最初で最後なホワイトクリスマス!

夕日ゆうや

遙人と音子

 俺は必死でダクトの中を移動する。

 熱気を外に逃がすためのダクトだ。気温は50度を超えている。

 その中を上半身裸になりながら芋虫のように這いずり回る。

「見つけた」

 人工降雨システムのコントロールルーム。

 その予備電源に降り立つと、俺はシステムに攻撃プログラムの端子を差し込む。

 コンピュータがバグを引き起こし、人工降雨システムは異常加熱を始める。そしてやがて止まる。

 俺と音子ねねは産まれた時から人工降雨システムの中で生きてきた。

 人工的に降雨を行うシステム。

 雨や雪の日を人工的にコントロールすることでより快適な日常生活を送れるというもの。

 だからクリスマスの日はいつも晴れだった。

 でも音子が昔の本を読み、ホワイトクリスマスなるものを見つける。

 雪化粧のされたクリスマス。

 それに興味を持った。そして実現させたいと思った。

 これが犯罪なのことも知っている。

 でも俺は音子に最高のクリスマスプレゼントをあげたかった。

 コントロールルームを出ると、俺はその足で音子の元に向かって走り出す。


 クリスマス。


 雪がちらつく。

「これ、遙人はるとがやったの?」

「あまり大きな声では言えないがな」

 俺は苦笑いを浮かべて、音子に言う。

「わぁあ~」

 綺麗なホワイトクリスマスに満足した音子。

「最初で最後のホワイトクリスマスだね!」

「うん。キミへのプレゼントだよ」

「ありがと」

 ふふふと笑う音子。

「その、あの……」

 俺は言葉に詰まったように言うのを恥じる。

「俺と、付き合ってください」

「……!」

 一瞬、目を大きく開く音子。

「うん。わたしでよければ、よろしくお願いします!」

「や、ったー!」

 俺は喜びで雪化粧された空き地をはしゃぎ回る。

 警備体勢が強化され、もう二度と人工降雨システムをバグらされることはできないだろう。

 だから本当にこれが最初で最後のホワイトクリスマス。

 雪の降るクリスマスは最後だ。

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