第19話 屋敷の地下
数日が過ぎ去り、予定していたダンジョンを製作する日が訪れた。当初の予定が色々と変わり、僕は犬養からダンジョン作成ついて、レクチャーを受けることになっていた。
そして屋敷の書斎で僕は犬養からの連絡を待っていると。
使用人のロザリアが現れて、僕に声を掛けた。
「高槻さま。よろしいでしょうか?」
「はい。ロザリアさん。犬養さんからの連絡でしょうか?」
「いいえ。違います。末吉さまから、高槻さまに地下フロアーの50階に来るようにと伝言を預かって参りました」
「ロザリアさん。お聞きしますけど……。地下フロアーって、地下の管制室以外に地下フロアーがあるんですか?」
「はい。ございます。昨日、末吉さまが参られまして、地下フロアーに向かう『
「エレベーターですか? ロザリアさん。その場所に案内してもらっても良いでしょうか?」
「かしこまりました。それでは、これより案内しますが、ご都合はよろしかったでしょうか?」
「はい。大丈夫です。今からお願いします」
僕は、ロザリアに案内してもらい、屋敷から地下の制御室に向かう通路を通って、奥にある新しくできた部屋へと入る。
そこには、たしかにエレベーターの入口が存在した。
「高槻さま。こちらです。末吉さまが作られました転移魔法になるそうです」
「そうですか。分かりました。使い方は、何となく分かりますので、ここまでで問題ありません。ありがとうございます」
僕は目の前にある新しく設置されたばかりのエレベーターに乗った。
「転移魔法って、こういう使い方するの?」
エレベーターの中に入ってみると、どうやら上下に移動するわけでなく、魔法陣のある狭い部屋から別のどこかに移動する感じでポータルとも違う。
また、壁のところを見ると普通のエレベーターにあるボタンよりも3倍くらい多くボタンがある。
「いったい。どこまで地下に行けるんだ? それにしても何というか、別にこういうところは、エレベーターに似せなくて良いのでは……」
早速、50階のボタンを押して見る。
すると、仮想空間に転移するのと同じ感覚で、まったく同じ部屋に到着した。
「えッ!? 本当に転移しのか?」
周りをよく見ると、エレベーターにある電光掲示板などがないため、壁のところに「50」とだけ書いている。
「……フッ」
これって、転移魔法の魔道具なんだろうけど、エレベーターの形だけは良くない。
と、思いつつエレベーターを降りて、同じような部屋から、さらに外に出る。
そこは、これまで屋敷や地下のどの場所とも違い、特殊なレイアウトをしていた。
「何だ。ここは?」
目の前には10階建ての高さくらい、ありそうな高い天井があって、しかも奥が見えないくらい広く、天井から床と壁まで、すべてが同じコンクリートで作られている。
また、水銀灯が入口のところにしかなく、薄暗い場所だった。
僕が、この不思議なフロアを見渡していると、遠くの方から声が聞こえた。
「おーい! こっちだよぉ――――――――!」
「あっ! 末吉さんの声だ!」
僕も声が聞こえた方に向かって、大声て呼び掛けた。
「末吉さーん! どこにいますかぁ――――――――!」
反響音がこだまする。
「高槻くーん! 奥に来てぇ――――――――――!!」
僕の呼び掛けに返事が返ってきた。
僕は部屋の奥の方をじっと見つめる。しばらくして目が慣れてきたせいなのか、ぼんやりと薄暗いところに何となく人影を見つけた。
「あんな遠くまで歩いてこい、ということかぁ……」
多分そうだろう……。周りを見ても移動手段はない。
僕は諦めて軽くランニングしながら、末吉のところに向かった。
軽く体感的に1キロくらいはあった。「ぜぇ、ぜぇ……」
ようやく到着して、末吉の前で床に寝転がる。
「……もう無理。何となくダメだ……」
「お疲れ様でしたね。高槻くん。はい、これ!」
ただ立って待っていただけの末吉は、僕を笑顔で迎えたあと、どこから取り出したのか分らないが、サッと水筒を差し出す。
僕は水筒を開けて一口飲み、息を切らしながら、末吉に聞いてみた。
「んっ……。す、末吉さん。ここって、何のためにあるんですか?」
「高槻くん。ここはねぇ。ゲームで使用するアイテムの倉庫になるわよ」
僕は後ろを振り向いて確認する。
「……末吉さん。何もないですけど?」
「まぁ。この場所は、予備のひとつになっているから。あとでスペースが足りなくなれば使用するのよ。それと、こっちにあるエレベーターから、さらに下に行くとプレイヤーが使用するアイテムなどが保管されている場所があるからね」
「ところで、末吉さん。もしかして、僕はイラストの件で呼ばれたんでしょうか?」
先日の報告会のあと、僕は末吉から宿題をもらっている。モンスターデザインのイラストを描くことになっていたので、作成したイラストをロザリアに頼んで末吉に渡していた。
「そうね。高槻くんのモンスターのイラストを見ましたけど、私の方で用意することにしました」
「そうですか……残念です」
「だって、高槻くんが、描いたイラスト。モンスターの名前が『暗黒の土偶』で、絵が『埴輪』とか、ありえませんから!」
土偶と埴輪は一緒ではないということ?
僕は恥ずかしさのあまり赤面してしまう。
「あッ。そ、それってわざとじゃないですよ……。勘違いしてましたぁ」
「はい、私も多分そうだろうと思ってましたけど。但し、ネーミングからして、あの絵は反則ですね。そこで今回は先にダンジョンの作り方について、レクチャーすることが決まりました。……パチパチパチ」
「えっ!? 末吉さん。それって、犬養さんの担当だったのでは?」
「はい、本来であれば、犬養さんとなっていましたが、マコさんから連絡をもらいました。それとダンジョンを設置する場合は、宝箱などが必要になりますので、私が説明した方が良いそうです」
「そういうことですか。分かりました。よろしくお願いします」
僕は末吉に案内してもらい部屋の奥にあった別のエレベーター使って、さらに地下へと移動する。
到着したフロアーは、物流倉庫のような鉄骨で組まれた無数の棚があり、床には箱を運ぶロボットのようなものが徘徊する場所だった。
「末吉さん。ここって、何ですか?」
「アイテム倉庫だけど? あっ、そうね。ここは最新の倉庫システムが導入してあるから驚くわね」
僕は指差して聞いて見た。
「あれ、こっちの世界にもあるんですか?」
あれとは配送ロボットのこと。
「こっちの世界の物を使って同じよう作れるから、私が作ったのよ。だから、一応は魔道具になるのかな?」
「末吉さんって。凄いですね!」
「そうねぇ。それほどでもないけど。もともと、私はこういう分野が得意な方なの。それに……。この地下フロアーではゲーム内でプレイヤーが使用するアイテムなども管理しているのよ」
説明によると、この地下フロアーの下層は、ゲーム内で使用するすべてのアイテムを一括管理している場所になるらしい。
また、どういう仕組みでプレイヤーのアイテムを管理しているかと言えば、プレイヤーはゲームの中で目の前に表示しているメニュー画面から、アイテムボックス画面に切り替えて選択したアイテムを出現させるが、実際はプレイヤーの画面操作と連動して、こちらに指示が届くと転移魔法を使ってプレイヤーのもとにアイテムを転移しており、これを例えるならオンラインショッピングのような仕組みを採用しているそうだ。
となると、出現するまでに時間が掛るのではと思うが、現実世界とこちらの世界では、時差がとても大きいので瞬時に出てきたような錯覚に見えるという。
僕は、この説明を聞いて改めて無謀ともいえる光景を目の当たりにしていた。
ここまですることに何を求めているのだろうか。少し頭が痛くなるような錯覚を覚える。
「これが現実世界なら通販業界最強のサービスを実現したことになるわよ」
と、末吉は軽い感じで笑っていた。
このように末吉は、こんな感じの仕組みを作ることに長けている人で、単にアイテムデザインの担当ということでなく、実はアイテムを供給する仕組みも担当していたと聞いて、僕は驚いた。
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