第3話 別世界

 僕はゲームの世界にある仮想空間から別の世界へとログアウトした。


 それがどういう仕組みなのかは分からないが、僕は自分の部屋からゲームにログインして、さらに別の世界に転移した。しかも、ゲームの中の仮想空間へと――そして今に至る。


 茶々藤の話によれば、ここは別の世界であり、現実世界だという。

 だが、何となく胡散臭いが、少しだけ分かるような気がする。

 僕の感覚が、ここは現実世界だと認識しているからだ。


 まだ、ピンと来ていないが、この世界で得た僕の肉体は本当に僕なんだろうか。

 とても不思議に思うところだが、それを確かめる方法すら分からない。


 ところで、この世界には僕たち以外にも生命体は存在する。それに今いるこの惑星では、僕ら以外にも同じ人間がいるらしく、こちらから干渉しないように細心の注意を払っていると教えてくれた。


 それに、ここはゲーム環境のために用意しただと、言っていた。

 しかし、今いる高台から見る限りでは、かなり大きな島で、もしかすると、どこかの大陸のような感じもする。


 また、周りは何もない大自然だけ。そうなると……もしかして、ゲームマスターって「サバイバルゲームのゲームマスターじゃないよね」と、ツッコミを入れたい気持ちになる。


 僕がブツブツと独り言ちしていたら、隣にいる茶々藤が声を掛けた。

「――それでは、高槻くん。これから君が暮らすことになる家に案内しよう!」


「あの……茶々藤さん。本当に、こんな場所で暮らして行けますか?」

「う――……ん。それは君しだいだね。だから、ここは建設途中のリゾート地だと思ってくれると助かるかな?」


「そうですか。それなら少しは安心しました。茶々藤さん。ここでオンラインゲームをするとか言ってましたけど……。このリゾート地にプレイヤーを呼んで、何かイベントみたいなことをするんですか?」


「それについてだが、高槻くんが思っていることと微妙に違うんだ。この島がすべてゲームのステージになる」


「えッ!?  この島がですか?」

「そう、こちらの世界では、それが可能なんだ。まぁ、詳しい説明については、これから追って説明するよ!」


 茶々藤は僕に不思議なことを言い放ち。高台から先に下へと歩き始めた。僕もあとに続く。

 そして斜面から平坦なところまで下りると畦道あぜみちがあり、道に沿って進んで行く。

 僕は空に何か透明なものがあるのを見つけた。


「茶々藤さん。上空に何か薄い膜のようなものがありますけど。アレなんですか?」

「アレね。この島を守る『遮蔽空間』だよ」

「遮蔽空間? それって、何ですか?」


「高槻くん。遮蔽空間とは、その名のとおり、この島を外部から見えなくするために用意した防護壁になる。それに、なぜ、遮蔽空間が必要かというと、ここでは害獣対策として島を守るために必要なんだ」


「茶々藤さん。それって、島の外に出ると何があるんですか?」

「海には巨大な生物がいるよ。それと、空にはドラゴンとかもいるね」


ドラゴン・・・・ですか? ここに恐竜・・がいるんですか?」

「いやぁ。あれらとは完全に違う。あれは明らかにドラゴン・・・・なんだ!」


「……ドラゴンって。それって! 本当に実在しますか?」

「高槻くん。言っとくけど! この世界では、普通にいるからね。それとゲーム環境として別のドラゴンをこれから用意する」


 なにゆえにそうなる? その意味も分からず、新たな疑問が浮かぶ。

 そのあとは、何をどう聞いてよいのかも分らず、諦めた。



 ――そして、茶々藤に案内してもらい到着した場所は。

 森の中に1軒だけある西洋風の屋敷だった。屋敷の周囲は白い柵で囲まれており、中には小さな庭園と呼べる感じに花や庭木が並んでいる。


 僕と茶々藤は正面にある石造りの門を潜り抜けて、屋敷に向かう石畳の回廊を歩いていく。

 大きな玄関ポーチの前に来ると、茶々藤が玄関ドアを開けた。


 すると、そこにはメイド服姿の女性たちが3人並んでいる。

「ようこそ! 茶々藤さま!!」


 代表の女性が挨拶すると、他の2人も合わせて深く礼をした。

 茶々藤が片手を上げて声を掛けた。


「これは、ロザリア。出迎え、ご苦労。早速、君たちにも紹介しようか。彼が我々の仕事を手伝ってくれる。高槻くんだ!」


 僕は礼をしてから挨拶を始める。

「高槻ミヤトと言います。よろしくお願いします!」

 それに答えるように代表の女性が自己紹介を始めた。


「私は、筆頭使用人のロザリアと申します。こちらが、カロライン、タリサになります。本日より、私たち3名が、高槻さまのお世話をさせて頂きます」

 使用人たちは綺麗に揃って最敬礼した。


「高槻くん。今日から彼女たちがサポートするから仲良くしてほしい!」

「は、はい。分かりました!」


 僕が使用人付きの屋敷に棲むことになるとは……。余りにも予想外だった。

 少し動揺している。何だろう……。この待遇の良さ。


「では、茶々藤さま。高槻さま。こちらへどうぞ!」

 と、ロザリアに屋敷の中を案内してもらい、僕と茶々藤は1階にある応接室へと入る。

  その部屋は、壁際に調度品が並び、中央には高価な革製のソファーとテーブルがある。


 僕は茶々藤に勧められてソファーに腰を下ろした。

 すると、部屋の奥のドアが開き、ティーカートを押したカロラインが入ってきて、お茶の準備を始める。


 テーブルの上に用意されたお茶をひと口飲んでみると、それは甘いアップルティーだった。

 何となく、ほっと一息つく。


 そのあと少し休憩してから、僕は茶々藤に聞いてみた。

「――茶々藤さん。僕はこれから、どうしたら良いですか?」


「そうだね。高槻くんには、まずはここの暮らしに慣れてほしいかな。そのあと今後の予定についてだが、ロザリアから聞いてくれると良い。それに、後日、アドバイザーが訪ねてくるように手配してあるので、仕事の方については説明してくれるはずだ」


「そうですか。分かりました。よろしくお願いします」

「それと、高槻くん。君と一緒に暮らす。こちらにいる使用人たちは、私たちと少し違うところがある。彼女たちは『リリィ』と呼ばれる種族であり、私や高槻くんとは、また別の世界からきた人たちなんだ。それに、どちらかというと。こちらの世界に暮らす人たちにかなり近い種族になる」


「えッ? もしかして……人間でないとか?」

「安心してくれ。私たちと同じ人間になる。しかし、何と言ったら良いか……。どのような進化の過程を得て、人の姿をしたかは追々説明するよ。それに彼女たちも私たちと同じく自由に仮想空間を出入りできるのと。こちらの世界にある『魔法』が使える」


「茶々藤さん。『魔法』って言いましけど……あの魔法ですか?」

「そう。高槻くんが、想像しているとおりの『魔法』だと思うけど」


「えぇ!? そうなんですかぁ――もしかして、僕も使えたりしますか?」

「高槻くんも興味があるのかな? いずれ、こちらの世界にいれば、使えるようになることは可能だが、習得するのは少し難しいと思うよ。それから、高槻くんも、コレ・・を持っているよね?」


 茶々藤は上着のポケットから、タブレット端末を取り出した。

「あれ? これは……もしかして?」

 どこか見覚えのある形をしている。


「それって『グリモア』ですか?」

「そう、これは『グリモア』だ! しかし、私が持っているのは、ある方が持っているレプリカで機能的には劣化版になる。それと、我々は高槻くんが、所持していることをすでに知っている。だから、ゲームマスターをお願いした」


「えッ!? ……そういう理由なんですか?」

「そういうことだ。ここで、ざっくりと説明するけど。こちらの世界では、この『グリモア』が無いとゲーム環境を作れない。また使い方についてはアドバイザーの子が来てから教えてもらえるようになっているので、そこで教わる方が良いだろう」


 ロザリアが、そっと茶々藤に近づいた。


「茶々藤さま。私もからも、ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」

「いいよ。ロザリア」


「はい、高槻さまは、どこまでゲームマスターとして知識をお持ちでしょうか?」

「あぁ。それだね。彼は今日が初めてだから、ロザリアからも教育してほしい」

「はい。かしこまりました。では、阿比留坂さまは、何を担当して頂けるのでしょうか?」


「私の方からマコちゃんとも調整しておくけど。彼女をベータテストの責任者に任命したから今週から不足する施設やイベントなどの準備で、しばらくは滞在することになる。それについて、犬養くんから資料が届いているよね?」

「はい、頂きました」


「ロザリアには急に変更になって申し訳ないが、まずは資料を確認してほしい……あと、内容について質問があれば、マコちゃんにも連絡を入れといてほしいかな」

「承知しました。ありがとうございます。では、確認してからご連絡致します!」


「うん。よろしく頼む。それと、高槻くん」

「はい」


「高槻くんも色々と聞きたいことがあると思うけど。今日だけはゆっくりと休息を取ってほしい。それに、ここでの生活について分からないことがあれば、ロザリアに聞いてくれると、ほとんどのことは解決できる。また、業務の方についてだがアドバイザーの子と会話を合わせれるように、一度、資料には目を通しておくと良いだろう」


「分かりました。資料を読んでみます。それで、読んでも分からないところがあれば、茶々藤さんに相談しても良いですか?」


「それなら、ロザリアを通して、私に連絡をくれると返事をするからよろしく頼む。とりあえずは、こんな感じかなぁ。では、私は帰るとしよう」

「……はい、ありがとうございます。茶々藤さん。本当に助かりました」


 茶々藤は残りのアップルティーを一気に飲み干してから席を立ち、使用人のカロラインに案内してもらい部屋をあとにした。


 僕も茶々藤を見送ったあと、再びソファーに腰を下ろす。


 なんだか一気に疲れが出てきた。

 そういえば、ログインしてからかなり時間が経っている。


 気づいて窓の外を見ると、こちらの世界は昼だ。

 時差ボケなのか、茶々藤の言ってたとおり疲れがたまっていたのか、段々と眠気が出てくる。

 今日は休んだ方が良いかもしれない。


 僕はロザリアにお願いして、仮眠を取るつもりで寝室に案内してもらった。

 だが、部屋にあるベットに座ると、そのまま眠りについていた。

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