第46話.ゴーレムとの死闘2

 ルーファスとリリアーナは、その身軽さとスピードで、ゴーレムの周りをけまわりながら『真理』の文字を探す。


 アルフレッドとカルロスは、少し離れたあたりから、ゴーレムの上半身を中心に文字を探した。


「本当に文字なんてあるの?どこにも見当たらないんだけど?」


 リリアーナが少し苛立いらだちの混じった声で言った。無理もない、いくらそれほど速くはないといえども、あの太い腕の攻撃をらったら、それだけで大怪我だ。最悪の場合、命を落とすかもしれない。


 そんな危険にえずさらされているのだ。時間と共に精神的にきつくなってくる。


「例外は無いはずだ。いくら旧魔法文明時代の技術でも、その制約からは逃れられない」


「じゃあ、見えないところに書いてあるんじゃない?体の中とか」


「それも無い。表面の見えるところにきざまなければならないっていう制約もあったはずだ」


「じゃあ、どこに書いてあるのよ!?」


 リリアーナの叫びにも似た声が響く。その声から、彼女の焦りがうかがえた。


「それを今、探してるんじゃないか。絶対にどこかにあるはずなんだ」


 アルフレッドが何とかなだめようと言葉を重ねるが、アルフレッドにも焦りがあるせいか、なだめられていない。


「見える範囲は、だいたい見たけど文字は見つからなかったよ」


「ああ、俺にも見つけられねぇな。後は、頭の上か足の裏くらいか」


 リリアーナとアルフレッドの会話に割り込んできたのは、ルーファスとカルロスだった。


「頭の上?でも、どうやってあんな高いところ見ればいいの?」


 リリアーナがゴーレムを見上げる。その高さは五メートルを超えている。


「あれによじ登るとか?」


 アルフレッドもゴーレムを見上げる。


「無理よ。止まっているなら登れるかもしれないけど、動いてるんだよ。そのうえ、攻撃してくるのに、登るなんて出来っこないよ」


「よじ登るのは無理だけど、転ばせることなら出来るかもしれない」


 そう言ったのは、ルーファスだった。


「このゴーレム、上半身が異様に大きいのに対し、下半身はずいぶんと細くなっている。つまり、ひどくバランスが悪いんだ。足を狙えば、あるいは転ばせることが出来るかもしれない」


「やってみましょう」


 アルフレッドがゴーレムをにらみながら同意する。彼にもそれ以外の妙案みょうあんは浮かばなかった。


「カルロスは、正面から魔法でやつの気を引いてほしい。アルは後ろから単発式魔銃アルプトラムで、ゴーレムの左足を狙ってくれ。リリアーナさんと僕もアルに続こう」


 ルーファス以外の三人は頷くと、それぞれの持ち場に移動を開始する。


 カルロスは、ゴーレムの正面にまわって初級魔法を連発する。威力は低いが、その派手な見た目と音で、しっかりとゴーレムの注意を引いている。


 時折ときおり、目から光線を放つが、来ると分かっていればけるのはそれほど難しくない。


 一方、アルフレッドはゴーレムの後ろにまわりながら単発式魔銃アルプトラムの銃身を折る。カランという小気味いい音を立てて、空薬莢からやっきょうが床に転がった。


 そこにポケットから取り出した弾丸をめると、手首のスナップを効かせて銃身を起こした。


 ガチャンという音が、準備が出来たことを知らせた。


「ルーファスさん、行きます」


 その声で、ゴーレムのそばで牽制けんせいしていたルーファスとリリアーナが一旦ゴーレムから離れる。


 アルフレッドはゴーレムの左足に狙いを定め……引き金を引いた。


 ダァーンという轟音と共に突き進む銃弾は、狙いたがわずゴーレムの左足首の辺りに命中する。


 ゴンッという鈍い音を立てて、ゴーレムの左足が十センチほど前にすべった。


 アルフレッドは急いで、単発式魔銃アルプトラムの銃弾をめなおす。その間に、ルーファスが短槍の石突で、銃弾が命中した場所を思いっきり突いた。


 グアーンという音を響かせて、さらにゴーレムの足が数センチ前に滑る。


「はあああああああ」


 リリアーナがルーファスに続いて、細剣を振るう。


 ギィィーンという金属音を響かせて、さらにゴーレムの足がほんの少し前に滑る。


 再びアルフレッドが単発式魔銃アルプトラムの引き金を引いた。3回の攻撃で、すでにバランスを崩しているゴーレムへの追加の一撃。


 銃弾は、見事に先ほどと同じ場所に命中した。ゴンッという鈍い音を響かせ、完全にゴーレムの左足を押し出した。


 バランスを崩したゴーレムが傾く。


 そこへ、カルロスの放った火球が飛来し、ゴーレムの右肩に命中する。ドォーンという盛大の音と共に大爆発を起こした。


 これが決め手になり、ゴーレムの体が完全に傾いた。


 盛大な音を立てて、ゴーレムの巨体が仰向けに倒れた。アルフレッドは急いで、ゴーレムの頭の上に『真理』の文字を探す。


 ほとんど胸に埋まっている、そのゴーレムの頭の上には文字は無かった。それどころか肩の上にもどこにも文字は見つけられなかった。


「無い。ルーファスさん、こっちには無いです」


「まじかぁ?こっちにもねぇぞ」


 向こうからカルロスの声が聞こえる。足の裏にも文字は無いということだ。


「そんな……どこにあるんだ?」


 アルフレッドは愕然がくぜんとして、立ち尽くした。

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