ツインズソウル1 ~古の魔女と紅い宝石~
ふむふむ
第1話.プロローグ
山あいの谷に広がる小さな街。
中央を流れる川を挟んで、ゆるやかな斜面には白い
主要な街からも離れ、山に囲まれたこの地はとても静かで、どこか
人口、二千人にも満たない小さな街。
それほど小さな街にも関わらず、街は
その外壁が街を三つの区画に分ける。
一番内側の区画。貴族街というやつだろう。直径百メートルにも満たない円形の外壁に囲まれたそこには、大きくて立派な
その外側、二番目の区画は、一つ目の区画と比較してもかなり広い。南北に長い
街を東西に分断するように、北から南へと流れる川の
最後に、三番目の区画。街の一番外側にあたるこの区画も雰囲気は、二番目の区画に似ている。
その街を、切り立った崖の上から見下ろす男女の姿があった。
「イーリス様、本当にこの街を沈めてしまうおつもりですか?」
「そうね。そのつもりだけど?」
男性の方は、白髪交じりの髪を後ろに撫でつけて
その所作は
イーリスと呼ばれた女性の方は40歳くらいだろうか。整った顔立ちで、かなりの美人だが、よく見ると目元に少なからず
ただ、その
「しかし、もったいないですな。これだけの美しい街を」
「だからよ。きれいなうちに沈めることに意味があるんじゃない」
「それはそうですが。しばらく住んでいた街でもありますからな。いささか寂しさを感じますな」
男性は
「それでは、はじめますか?」
男性が何かを振り切るようにそう言うと、イーリスと呼ばれた女性も少しだけ寂しそうな目をした後に大きく頷いた。
男性は大きく息を吸い込むと、片手を空に向かって突き上げる。その手のひらは何かを支えるように上に向かって開かれた。
「我は
その直後には、手のひらの上に
続けて、男性はぶつぶつと呪文のような言葉を
それが人の頭よりも大きくなったところで、男性が手を大きく後ろから前に振ると、火球は勢いよく撃ち出された。
火球は、街に続く谷への入り口。左右の崖がせり出ていて狭くなっている辺りめがけて
その影響で左側の崖が大きく削られ、大量の土砂が谷の入り口に降り注ぐ。
男性はもう一度、同じ動作を繰り返す。
今度の火球は右側の崖に命中する。
右側の崖からも大量の土砂が降り注ぎ、狭い谷の入り口には、十メートルを超える高さまで土砂が積み上げられた。
その土砂は、谷の中央を流れる川を
「イーリス様、終わりました。これで、いずれこの街は水に沈むでしょう」
「ごくろうさま、セバス。相変わらず見事な魔法の技ね」
「恐縮でございます」
セバスと呼ばれた男性は、イーリスに
「しかし、水に沈めてしまっては、見つけられる者などいるのでしょうか?」
「それは、大丈夫よ。人の好奇心というのはなかなかのものなの。たとえ水に沈んでいても、そこに価値のある物があると知れば何とかしてしまうものだわ」
「そういうものなのでしょうか」
「そういうものよ」
イーリスはそう言いながら笑顔でセバスを振り返った。
それからしばらく、二人は黙って街の様子を見ていた。
「さて、そろそろ次に行こうかな」
イーリスは、
谷の入り口で
――
それから数カ月という月日をかけて、街はゆっくりと水に沈んでいくことになる。
街が完全に水に沈んだ後も、その水は増していき、長い年月をかけてそこに大きな湖を造り出した。
さらに何十年と経過し、湖の底に沈んだ街は人々の記憶から消えることになる。
だが、この湖を造った二人の男女。
この二人は、後世にまで名を残すことになった。
女性の名はイーリス。有能な魔法研究者であり、
男性の名はセバスチャン。イーリス専属の執事なのだが、イーリスにも引けを取らない魔法の使い手として、イーリスと共に名を残した。
再び、この街が人々に知られるまでには、それから千年の近い歳月を必要とした。
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