと作られていた。
このように複雑な仕組みを現地で、諸々と考えながら用意することは簡単には出来ない。こうして先に模型を作ることで、あれこれと仕掛けを用意できるのだろう。
僕としては、『グリモア』を使って街にある建物を作るよりも、ダンジョンの方が特殊な仕掛けなどが多くて作り甲斐あり楽しめそうだ。
末吉の説明を聞きながら感慨深く、「こんな感じで仮想空間を使うことで、別世界に行ったようなステージが作れるんですね」と僕がいうと、末吉は「そうね。色々と工夫をすることで島の面積よりも広いマップを提供できるわよ」と答えた。
そのあと僕は実際にダンジョンの模型を使って、弄りながら拡張方法など実践することになった。
始めに末吉から借りたペンみたいな道具を使って『グリモア』の画面をタッチしながら、宙に浮いているモコモコの先端を動かす。
すると、聞いたこともない変な音を立てて透明な物体の一部が伸びていく。
「高槻くん。そこは下り坂にして公差を作ってから、こっちの通路に移動するところで仮想空間へ転移するようにするといいわよ」
「はい、わかりました」
それに今回の準備として、僕は犬養が用意していたダンジョンのシナリオを読み終えている。やはりゲームにおいて、一番難しいところはイベントが優しすぎても難しすぎてもいけないところだ。
それにダンジョンと呼ばれる場所だけに絞って作る条件の場合は、なおさら、難しくなり、ダンジョン内に用意するイベントは、ポイント制を採用したような感じで移動した距離ごとに試練と褒美を与えて、死の淵へと連れざる魅力が必要だと、犬養の資料には書いてあった。
それは、この先にどんな禍が待ち構えているのか。と思わせて踏み込んだ先で殺されるか、ギリギリ生き延びるかの緊張感を体験してもらうこと。
その結果、プレイヤーはダンジョンに踏み込むことで新たな情報を得て、さらに難解な嫌なイメージを植え付けられる。
そういった演出につながるようなマップを提供しなくてはならない。
プレイヤーには常に考えさせて楽しみを与えなければ、飽きられてしまう。
それにこのゲームでは、要所としてダンジョンは必要であり、作り方を迷わないためにも目的をはっきりしておく必要がある。
どういうプレイヤーが何のためにこの穴ぐらに入るのかということを考えて、なおかつ、複数のシナリオが適用できるような構造が必要だというし、単に探検したいからという甘い気持ちで訪れたプレイヤーには、叱るためにメリハリが必要になる。
それにプレイヤーには実力に合わせてステージを選ばせることが大切であり、ドキドキハラハラと初見殺しは必須で、初めて入ってクリアすることはあり得ない。
だから、ダンジョンはちゃんと考えて作らなければ、無駄に凝った地底通路になってしまう。
それにゲームなら「どんな地下通路であっても死と隣り合わせでなければ、つまらないのよ」と、末吉は笑いながら言っていた。
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