第17話 街づくり2

 次の日、僕は朝早くから作業を始めた。

 本日予定している作業は、山峡のところに城壁を設置すること。


 この城壁は、大昔に近くにあるダンジョンから、モンスターが溢れ出したことにより街を守る防護壁の役割として、建造されたという設定になっている。


 だが、作業は難航した。僕はマコ先生の指示どおりに何の疑いもなく作業を進めていたが、『グリモア』の使い方が悪かったのかは分らない。それは城壁を作る方法が石を積んで行くような作業ではなく、『グリモア』を使うと城壁が壁材のパネルのような形状で出現する。


 初めはこれをどうやって組み立てるのだろうと考えたが、そのまま地面に立てると倒れることもなく配置ができた。「案外簡単じゃないか……」と、思ったがそうではなかった。


 これが予想を反して簡単に作れない建造物である。

「このパネル、横幅が短いのか?」


 事前に設置する場所の地形を整地せずに作業を行なったことが駄目だったのか。

 完成してみると、城壁が横に真っ直ぐにならずに歪んでいる。

「何だこれ?」


 そのあとも3回くらい作り直して、ようやく足場を作らないと作業できないことに気づいた。

「はぁ?。そうだったのかぁぁあぁぁ――っ!」

 あまりのショックに膝を崩してひざまずく。


「なんと足場を作ってから、僕から見て視点を水平にしてからじゃないとダメなんだ!」

 それは『グリモア』の自動設置機能が、僕の視点をベースしていた。


 さっそく左側にある山のところに移動して、崖になっている場所に沿って『グリモア』を使い塔を建てる。同じように右側の山のところにも塔を建てた。

 そこから丸太で組まれた足場を作って、作業場所を確保する。


「これじゃ。ほとんど、ダム建設と変わらないじゃないか」

 城壁恐るべし。


 そして足場を登って作業を進めてみると。

 何も問題ごともなく、城壁を真っ直ぐに配置できた。


 どっと疲れが増す。どうやら空間にある程度の高さがある構造物は、自動的に配置を整えてくれるわけではない。


「波止場も部品単位で作ったら、あんなに綺麗になっていなかったのかなぁ……」

 改めて『グリモア』の使い方について、奥深さに痛感する。


 そのあと、一段落してから、お腹が減った。それに疲れたので休憩したくなる。

「うぅ……。これで、ほぼ午前中を使ってしまったなぁ……。腹減ったぁ――残りの巨大な門扉の配置は午後にしよう」


 空を仰ぎ、太陽の位置を見ながら反省する。

 それから僕が城壁の近くで昼ご飯を食べていると、マコ先生たちがやって来た。


 マコ先生は、白いヘルメットを被った集団を引き連れて僕が作った建物を見回っている。

 よくよく見ると、白いヘルメットの人たちは見覚えのあるリリィたちだった。

 その中のひとりに金色の短髪に髭を生やした中年男性のカルロスの姿を見つけた。


 マコ先生は僕の近くまで来てから、白いヘルメットを被った集団に指示を出して。

 その集団は、それぞれ作業ために移動して行った。


 その集団の中にいたカルロスは皆とは別に、僕に近づいて来て声を掛ける。

「おう。ミヤトさん。お疲れ様です」


「カルロスさん。こんにちわ」

「いやぁ……。ミヤトさん。それにしても凄すぎですよ。来て早々、こんな街を作るなんて」


「あっ、でも、マコ先生から教わったとおり配置しただけですけど……」

「ですが、初めてにして普通は、ここまで作れないと思いますが?」


「そうですか?」

「そうですよ。私が知っている限りでは、前に末吉さんが作業していたときは、かなり苦労してましたよ。それと比べるとミヤトさんは凄すぎです。この規模の街をたったひとりで、しかも1日でほぼ完成させているじゃないですか?」


「あれ?! そういう予定だったでは……」

「全然、違いますよ。予定では1日目は主要な建物と区画を整備してから、順に建物を設置して、次に私たちが装飾やインテリアの配置を行ない。その途中で場合によっては、建物を変更したり調整が入ります」


「えッ!? そうだったんですか?」

「はい。ただ、今回は港街ですから『フォーク』の街と、それほど変わりませんけど。問題はないと思いますが、それに出来れば、実際に生活する私たちの要望も聞いて頂けると助かります」


「あッ。そうですよね……」

 そうなんだと気づいた。


 確かに街は映画とかのセットでなく、実際にリリィたちが暮らすところでもある。

 基本的にゲーム環境において、景観のガイドラインは決めれられているが、個々の建物については、外観は似ているけど、内観などは生活するリリィたちにも要望がある。


 僕としては、ちょっと調子にのって、いい感じに僕流にコーディネートして作り上げた感じは否定できない。それなら気に入らないところがあれば、修正していく必要があるが、せっかく作った建物が無駄にならないことだけ心配する。


 マコ先生は、ニヤリと笑いながら、僕に声を掛けた。

「ミヤトくん。お疲れさま。それにしても予定は言って見るもんだねぇ」


「ムスっ。……マコ先生。予定と希望を間違えていませんか?」

「そんなことはないわよ。ミヤトくん。できると思ったから予定を組んだことだし、それにミヤトくんだって否定しなかったじゃない」


「うッ。は、はい……そのとおりです」


 確かにそのとおりなんだが……。僕もマコ先生から『グリモア』の使い方について、街の建物を出して配置する手順までひと通りレクチャーを受けていた。

 そのときはゲーム感覚で簡単にできるものだと単純に考えていたこともある。


 カルロスが、マコ先生に不満をいう。

「マコさん。そういうことなら、事前に私たちにも連絡を入れて下さいよ」


 マコ先生は目を細めてカルロスに視線を向ける。

「それは、カルロスたちにも連絡入れると……。あなたたちは、前日から待機したりするでしょう! そうなるとミヤトくんが、どこまで単独でできるのか様子を見ることが、できなくなるじゃない!!」


 その言葉に僕も驚き、マコ先生に聞いてみる。

「えッ!! まさか……。マコ先生。僕のことをモニターからずっと見ていたりしませんよね?」


 マコ先生は腰に手をあてハッキリと言った。

「管制室で見てましたけど、それが何か?」

 

「うぅ。そうだったのかぁ……」

 僕はひとり恥ずかしくなり、かっぐりと膝を崩して地面に手をついた。


 勝手に露天風呂を作ったこととか、露天風呂に入って海を眺めていたところまで、マコ先生にしっかりと見られていたのかぁ……。と思い赤面した。


「ホホホッ。それに私は、ミヤトくんの作業について監修を頼まれているのだよ!」


 だから、茶々藤が現れた。そういう理由なら昨日の件は納得する。

「はい。そうですよねぇ」


 マコ先生がカルロスの方を向いて声を掛ける。

「それと、カルロス!!」

「はい! マコさん!!」


「さっきの話だけど、これから貴方たちインテリアチームが、各施設を回ってチェックするよね? そのあとからミヤトくんに要望を伝えればいいじゃない」


「マコさん。それは、そうですけど……」

「この際だから言っときます。カルロス。前作の『フォーク』の街を作った時のことを忘れてないよねぇ」


「はい! あの時は色々と意見を聞いてもらいマコさんには本当に助かりましたぁ!!」

「はいはい。それがあるから今回はいっぺんに作ることに決めたんです!」


「えッ!? そうだったんですか? マコさん!」

「そうなんですよ。カルロスさん! あなたたちはいつも、あーだのこーだのと。全然、決められないじゃない!!」


 カルロスはマコ先生の愚痴を聞かされることになり表情が引きつっていた。

「は、ははぁ――すみません!」

 その場で土下座するカルロス。


 これはあとでマコ先生から聞いた話だが、前作のゲーム環境では『フォーク』の街を製作したとき、カルロスたちリリィの要望をひとつひとつ聞いて街を作った。


 そのため予定していた日数を超過して他の作業影響が出てしまったそうだ。

 それをあとから犬養に散々嫌味を言われたらしく、今回はスムーズかつ、スピーディーに街を準備して、皆にあっと言わしめるために作戦を立てたとか。


 それに街全体のレイアウトはマコ先生が決めているから、配置変更などを行なうと、作業が難しくなり、僕としても内観については、まとめて作業した方が効率が良い。

 確かに、ひとつひとつリリィたちの要望を聞いて何度も変更するのは大変だったのだろう。


 それと僕が作業した街づくりについては、リリィたちはとても驚いていた。

 マコ先生が言うには、普通なら丸一日連続して『グリモア』を使うと、かなり疲労がでるらしく、思考が鈍くなり間違えも起こりやすくなる。


 だから、リリィたちも僕が1日でここまで完璧な状態で街を作ることは難しいと考えていたようで、予定外の状況だったため、その日の作業はとても大変だった。


 それに僕だけが集中して、いっぺんに街を作ることができたのかは「本人が楽しんでいたことが大きいんじゃない」とマコ先生は言っていた。


 そのあと、僕もリリィたちの手伝いをすることになり、結局予定していたダンジョンの作業については明後日に変更した。これはカルロスたち。リリィの要望でそうなった。

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