第7話 領主の館とボスキャラ
そのあと大通りを進み、街の外れの方へ進むと――
脇道に入った途中で子供たちが、駆け足で通り過ぎて行く。
「これも、NPC何だよな……」
と、僕はつぶやく。
そのあと少し住宅のような感じの建物が並ぶ通りを抜ける。
そして、僕は丘の頂上へと向かう道の手間に着いて、坂道を見上げた。
「ひゃ――――随分と急ですね」
そこから先の道は、階段がある訳でもなく、急坂になっていた。
「まあ、少し無理があったかな? あとで直しておきましょう」
と、マコ先生は言って、先に登り始めた。
僕も後に続いて登って行く。
そして、坂道を登って行く途中。道の脇から『フォーク』の街が見える。
僕は額の汗を拭い、マコ先生に声を掛けた。
「マコ先生。すこし休憩しませんか?」
「そうね。そうしましょうか」
少し見晴らしの良い場所を見つけて、僕とマコ先生は休憩する。
「ふぅっ――――」
僕が思っていたよりも丘の上は遠く。
それに温かい気温のせいか背中が汗ばんでいた。
「どう? ミヤトくん。この街がゲームの環境なのよ」
「はい。驚いているばかりですよ。確かにこうして、眺めて見ると『フォーク』の街って、かなり広いですよね」
「でも、これが、私たちのゲームの売りなのよね。驚くでしょ!!」
「いや、これって完全に反則ですよ! でも、凄いですよね。あんなに簡単に作れてしまうなんて、それにこうして、ここから見ていると、何だか『フォーク』の街って、観光地ですよね。そうだ。マコ先生。もしかして、パレードとかもあったりしますか?」
「どこかのゲームみたいに毎日はないけど。数ヶ月に1度は、お祭りなどはあるかしら?」
「それも凄いですよ。お祭りかぁ……。楽しみです!」
「はい、はい、ミヤトくん。これで休憩は終わりにします。ちゃっちゃと領主館を作って帰りましょう!」
僕はマコ先生に声を掛けられ立ち上がり。
再び、2人並んで坂道を歩き出す。
「ミヤトくん。先に言いますけど。ここの領主館を作ったらすぐに撤退しますよ!」
「分りました。あまり時間が無いんですね」
「……そ、そんな感じです!!」
マコ先生は歯切れの悪い返事を返した。
そして、ようやく頂上に到着する。
そこは森が開けたような更地があるだけの静かな場所。
「ミヤトくん。始めに、これを渡しておきますね」
僕はマコ先生から空飛ぶ魔法が使えるスクロールを渡された。
「ん?……」
よっぽど急いでいるのかな?
マコ先生は、更地の前に移動して『グリモア』を開いて作業を始める。
目の前の地面が白く輝く。
すると、これまでとは違い、ざわざわと一気に芝生が生え始めた。
庭園のような草木と白く大きな噴水が地面から浮かび上がる。
さらに奥には横長の2階建ての洋館が出現した。
同時に敷地を囲むように塀も出来上がる。
そこは、僕が暮らしている建物よりも、さらに豪華さを感じさせる大きな建物が完成した。
こう何度見ても素晴らしい光景だ。
まあ、これはこれで、お貴族様だからねぇ……。と、勝手に納得する。
「――さあ、完成しました! ミヤトくん。出発しますよ!」
「あれ? マコ先生……。領主の方に、挨拶とかしないんですか?」
「ここだけは不要です!! あとから来ることになりますので、このまま放置しておいても問題ありません!! さあ、出発します!」
マコ先生が、やけに雑な言葉で説明した。
そのとき、領主館の方角から黒い人影が物凄い速度で走ってきた。
「待って下さぁぁああ――――――――いぃ!!」
その声を聞いてマコ先生が悪態つく。「ちぇ」
僕はその瞬間を見て、ゴクリと喉を鳴らす。
こちらに近づいて来る人影は、どうやら執事服を着た白髪の老人だった。
あの姿で足の速さは尋常ではない。何者なんだ?
僕の心の声を読み取ったのかマコ先生はこう言った。
「あれは、執事長ね」
僕は、ふと気になり、領主館の2階にある窓に視線を向ける。こちらを覗く人影を見つけた。向こうも僕に気づいたらしく、すばやくカーテンの影に隠れた。
マコ先生と、ここの領主の間に何があったのかは分からないが、僕が関わってはいけない何かがあるようで、多分そうなのだろう。
目の前に到着した執事長は、呼吸を整えてから挨拶を始めた。
「マスター・マコ。この度、領主に代わり奉職の任に関しまして、心より感謝申し上げます。わたくしめ同様よろしくご支援を賜りますよう。お願い申し上げます」
マコ先生は執事長とは顔を合わせようとせず、僕の紹介を始める。
「分かった。分かった。それと、こちらが新たしくゲームマスターになる……」
「高槻ミヤトと申します。よろしくお願いします!」
「うむ。私はバロッサと申します。お見知り置きを」
ほっとしたような表情を見せる執事長が、僕にアイコンタクトをしたように思えた。
僕もチラリとマコ先生を見て笑顔が引きつる。
マコ先生は腕組して、とても機嫌が悪そうだった。
「たくぅ。ミヤトくん。行きましょう!」
「では、バロッサさん! のちほど、挨拶に伺います!!」
「こちらこそ、お待ちしております」
冷ややかな態度でマコ先生が受け答えしたので、この場は僕が繕う形で挨拶を終えた。
執事のバロッサとは改めて挨拶に伺うことを約束してから、僕とマコ先生はスクロールを使って空へと飛びたった。
宙に飛び出すと地上では、僕とマコ先生に手を振って見送る執事長の姿を見つける。
さらに屋敷の方では外に出て一列に礼をする使用人たちの姿があった。
当の領主といえば、屋敷の窓から僕たちの方を見つめているのだろう。
僕はあとで厄介なことにならなければ、と願うばかりだ。
――そして次に、マコ先生に案内してもらい到着した場所とは。
街から少し離れた森の奥にある渓谷だ。
そこには渓流があり、その先に滝がある。
水が流れが落ちこむ淵に、ボスキャラを配置するとマコ先生は説明してくれた。
ここでのゲームシチュエーションとしては、プレイヤーが草原の方から森に踏み込み、モンスターと遭遇して追い回される。
最後の場所にボスがいるので戦闘を交えることを想定しているらしい。
森の端にある崖から下に降りる坂道を通って、奥に滝があり、そこにはボスキャラである巨人が配置してある。
それに滝の周りは崖だ。そこから僅かに攻撃できる箇所があるが。
しかし、その場所にはトラップが設置してある。戦闘中に巨人が岩壁を叩くと、地盤が揺れてプレイヤーが滝の淵に落ちる仕組みになっている。
また、それらを回避すると、ボス戦エリアから外れてしまい、やり直しとなる。
これは、マルチプレイ対策としているらしいが、シングルプレイヤーの場合であっても崖の上からちびちびと攻撃していると、森の方から敵キャラが集まってくる仕掛けがあるという。
だから、必ず正面から戦闘モードに入りボスキャラと対峙しなくては、倒せないようになっている。
それに、ここで何か裏技を見つけた場合、運営側として姑息に対策を加え必ず、対面で戦闘に入るように仕向ける予定なんだとか。
どうして、このようにこだわっているのかと言えば、このボス戦でプレイヤーに戦い方を学ばせる必要がある。それはこのゲームにおいて攻撃のタイミングと間合いの取り方であり、主に足場の悪い場所での攻撃の組み立て方について、ここで習得してもらう必要がある。
そうすることでプレイヤーが、次のボス戦で挫折しないようにトレーニングを兼ねている。
ここで対応しておかないと、運営側としてボス戦の難易度を上げることが難しくなるため、一方的な都合でもある。
しかし、プレイヤーがこのボス戦で挫折すると地味な苦行が待っているらしいと、マコ先生は教えてくれた。
「中々、エグい仕様になってますね」
「あらそう。最近はこれくらいしとかないとマルチプレイ対策にならないのよ」
さらっとマコ先生は言う。
しかし、僕がプレイヤーなら何回死んで倒せるのだろうと考えてしまう。
「さあ、ミヤトくん。準備に入ってね」
僕はマコ先生に急かされて、ボスキャラの配置を始めた。
教えてもらったとおりに『グリモア』から、アイコンを開いて『ヨトゥン』と検索してから、画面に表示してある呪文を唱えた。
北欧神話に登場する巨人の名が付けらたこのボスキャラは、初戦の相手にしてはかなり手強い。参加プレイヤーの60%くらいなら勝てるだろうと用意したキャラクターでもあるらしいが、マルチプレイならパターンを掴めば、もっと楽に勝てるそうだ。
そして僕が、初めて『グリモア』から生成したモンスターであり、その巨人は滝つぼのところに出現した。
巨人の姿は上半身が裸で古傷だらけの筋肉だるま。
髪はぼさぼさで髭が濃く、その全容からして中々の強面だ。
しかも、斧を持っていやがる。
「マコ先生、用意しました」
「それじゃ。ミヤトくん。試してみる?」
「えッ……い、いえ。どうやって試すんですか?」
「嘘ですよ。すでに検証済みなので設置だけで良いです。私の方も完了しました!」
マコ先生の方は、ボスキャラ討伐後に出現する滝の裏にある宝箱の位置をマーキングするだけだった。
そう、宝箱はいつも置かれているわけではない。ボスキャラが消滅したのを何かで検知してから『アイテム倉庫』と呼ばれる場所から自動的に転送する仕組みなんだとか。
これも、ゲーム環境の世界だからこそ、出来ることであり不思議に思わないかも知れないが、ここは実際にリアルな世界なのだから、とても不思議に思う。
ちなみにボスキャラは、こちらの世界には生物分類学上、『魔物』と言われる生命体が存在するらしく。人間であれば、「動物界脊索動物門哺乳綱サル目ヒト科ヒト属ホモ・サピエンス」という分類方法の
『グリモア』から『ヨトゥン』と検索したとき、写真の下にある詳細に。
『魔物界脊索魔物門哺乳綱霊体目巨人科巨人属ディーエクタス・ギガス』
と、書かれていた。
滝の巨人……精霊なのか?
こうして、僕たちはベータテストに向けて、残りの準備に追われていくのだった。
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