それ流行ってんの?

 新春コーデバトル!

 それは新入生達が召喚したての召喚獣と共に出走するメイクデビュー!

 長い時間をかけて築き上げた絆より、召喚と同時に決まっていた初期相性と初期にしたお世話の数が重要になってくる、スタートダッシュ勝負!

 優勝者にはレア装備とステータスアップがプレゼントだ!


 原作ゲームとしては、召喚獣服ランダムドロップなどの初期のランダム要素が悪ければ、スルーして別のことに使うべき時期!

 そうでなければ優勝を狙い、装備の底上げとステータスを確保し、今後のイベントに備えて行くべし!


 この現実リアルにおいては、各貴族の召喚獣のお披露目会、そして召喚獣による新入生の大まかな格付けという意味を持つ!

 召喚者の魔力が高いほどに、召喚獣の格は高くなる!

 召喚獣が弱くとも、金をかければコーデでそれなりには勝ち抜ける!

 魔力が弱い貧乏人はセンスを見せなければ一気にカースト下位へと落ちる!


 『悪役令嬢は皆、社会的地位も高いし金も持ってるもんだよ』という絶対の法則が存在していなければ、劉孟徳もだいぶ危険だったかもしれない!


「黒帽子、黒スーツ、黒ステッキ……うん、いいんじゃない?」


「謝謝茄子 我服飾力一一四五一四倍」


「いいですよね黒。かっこいいですよね黒。お屋敷のメイド服も黒のバランスがいいなって思ってたんですよね。見てくださいよお嬢様。やっぱり彼には黒です」


「ルチェットが黒好きだからってだけじゃないの……?」


 会場に入る三人を迎えたのは、逆光が照らす女であった。


 壁に背を預け、腕を組む女、フィア。

 その横で新春コーデバトル会場限定バナナミルクドリンクを飲みつつ、腕を組んで壁に背を預ける女、ミュスカ。

 廊下の向こうからの逆光が二人を包んでいる。

 この二人がこの大会で立ちはだかる強敵であることは、疑いようもなかった。


「ふっ……やはり来たようね、モウトク。我が終生のライバル」


「其声!」


「そう、あたし。フィア・サンブラージュ。昨日親友のミュスカから新春コーデバトルのことを聞いて、大慌てで相棒の服を買いに行った女……準備は万全」


「夏休宿題三十一日片付奴?」


「まあでも、一日しか準備してなかったからなー。たった一日だけだったからなー。しかも一晩徹夜して備えてたからねむいしなー。かーっ、つれーわ。つれーつれー。こりゃあたしも本調子出せないかもしれないなぁー?」


「恰好悪」


「見てくださいよお嬢様。やる前から負けた時の理由を口に出してる負け犬ですよ。負けたら『まぁ調子悪かったから』とごまかして、勝ったら『調子悪いのに勝っちゃうあたしすごくない?』ってイキるつもりなんですよ。こんな姑息で情けない手段を選んだ女に、フレン様が選んだ服を着たリューさんが負けるわけがありません」


「ルチェット!」


「へへ……あたし胸が痛えや」


 フィアの隣には、もこもこの竜が居た。

 翼は無く、牙は無く、爪も無く、足は六本、尾は二つ。

 アメジストのような硬質な肌の上に、羊のような白い毛がもこもこ生えている。

 だいぶ抱き心地が良さそうだ。

 おそらくそれが、フィアの召喚した召喚獣。


 ミュスカの隣には、七色の宝石が二十~三十ほど連なった生物が浮かんでいた。

 どこが顔なのかさえ定かではないが、人懐っこい所作をしていて、ミュスカの肩に体を擦り付けて親愛の情を表現している。

 見かけこそ宝石のように硬質だが、ふわふわと浮遊しているせいで、全体としてはふわっとした印象を受ける不思議な生物。

 おそらくそれが、ミュスカの召喚した召喚獣。


「このコーデバトルで未来の悪役令嬢四天王達に勝っておいて、ステータスに下駄を履かせておきたいところね。あ、ところで、あたしの理想の悪役令嬢のバランスってらんまの黒バラの小太刀くらいなんだけど、そも悪役令嬢市場自体が男性向けでも推移してたから、悪役令嬢っていうキャラジャンル自体がどうにも細かい味付けにちょっと難がな~みたいな気持ちはありますあります。その点細川智栄子先生の『王家の紋章』のアイシス様みたいな悪役令嬢がたまに生えてくるこのゲームはかなり」


「フィアちゃん、モーさん達もういないよ」


「なぁんだってぇ!? あ、ほんと居ない。寂しっ」


「モーさんがチョコ置いてってくれたよ、一緒に食べよ?」


「美味しっ」


 彼女らを置いて、劉達は会場の中央に歩を進めた。


 そこかしこに生徒、生徒、生徒。

 そして召喚獣、召喚獣、召喚獣。

 新入生のほぼ全員と、その召喚獣が一同に介している。

 彼らは一斉に、劉達の方を見た。

 その視線には好奇、警戒、畏敬、侮蔑、期待などの様々な色が見て取れる。


 『公爵令嬢の召喚獣様、なんか挨拶で喋ってくださいよ』と言う司会進行の男に連れられ、衆人環視の中、劉は壇上に上がってマイクを渡された。

 すぅ、と息を吸って、そして。


「遥 空之星 酷輝見故 僕震 其光追 割鏡中 過去自分見 強成希望 全部憧 君風吹 翻帽子見上 長短旅往 遠日面影……」


「フレン様。もしかしてあれなんか歌ってませんか?」


「やっぱり全然伝わってなかったわね。でも皆、リューが何か感動的な演説をしてると勘違いしてるみたいだからいいでしょう」


 始まるはコーデバトル予選。


 今回の審査員の好みの傾向は【フォーマル】!

 ゲーム的には、事前に大会傾向を調べ上げられる『調査力』、あるいはそれを教えてくれる友人が居るかどうかという『交友関係』、服を用意できるだけの『財力』、購入するのに最適な店を見つけている『行動範囲』、そして召喚獣自身のステータスを鍛えてきた『トレーニング』などの内実が問われるのだ!


 審査員は数学教師のトパルフェ、史学教師のハムダービ、作法教師のイドクリニュー、宮廷召喚士長コットネクター、服飾ギルド長ヴォアルフ。

 なんとも錚々たる顔ぶれ。

 そして、五人の内四人が原作主人公の攻略対象というイケメン陳列棚であった!


 予選参加者が並んで座る長椅子に腕組みして座る劉の肩を、異世界ジャージに着替えてセコンドについたフレンがぽんぽん叩いている。


「此光景 神龍『好画像保存』言……」


「いい、リュー、顎よ、顎を狙っていくのよ、脳が揺れるわ」


「お嬢様、このコーデバトルは戦いません」


 が。

 『公爵家の人はシード扱いで無条件予選突破ですよ』『そうなの!?』『公爵家に負けて本戦出られない有望な下級貴族の子がかわいそうでしょ』『確かに……』というやり取りを経て、劉とフレンはちょっとしょんぼりして退場した。


 気を取り直し、始まるはコーデバトル本戦!


「緊張 緊張 緊張緩和 定型台詞画像 鬼舞辻『黙 何違 私何間違』……」


「いい、リュー、答えに迷ったら私の方を見て。ハンドサインから読み取るのよ」


「お嬢様、召喚獣は知性が無い事も多いのでクイズ大会になることはありません」


 第一回戦の会場に繋がる階段を登る三人。

 そんな三人を見下ろすように迎えたのは、逆光が照らす少年であった。


「待っていました、リュウ様。一回戦の相手は僕です」


 公爵令嬢アマーロ・ルヴィオレッツに従う少年執事、ラウェア・ロパープレアが、真っ黒な虫の召喚獣を従え、そこに立っていた。


 分類こそ虫ではあるが、シルエットだけなら虫が混じった成人男性に見える。

 全身の色は少し茶の混じった黒に見える茶褐色。

 磨き上げた鉄のように硬質な甲殻が、筋骨隆々な体格を形取っている。

 おそらくこれが、ラウェアの召喚した召喚獣。


 壁に背を預け、腕を組む少年、ラウェア。

 その横で腕を組み、壁に背を預ける虫人。

 廊下の向こうからの逆光が二人を包んでいる。

 この二人がこの大会で立ちはだかる強敵であることは、疑いようもなかった。


「恩義はあります。しかし、今日の優勝は譲れません」


「少年」


「アマーロお嬢様は心を改めました。しかし、『伴無し』の汚名は消えることがありません。召喚獣を失ったお嬢様にはこの大会に参加する資格すらありません。けれど、僕が優勝すれば……従者の評価は主の評価。お嬢様の評価もまた上がるでしょう。僕が優勝することは、言わば従者の義務なのです」


 ラウェアが小さな体で、大人ぶった真面目な表情で、勝利を宣言する。


 虫人がその頭を撫で始めた。


「ちょ、やめっ……こほん。僕を弟か何かだと思いこんでいることに目を瞑れば……カブトダンサーこそが最高の召喚獣だと信じています。優勝は貰っていきますよ」


 会場に進む、ラウェアとカブトダンサー。


 その後にフレンと劉孟徳が続き、ルチェットが一礼してそれを見送る。


 この先は、召喚者と召喚獣だけの舞台だ。


「行きましょう、リュー。私達が優勝するのよ」


「承知」


 会場入りしたフレンと劉を、観客の歓声が出迎えた。

 円の形のコーデバトル・フィールド。

 輪になって囲む観客席。

 観客席の前の審査員席で対戦者達を見つめる、審査員達。

 そして審査員席の後ろで、劉達を見守る二つの影。


 壁に背を預け、腕を組む男、アレキサンドリア・クトライアンフ。

 その横で腕を組み、壁に背を預ける天使。

 王子とその召喚獣が、見守っている。


「見せてもらうよ。遠き世界から来たという君のコーデ力を……ね」


 観客席の最前列で、柱に背中を預け腕を組む女、フィア・サンブラージュ。


「見せてもらうわ。あたしと同郷の男の力というものを」


 観客席の最上段で、娘の晴れ舞台とその召喚獣を観戦に来た、偉大なる公爵が壁に背を預けて腕を組む。


「見せてもらおうとするか……我が娘が召喚した男が、どれほどのものか」


 そして、この大会において、最大の壁と目されたレッドダイヤの女王クイーンも。


「見せてもらいましょうか……このワタシのライバルに相応しいかどうか、ね」


 壁に背を預けて腕を組んでいた。

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