聖なる夜

文重

聖なる夜

 クリスマスが近づくたびに沙也香は憂鬱になる。チームリーダーとして商業施設のディスプレイ装飾を一任されているからだ。他と一線を画す斬新で“映える”デザインを考え出すことは、やりがいがあるが責任もまた重い。


 何よりも嫌なのは、クリスマスから正月へとディスプレイを交換する25日の深夜作業だった。たった一晩で洋から和へと入れ替える節操のなさ。作業が終わるのは大概明け方になるから、当然クリスマスデートなんて夢のまた夢だった。


「沙也香さん、お疲れさまでした。荷物一緒に運びますよ」

 後輩の拓哉がタクシーにするっと乗り込んできた。

「悪いわね」

 と言いつつ、真っ暗なオフィスに1人で帰らなくて済むことにほっとする。


 倉庫に一歩入った途端、ふわっとあたりが明るくなった。色とりどりの無数の小さなツリーにライトが灯っている。

「もう26日ですけどね」

 照れ臭そうに頭をかく拓哉に、沙也香は張り詰めていたものが解けていくのを感じた。

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聖なる夜 文重 @fumie0107

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