3章 旅立ち
第16話.出発
翌朝、リカードの屋敷の前には、
旅支度と言ってもたいしたものは用意していない。
いくつかの着替えに
ちなみに、そのズタ袋だがリカードから
しかも、空間拡張と重量軽減、どちらも現代の魔法技術では付与できない。そのため、この魔法の鞄、かなり高価なものだったりする。
「やあ、アルにリリアーナ嬢。おはよう」
「おはようございます。リカード様」
「準備は出来ているようだね」
「はい」
リカードが屋敷から出てきて、軽い挨拶を
「アル、僕が集めている仲間のことは知っているね」
「国中に散っているという
「そうだ。彼らは戦いには向かないが、こと情報に関してはかなり頼りになるはずだ。だから、ぜひ彼らを頼ってほしい」
そう言いながら、リカードは
「リカード様、これは?」
アルフレッドはリカードの意図が分からず首をかしげた。紋章入りの指輪など、何か意味があるか、もしくは高価なものだと思うのだが、アルフレッドには見当がつかなかった。
「それは、僕たちの仲間である
それを聞いてアルフレッドは思い出した。リカードに一人前の仲間だと認められた時、授けられる指輪があるという話を。
「僕が持っていてもいいのでしょうか?」
まだ、成人の儀も終えていない。しかも、昨日は足手まといだと言われたばかりだ。
一人前にはほど遠い自分が受け取っても良いのだろうか?そう思っていると、その考えを見透かしているように、リカードは笑みを浮かべた。
「いずれ君には渡すつもりだった物だ。予定よりはいささか早くなってしまったけどね。でも、今回の旅には必要なものだ。気にせず持って行ってほしい」
「ありがとうございます」
アルフレッドは、少しだけ
「仲間の拠点は以前教えた通りだ。まだ覚えているかい?」
「はい」
確かに以前、国内に散らばる仲間の話を聞いたことがある。その時に各街にある
リカードに覚えておいてほしいと言われたので、必死に覚えたのだった。
「街についたら、仲間の拠点を訪ねてみてくれ。そこで情報が得られるはずだし、必ず君たちの力になってくれる」
アルフレッドはリカードに向かって頷いた。
「では、行ってまいります」
この指輪がリカードの言っていた、渡したい物なのだろうと思い、リカードに挨拶をして、背を向けようとした。
だが、リカードに慌てて引き留められる。
「アル。ちょっと待ってくれ。今、馬を用意しているから」
リカードの方を振り返った時、ちょうど使用人が二頭の馬を引いてきたのが見えた。
二頭とも
「ああ、やっと来た。あまり協力できないからね。せめて馬くらいは用意させてもらおうと思ってね」
馬はとてもおとなしく、自分たちがすべきことを分かっているのか、アルフレッド達の前で足を止めた。
アルフレッドは、この二頭を知っていた。リカードに誘われて何度か乗馬を
間違いなく名馬と呼べる馬達で、頭もいい。
「ありがとうございます」
アルフレッドはリカードにお礼を言いつつ、使用人から二頭の手綱を受け取った。よく見ると二頭の馬は少し大きさが違うようで、一頭はいくぶんか小柄な体躯をしている。
小柄の方の手綱をリリアーナに渡した。
リリアーナが手綱を受け取ると、小柄の方の馬はリリアーナに鼻先をこすりつけながらブルルルッと鼻を鳴らした。
「かわいいわね」
リリアーナがそう言うと、馬はもう一度ブルルルンと鼻を鳴らす。
アルフレッドも、大きい方の馬の鼻先を優しく撫でる。馬は嬉しそうに、ブルルルンと鼻を鳴らした。
「よろしくな」
アルフレッドはそう言ってから、慣れた手つきで鞍の後ろに荷物を取り付けた。取り付けている間も馬はおとなしくしている。まるで、アルフレッドが何をしているか分かっているかのようだ。
「これほどの馬を、ありがとうございます」
「きっと君たちの役に立ってくれるはずだ。可愛がってやってくれ」
リカードが少し自慢げな表情をする。
確か、以前乗馬に誘われた時もリカードは馬の自慢をしていたことを、アルフレッドは思い出した。
「では、こんどこそ、行ってまいります」
「ああ。何度も言うが、くれぐれも無理しないでくれよ。危険なことはしない。危なくなったら逃げる。いいね。約束してくれ」
「はい、約束します」
アルフレッドは決意に満ちた目でそう返した。そして、手綱を引くと、街の出口に向かって歩きはじめる。
リリアーナもすぐにそれに続く。
リカードはしばらくの間、不安そうな表情で二人の後ろ姿を見守っていた。
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