第4話 アドバイザー

 翌日。僕はロザリアから屋敷の中を案内してもらい説明を聞く。

 そのあとは2階にある書斎でロザリアから渡された資料を読んでいた。


 資料に書かれている説明によるば、こちらの世界を使ってゲームのプレイヤーが『アバター』と呼ばれる人工生命体を操り、この島をオープンワールドゲームとして体験するものだった。

 さらに読み進めていく。現在はベータテストに向けて街やモンスターなどを準備中である。


 僕は、どうしてこうなったと疑問も多いが、やっていることが非現実的であり、しかし、嘘のようにも思えるが、これが実現として可能なことに驚き興奮していた。


 夢中になって、何度も資料を読み返して見ると。

 ふと、室内の空気が変わったように感じた。

 なにか、不安になるような……。背筋がゾクッとした。


 すると、目の前の空間が歪み出した。

 まるで夢でも見ているかのように景色がグニャりと回転する。


 そこから徐々に虹色に輝く、人のような物体が浮かび上がる。

「あれ? なんだか……。女性のような……」


 謎のフレーズと共に女性が現れ床に降り立った。

「マコ先生。参上!! 呼ばれて飛び出てジャン・バルジャン!」

「えっ!?」


 その女性は着地すると、誰かを探しているように左右を見渡す。

「救いを求める仔羊はどこ?」


 僕は女性のうしろにいる。恐る恐る声を掛けてみた。

「あのぅ……。初めまして、高槻ミヤトです。アドバイザーさんの方ですか?」


 女性は僕に気づいて、こちらを振り向いた。

「そうよ! 茶々藤さんから連絡をもらったので、参上しました!!」


 その姿は、背が低く小柄であり、姉と同じチェスナットブラウンのミディアムヘアーに、どことなくオタクぽさが際立つ人だった。


「私は阿比留坂あびるざか 真己まこ。今日から、あなたを指導する立場になります。私のことを、『マコ先生・・・・』と呼んでください!!」

「……マコ先生ですか?」

「それでは、本日、私が担当する作業を手伝ってもらいます! 始めにこちらの資料を見て下さい!!」


 淡々と説明を進めるマコ先生に、僕は少しばかり緊張する。

 もしかして、厳しい人が来たのかな……。

 茶々藤の雰囲気からして少し甘く考えていたのかもしれない。


 それにマコ先生はどこから取り出したのか。大きな地図を部屋の中央にあるテーブルの上に広げた。それと街の平面図などもその上に置いていく。


「――では、説明します」

 マコ先生は、本日の主な作業について説明を始めた。

 難しい専門用語がなく、僕にでも分かるような言葉で説明してくれた。


 現在、マコ先生たちが製作中のオンラインゲームとは、この世界に生息する生物を敵にして戦うファンタジーゲームである。

 主要な武器は魔法を使い、しかもボスキャラが200体以上もいる。


 しかし、この島の面積からして、ボスキャラだらけになるのではと思われるかも知れないが、ゲームのイベントマップには地下も想定してあり、さらにボス戦は仮想空間への転移があるという。


 よって、ゲーム上のマップ総面積は、かなり広くなっている。

 それと全てのボス戦を仮想空間で行わるのかといえば、そうでもなく、島の指定区域にもボスキャラを配置するそうだ。


 そんな説明を聞き、僕はこれからマコ先生と一緒に、プレイヤーが初めに訪れる街を作ることになった。これから現地に向かうことになる。


「マコ先生。質問します。地図で示した場所ですが、ここからだと。かなり遠くにありますけど、移動方法はどうしますか?」


「今回はミヤトくんのためにも『魔法』を使います!」

「……魔法ですか?」

「魔法です!!」


 ロザリアたちも使えるとか聞いたが、こちらの世界では普通なんだろうか。


「では、早速、お見せしますので、私について来て下さい!」

 と、言ってマコ先生は先に書斎を出る。僕も慌ててあとに続き書斎を出て廊下を歩く。

 途中でロザリアと遭遇した。


「これは、阿比留坂さま。予定より早い到着でございますね」

「そうね。ロザリア。ミヤトくんを借りていくわ!」


「かしこまりました。茶々藤さまからも、お聞きしております。できれば、昼食までには一度、戻って来て下さいませ」

「う……ん。なるべく、戻れるようにします」


「よろしくお願いします。あと、本日は海辺の方は風が強いので、お気を付けください」

「ありがとう。 ロザリア!」


 あっさりとした会話でロザリアとすれ違う。

 そのあと玄関から庭に出て屋敷の裏の方へと進んで行く。


 そこには芝で覆われた広いグランドのような場所があり、さらに奥に進むと一カ所だけ芝生がなく、土が露出している場所がある。


 マコ先生はそこで立ち止まり、僕の方を向いて話し出す。

「では、ミヤトくん。これから『魔法』の説明を始めます!」

「よろしくお願いします!!」


 マコ先生は近くの空間から、丸められた茶色い布のようなものを取り出した。

 やっぱり、マコ先生も『グリモア』を持っているのか……。


「はい。これが『スクロール』になります」

 少し古びた羊皮紙という動物の皮を使った紙で、僕は始めて現物を見た。


 そのあとマコ先生は紐を解いて羊皮紙を広げ、僕に見せてくれた。

 そこに描かれているものは幾何学模様のような図形だ。どことなく、ゲームとかに出てくる魔法陣に似ている。


 僕は「何かそれぽくなってきたなぁ……」と、思いつつマコ先生の様子をじっと見つめた。


「これより、この魔法が使える『スクロール』というものが、どのようなものなのか説明します。では、ミヤトくん。危険ですから少し離れて下さい!」

「はい!」


 何の魔法を使うのか、僕はドキドキしながら言われたとおりに少し離れた。

 するとマコ先生はスクロールを自分の方に向けてから、指で描かれている図形をなぞり、スクロールの端を両手で掴んで引っ張るように空に向けた。


 ――轟音と共に火炎放射器のような火柱が飛び出る。

「す、すげぇ――……」


 しばらくして、こちらにも熱放射が伝わり僕は怯んだ。

「わッ!」


 マコ先生も慌ててスクロールを投げ捨てた。

「あっうぅ―――!!」


 それと同時に炎が止まった。

 どうやら、やらかした雰囲気のマコ先生と目が合う……。

 咳払いして誤魔化された。


「はい。このとおり。ちゃんとスクロールで魔法が使えます。それから遮蔽空間の中では、私たちは火傷しないので問題ありません」

 でも、熱は伝わるし、かなり熱かった。


「マコ先生。なぜ、スクロールを放したんですか?」

「久しぶりに使ったので忘れていました。熱さを感じて驚きました」


 マコ先生の話によれば、こちらの世界。主に遠く離れた大陸に住む人々は魔法を使う際に魔道具であるスクロールを使うそうだ。


 それがどういう仕組みなのかは分らないが、大気中にある『魔素』と呼ばれる物質が存在し、魔法と呼ばれる現象を引き起こすと説明してくれた。


 それに、こちらの世界では『魔素』の研究が進んでいるらしく、さきほどの幾何学模様の図形が『魔法陣』と呼ばれるものにあたり、その『魔法陣』を用いて発動する方法を発明したことで、一般的にスクロールを使用した魔法が普及したそうだ。


 また、スクロール無しでも魔法を使うことは可能であり、体内に『魔素』を取り込み順応させる必要があるらしく、訓練が必要なため簡単には使えないという。


「だいたい、こんか感じかしらね」

「ふ……ん。そうなんですね。勉強になりました」


「それと、ミヤトくん。これから向かう場所は仮想空間を経由して転移する場所が設置していない場所になります。よって、自力で移動しなければなりません。これから移動するため、これらの魔法を使います!」

「マコ先生。それだったら、車とかヘリコプターとか。ほかに無いでしょうか?」


「ミヤトくんも、そう思いますが、残念なことに、それらの近代的な乗り物は、こちらの世界にはありません。持ち込む方法も無いので諦めて下さい。それと『グリモア』を使っても作りだせないので、そういうところが、不便なのは知っておいてください」

「そうなんですか……」


 マコ先生は説明しながら『グリモア』を使って、新たなスクロールを2つ用意していた。


「マコ先生。これは何のスクロールですか?」

「それはですね。これから空を飛んで移動する魔法になります」


「と、飛べるんですか?」

「はい。飛べます。但し、飛べるというよりは、飛ばされると言った方が良いですね」


「えッ!? ……飛ばされる?」

「そうです。では、ミヤトくん。私が先に移動を始めるので同じようにこのスクロールを使ってついて来て下さい。それと、使用回数には制限がありますので、途中で追加のスクロールを渡します」


「はぁ……。分かりました」

 僕は受け取ったスクロールの紐をほどいて、内側の魔法陣を見る。

 これで魔法が使えるのかと疑問に思う。


「それでは、移動用魔法の使い方について説明します。まずは、このように全体が見えるようにスクロールを広げてください!」

「はい」

 マコ先生の説明どおり真似てみる。


「魔法陣の、この部分に、そっと息を吹きかけます。すると、この状態で体に魔法が付与されてスクロールは消滅しま……」


「おぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――ッ!!」

 つい、声を上げて驚いてしまった。


 マコ先生がスクロールに息を吹きかけた瞬間に体が光り出して、空へ向かって大きく放り出された。


「あ……あれ!? 飛ぶって、そうなるのか?」

 それは飛ぶというより、無造作に空へと放り投げらた感じだ。


 マコ先生が、どこに落下するのか分からない。僕もすぐにあとを追うこと決める。

 ……どうなるんだ? 落ちても大丈夫なのか?


 とはいえ、ここはマコ先生を信じて、僕も行くしかない。

 頭の中では、目的地がどこら辺にあるかは分かっているが、実際にどのようなルートを通って行くかは聞いていない。


 僕は慌てて、マコ先生と同じようにスクロールに描かれている魔法陣に息を吹き込んだ!

 すると、体がなんとなく軽くなった感覚になり光りだした――――。


「うぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!!」

 見ていたのと体感するのでは別だ!


 これは思ったよりも早い。高速で空高く放り出された。

 しかも上空まで到達すると自然落下が始まる。


 空中から前方を見ると、一度、着地して再び空に上がってくるマコ先生の姿を見つけた。


「これって、何かのアトラクション?」

 無事に着陸できることを祈りたい……が、地面に落ちた。


「あれ!? あれ、あれ。何だ? これ?」

 怪我をすると思ったが、まるでトランポリンにでも乗っているかのように、地面から再び、弾き飛ばされた。


 たしか、使用回数あるって、言っていたような……。

「うわぁ!」


 マコ先生と同じ場所に着地するようにしないと、あとから大変なことになるのか。

 他に何か別の方法があるのではと疑いたくなる。

 だが、これがこの世界での移動方法なのかと諦めた。


 でも慣れてくれば、段々と楽しくなってくる。連続大ジャンプ!

 マコ先生も宙返りとかして楽しんでいた。

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