物語の冒頭はとある高校の三年生のクラス発表のシーンから。同じクラスになった、そんな無邪気な(本人たちにとってはきっと重大事項ではあるけれど)裏で、仲の良いクラスメートとその彼氏らしき相手だけがいない、という少し気になるところでプロローグが終わり、少し戻って高校二年の春から改めて物語が始まります。
特に突出していることはないけれど、書道部で期待の新星と呼ばれることになってしまった図書委員の萌音。
地学部の白澤くんと湧水群や史跡を巡って楽しんでいるらしい羽純。
可憐な(?)男子の転校生の世話を焼くことになってしまった、ドーラが大好きな彩花。
そして、ちょっとギャルっぽいけれど、誰からも好かれている茉里奈。
四者四様、高校生ならではの人間関係のざらりとした苦さやきゅんとする恋の甘さは、年を重ねた人には懐かしく、そしてまだその世代の真ん中にいる方には、ああこんなこともあるんだな、と心に深く響くものがあるのではないかなと思います。
とにかく情景の描写が素敵で心地よいのですが、幕間でふとほの見える不穏な気配。あれ、これミステリだよな……? と怪訝な顔をしながらも恋の行方とその不穏な影が気になってページを繰る手が止まらずほぼ一気読みしてしまいました。
思春期の複雑な、けれど瑞々しく柔らかく美しい物語。ぜひ色々な世代の方に読んでいただいて感想を聞いてみたい一作でした。