新春コーデバトル、開幕!

 コーデバトルはコーデを見せ、そこから本番に入るという形式である。

 本番は走ったり、何度も着替えさせたり、空を飛んだり、形式は様々。

 今回のコーデバトルの本番は、パフォーマンス!

 召喚獣に憶えさせた技を一つ見せ、審査員達の評価を稼ごう!


「いけっ、カブトダンサー! 『ソードダンス』だ!」


 これなんか日本の国民的ゲームのボールで捕まえるやつのコンテストで見た気がすんな、と劉はちょっと思った。


「りゅ、リュー。大丈夫かしら。かなりの仕上がりよ、ラウェア君のあれ」


「顔近 良香 距離近 君胸我腕当 君胸我腕触 柔 低反発巨乳……」


「……リューはいつも変わらない顔をしてるわね。不安なんて抱くなと、そう言ってくれてるの……? うん、そうね。私は……公爵令嬢なんだから」


「死 死 死 自己嫌悪爆発 御嬢様 心優子 欲情有罪」


「毅然としていないと。お父様が見てるかもしれないんだもの」


 ステージで踊り舞う虫人、カブトダンサーのパフォーマンスを見守りつつ、ラウェアは横目で劉とフレンの高まる気迫を見て取っていた。

 半分は、欲望に負けないようにする気迫であったが。


 この試合は擬似的に公爵家VS公爵家とも言える試合。

 勝てれば、それなりの賞賛は得られるだろう。

 その賞賛はアマーロに行く。

 俄然、やる気も出るというものである。


 ラウェアは自分自身を鼓舞するように、勝利の法則を口にする。


「リュウ様の演技は緩急があり、キビキビした動きのキレもある。何より目新しくてかっこいいです。しかし、食事で大ヒットするのが斬新なものであるとは限らない。食事で大ヒットするものの多くは、慣れ親しんだ味の要素を持つ! 慣れ親しんだ要素の組み合わせから生まれる斬新さこそ、人の心に刺さる真骨頂! 昨日食べた鳥の骨の出汁と乾燥させた魚の出汁で煮込んだお肉と根菜のスープが美味しかったのと同じ! 流行りの服を着せ、伝統の踊りをちょっとアレンジして、カブトダンサーに踊らせる! これが勝利の法則! 名付けてロパープレア大勝利陣!」


 カブトダンサーのパフォーマンスが終わり、カブトダンサーがステージを降りる。


 入れ替わるように演舞を始めた劉が太極の演舞を始めたのを見て、ラウェアは想定が外れていないことを確信し、ショタ顔に勝利の確信を浮かべた。


「いいんですか、リュウ様。そのままだと僕が勝ちますよ。たかがコーデバトル、そう思ってないですか? それだったら次のコーデバトルでも僕が勝ちますよ」


 このまま行けば、勝てる。

 黒帽子、黒スーツ、黒ステッキ。劉の装いは正道のかっこよさがあるが、あくまでそれだけで、審査員の評価を爆稼ぎする要素がない。

 このまま、このまま行けば。


「なんで負けたか、明日まで考えておいてください。そうしたら何かが見えてくるはずですよ、リュウさ───」


 そう、ラウェアが思った瞬間。


 ステージ上の劉のステッキが、抜刀された。


 演舞の最中、ステッキから抜き放たれた銀の刃が煌めき、拳法の演舞が一瞬にして剣舞にスイッチする。


 美麗。

 華麗。

 流麗。

 拳法の舞が剣法の舞へと移り変わったことで、観客もまた反応が変わり、二つの舞が引き立てる黒スーツの『服としての完成度』が、皆の目に焼き付いていく。


「うっ……うわぁあぁぁぁぁっ!!! 仕込み杖だぁぁぁあぁ!!!」


 ラウェアは座席から身を乗り出し、目をキラキラさせてそれに魅入る。


「か、かっこいい……カブトダンサー、次の大会で僕らもあれやろうあれ!」


 ラウェアの頭に、カブトダンサーのげんこつが落ちた。







 採点タイム。


 会場に、スピーカー越しの司会進行の声が響いた。


『まずはラウェア様のカブトダンサー、採点です! さて、どうなるか!』


 審査員は五人。

 それぞれに配点100点。

 つまり満点で500点である。

 勝敗や、如何に。


 数学教師のトパルフェの配点は、100点。


「俺、カブトムシ好きなんですよね。かっこいいから」


 史学教師のハムダービの配点は、50点。


「僕ぁ人間だろうと召喚獣だろうとメスにしか高得点はあげないよ。まあでも頑張ってる感じはしたから、こんくらいで」


 作法教師のイドクリニューの配点は、96点。


「よく躾けられています。人型の召喚獣が人の礼儀作法を覚えているのは、主がよく教え、よく躾け、召喚獣との信頼関係を築いてきた証です」


 宮廷召喚士長コットネクターの配点は、84点。


「春の召喚から時間が無かったとは言え、ダンスの仕上がりにちょっと疑問を感じるのぅー、という感じやな。今後の期待を込めて、このへんの点数って感じや」


 服飾ギルド長ヴォアルフの配点は、72点。


「うーん……基本は抑えていたと思いますね。ただ、若さを感じました。『僕の召喚獣が一番だ』という若さを。服を魅せるなら、もっと別の動きを指示することもできたはずです。ラウェア君は布の垂れ布をいくつもカブトダンサーに付けていました。これを魅せるための踊りなら、何度かターンを入れて、回転で布がふわりと浮かぶ演出を入れるべきだったのではないでしょうか。今回のカブトダンサーの動きは服を活かしているようには感じませんでした。踊り自体は良いと思ったので、実に惜しい」


 合計点、402点。

 会場が点数にざわめいた。

 これを超えねば、フレンと劉に勝ちはない。


『次にフレン様の異邦人ことリュー、採点です! さて、どうなるか!』


 当然、劉らの配点も500点満点である。

 勝敗や、如何に。


 数学教師のトパルフェの配点は、100点。


「いやあ、よかったですね仕込み杖。好きなんです仕込み杖。かっこいいから」


 史学教師のハムダービの配点は、50点。


「僕ぁ人間だろうと召喚獣だろうとメスにしか高得点はあげないよ。まあでも頑張ってる感じはしたから、こんくらいで」


 作法教師のイドクリニューの配点は、94点。


「素晴らしい演舞、そして剣舞でした。ですがそこはあくまで個人技に感じましたね。私はこの催しを、主と召喚獣の絆を測るバロメーターだと考えています。そういう意味で、ラウェア・カブトダンサーの方が『正しく主従の相互理解を行えている』と感じたので……このあたりの点数にさせていただきます」


 宮廷召喚士長コットネクターの配点は、92点。


「いんや、めっちゃよかったんとちゃう? 正直コーデバトルに求めとるもんがちゃんと出てきたなあっちゅう感じや。コレ見て『僕もあのスーツ欲しい!』とか『召喚獣にああいうの着せたい!』ってなる少年、まあまあおるんとちゃうかな。8点の余地は、今後にますます期待、っちゅうことで」


 服飾ギルド長ヴォアルフの配点は、95点。


「プロのコーディネートではない、というのが服の装いの感想です。しかし、それゆえに服を活かそうとする意識が素晴らしかった。個人的な感想ですが、彼は服を活かす動きを選択したのではないでしょうか。試合前に彼がいくつかの動きを試しているのを見ました。彼は自分にできる動きの中から、特にあの服を際立たせるものを選んだのでは? フォーマルなスーツだからこそ、アクション、そして仕込み杖が活きたと……そう思わざるを得ません。今の演舞、主役は服でした。私はそこにこそ拍手を贈りたい気持ちです」


 合計、431点。


 402点VS431点。


『フレン様・リューペアの勝利です!』


 歓声が上がった。

 ラウェアががっくりと肩を落とし、カブトダンサーが肩をポンポンと叩く。

 腕を組んで壁に背を預けていたルチェットがほっと息を吐く。

 腕を組んで壁に背を預けていたフレンの父が満足気に頷く。

 腕を組んで壁に背を預けていたアレキサンドリアが微笑み、眼鏡を上げた。

 腕を組んで壁に背を預けていたフィアがフッ……と笑い、腕を組んで壁に背を預けていたミュスカがマネをしてフッ……と笑った。


 一回戦は、進んでいく。






 大会規定その8。

 一回戦と二回戦の間を休憩時間とする。

 ……という、建前はあるものの。

 実際は、大会の進行上の問題、貴人を長時間拘束するという問題があるため、年々この休憩時間は短くなっており、友人と駄弁るくらいの時間しかないのであった。


「このサングラスでね、リューは更に完成すると思うの」


「是装備我 死体地域佐賀 巽幸太郎化……? 銀魂長谷川化?」


「お嬢様、お嬢様、あんまりトンチキな方に行かれるとわたしの給料が」


 しからば、友人との短い談笑の時間に、割って入ってくる者も居るだろう。


 劉、フレン、ルチェットの雑談に混ざってきたのは、いつもの女であった。


「運良く勝ち上がってこれたようね。それもここまでよ、我が親友マイ・フレンド


「其声!」


「そう……原作主人公、フィア・サンブラージュ! この大会の自称優勝候補!」


「優勝候補って一番自称しちゃダメなやつじゃないですか?」


「そして!」


 ルチェットの突っ込みを『そして』でお仕切り、フィアは燃える目で劉を見る。


 本気の勝負をする時か、と、劉は丹田に力を込めた。


 そうして、フィアは。


 劉の前で、深々と頭を下げた。


「ここまで原作知識で運良く勝ち上がれて来たけどそれもだいぶ限界だと思うのでどっかで無様晒して恥ずかしく負ける前に『親友に勝ちを譲って優勝しろよと肩を叩く主人公』ムーブをしたいと思います! つまり棄権! もう無理! もーむり! これ以上勝つのは無理! 頼んだよ、主人公あたしに優勝を託された親友!」


「御前……!」


「なんか二回戦でかっこよく激戦を繰り広げたことにして、『あの時は激戦だったな……』みたいな回想して応援する後方ライバル面したいんだけどダメ?」


「駄目」


「おかしい……モウトクの言ってることが分かる気がする……あーばよっ」


 そう言って、フィアはやたら可愛い顔で投げキッスを劉に投げ、劉に投げキッスを叩き落され、その場を去って行った。


「……」

「……」

「……」


 フレン・リットグレー、劉孟徳、一回戦・二回戦勝ち抜け決定。


 次なる三回戦。


 待ち受けるは、レッドダイヤの猛き女王クイーン


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