第11話 冒険者ギルド
そして、僕は繁華街を抜けて冒険者ギルドへと向かった。
宿の様子やギルドの酒場などは覗かないけど。
冒険者ギルドに残っているプレイヤーだけでも確認したいと思っている。
しかし、冒険者ギルドの建物に入って見ると。
2階にあるフロアに残っていたプレイヤーの姿が少ない。
色々と観察する予定だったが仕方なしに、僕は受付の職員に声を掛けた。
すると、近くにいた別の職員が僕に気づいて対応してくれた。
僕は、その職員に案内してもらって奥にあるギルト長室へと向かう。
ギルト長室に入ると――仕事中だったギルト長のフォスターは、少し疲れた表情をしていた。
フォスターは僕が入室したことに気づくと、すぐに立ち上がり僕に声を掛けた。
「……おぉ! これは、マスターミヤト。ようこそ、ご足労をかけます」
僕はお辞儀をしてから、フォスターに労いの言葉を掛ける。
「フォスターさん。ご苦労さまです。今日はとても助かりました」
「いいえ。初日ということもあり、少し張り切り過ぎましたかなぁ。ハハハッ」
「フォスターさん。そんなことはありませんよ。僕も管制室の映像で確認していましたから、上手くさばけていると思います」
「それは、単にスタッフの準備が良かったからですかのうぉ……。さて、マスターミヤト。何か、ご用件でもございますかな?」
フォスターはちらりと、僕に視線を向けた。
「はい。フォスターさんには、プレイヤーからどのような意見があったかなど、お聞きしたくて、こちらに伺いました」
「ほうぉ。それはありがたいですのぉ。それに、まだまだ初日ですから、これから色々と出てくるでしょう。そう、そう。まずは、今日あった問い合わせと言えば、確か2件ほどですが、変わった意見がありましたなぁ」
「フォスターさん。それは、どんな内容でしょうか?」
「まずは、ひとつめですが『家を借りたい』と申すプレイヤーがおりましたな」
フォスターが言ったことについて、僕は
「たしか……。街の中に拠点を作ることは禁止してましたよね」
「そのとおりです!」
「その変わりに、プレイヤーが長期的に宿の予約をいれられるようにしていたはずだから、仮に拠点を作るとすれば、宿を丸ごと利用できるようにしていましたよね?」
「はい。こちらでも、そのプレイヤーには丁重にお断りを入れたうえで、何に使用するか聞いております」
「そうですか。それで、そのプレイヤーは、なんと言ってましたか?」
「そのプレイヤーは家を借りて、そこに『保管場所を確保したい』と、言っておりましたな」
「……保管場所? それは、倉庫みたいなところがほしいと、いうことですか?」
そのプレイヤーが希望するとおりなら、実は他のプレイヤーもアイテムボックスだけは保管容量が足りないということなのか? それとも……。
「マスターミヤト。それが……。そのプレイヤーの話には続きがありまして、何でも『仲間のプレイヤー同士で共有するアイテムなどを保管したい』と言っておりましたな」
「はぁ……。そうなんですか? それで家を借りたいと、それなら宿の部屋でもプレイヤー同士で共有できませんか?」
「はい。こちらでも、そのように説明しました。しかし、お金が掛かるからできればと申してまして……。とりあえず、こちらからゲームマスターの方へ報告しておくと、伝えましたら諦めたようです」
「そうですか……。分かりました。それについて、何とも言えないですね。マスターマコとも相談してみます」
これは、このゲーム環境が抱える問題のひとつでもある。宿屋は現実世界と同じく物理的に宿泊人数が制限されているためリアルを追及した結果が、これだ。
大勢のプレイヤーが1つの部屋に集まるにも限度がある。それに、ベータテストの期間中だけで考えてみれば、まるまる1軒の宿屋を占拠することが難しく。このゲームでのプレイヤーにはクリエイト機能がないため、例えば、ゲームの中で材料を入手してもアイテムを収納する保管箱などは、作ることができない。
また仮に宿の部屋でアイテムを保管していても盗難を防止することはできないため、他のプレイヤーから開けられない特殊な保管箱が欲しかったりする。
となると、拠点が欲しくなる気持ちも何となく分かるような気がした。
また、このゲームでは建物を購入する機能は提供していない。それに街の職人たちがプレイヤーの要望を聞いて、新規に建物を建造することも許可していない。しかし、プレイヤーが他人の家や建物にも自由に出入りできるし、いずれは勝手に占拠するプレイヤーも出てくる可能性は十分にある。このまま、この問題を放置していても、どこかで大事になることは十分にあり得る。
「ふぅ――……」
僕は大きく吐息した。
これについては僕がどうのこうのと、意見を言う訳にはいかないよなぁ……。
ちゃんとマコ先生にも相談して置いた方が良い。
「では、よろしく頼みましたぞ! 次に、別のプレイヤーから要望ですが『住人のお手伝いをしたい』というのがありましたな」
「それは以前から懸案事項になっていた。生産系イベントを希望したということでしょうか?」
「おそらく……。かと。それに該当すると思われます。ちなみに、そのプレイヤーには、ワシもお会いしてみましたが、個人的な意見を申しますと、そのプレイヤーが何かを体験してみたいだけではないかと思われます。そこで、試しに、こちらから依頼を出してみましたところ。そのプレイヤーには街の外にある農家のところへ出向いてもらい、仕事を手伝ってもらえるようイベントを用意しました。そのプレイヤーは何の苦情なく、素直に依頼を受けてもらえましたぞ!」
「……そうですか。フォスターさん。その場に応じて下さりまして、ありがとうございます。そのことを含めて、マスターマコに報告しておきます」
「よろしくお願いします。それとですが、明日以降も色々とあるかもしれませんが、とりあえずは、その2件だけ先に検討して頂けると助かりますな」
「はい、分かりました。本日はありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ! これからもよろしく頼みますぞ! ハハハッ」
こうして、僕はフォスターとの会話を終えて、冒険者ギルドから屋敷へと戻った。
――僕が屋敷の自室に戻り、普段着に着替えたところで、使用人のタリサが訪れた。
ドアの向こうからノックをして話掛けてきた。
「高槻さま。よろしいでしょうか?」
「はい。タリサさん。何かありましたか?」
「高槻さま。食堂で阿比留坂さまが、お呼びですが、どうされますか?」
「あ、そうですか。はい、着替えが終わったので食堂に行きます!」
「かしこまりました。私の方から先にそのようにお伝えいたしますね」
「お願いします。ちょっと、部屋を片づけてから、すぐに行きます」
僕は少し遅れて、屋敷の1階にある食堂へと向かった。
食堂に入ると、そこではマコ先生が遅い晩御飯を終えて紅茶を飲んでいた。
「マコ先生。何でしょうか?」
マコ先生は、ゆっくりとティーカップを置いてから僕に話しかけた。
「ミヤトくん。プレイヤーたちの様子は、どうでした?」
「はい。それが、僕が思っていたよりも皆さん。徘徊していませんでしたよ。繁華街を歩いていても、ほとんど遭遇しませんでした」
「そう、それは残念でしたね。では、冒険者ギルドから何か報告はありましたか?」
僕はマコ先生に聞かれて、フォスターからの報告をひととおり説明した。
「――そうね。家を借りたいプレイヤーの対応については、こちらでも早急に対策を立てて置きましょう。ミヤトくんも茶々藤さんから聞いていると思うけど。このゲーム環境では、犯罪ありありオープンワールドにする気はないわよ。但し、プレイヤーのジョブは制限を必要としましょうか」
「それは、何かクリエイト職みたいなものを用意するということですか?」
「多分ですが、結果的にそうなりますね。それに2つ目の要望とも一致するので、私が思うに錬金術師などのジョブを用意できれば良いかと思いますが……。やはり、この件については、私の方から報告を入れておきますね」
「そうですが、……となると。関係する末吉さんからもクレームが来ませんか?」
「ミヤトくん。それなら大丈夫よ。本番前にちゃんとテストしておけば、彼女も文句を言わないから」
「分かりました。よろしくお願いします」
「それと、ミヤトくん!」
「はい」
「これからも毎日、冒険者ギルドに行って色々とフォスターさんから聞いて来ることをお願いします」
「分かりました。僕もそうしたいと思ってました」
「では、よろしく!」
僕はマコ先生に就寝の言葉を言って、食堂を出て自室へと移動した。
そしてベットに横になり色々と今日の出来事を思い出す。
最後にマコ先生が言っていたことは、プレイヤーの行動を注意深く観察するようにというものだろう。
このゲームでは、他のゲームよりも出来ることが多い。
だから問題ごとも多くあり、なるべく早く改善していくことが求められる。
今回のプレイヤーたちの行動を管制室から見ていた僕としては、どこにいても監視できると安易に考えていた。
それでもプレイヤーたちの行動を見逃す場合があって、さらに行動を予測すること難しい。
それに実際に冒険者ギルドに足を運んでフォスターさんと会話したことでも、実際に現地でどのように対処しているかなど、少しだけ知ることができた。
これが普通のゲームと異なり大変なところでもあけど。このゲームだからこそ、苦労するところでもある。
それに、このゲームだけなのかもしれないが、もしもプレイヤーが家を借りられようになったら……。このゲームの世界で暮らそうとするプレイヤーが増えるだろうか。
僕としては嬉しいような不安があるような複雑な気持ちだ。
……と、色々と考え込んでいるうちに、僕は疲れが溜まっていたせいなのか、気づいたときには眠っていた。
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