終章 【透過などさせるわけも無く】4

 ――それから、一年の時が流れた。


 なんて言うのは簡単至極、実際の一年は長い。環境や心情、人それぞれに違う中、時間の感じ方も人それぞれだろう。俺の場合、この一年は非常に長く感じられた。


 片桐さんと仲良くしてる? というメールが顔文字付きで響野から送られて来た時は、その約半年を過ぎようとしている時だった。こうこうこういうことで一年間くらいは距離を置くことになったと返信をしたら、すぐに電話が掛かって来て、そして第一声が、ホントかよ! だった。とても、うるさかった。


「一年って三百六十五日だぞ、え、ホントにお前はそれで良いの?」


「半年は過ぎた。もしかしたら別れるところだったからな、回避出来ただけ良いと思う」


「別れる!?」


「さっきから声がでかい」


「あー……そうかー。そっか、頑張れよ。俺は応援しているからな!」


「それはどうも」


 響野が何をどう理解し、どう納得したのかは分からなかったが、頑張れよという何気ない言葉が何処か印象的で、俺は自分で思っていたよりもこの状況に少なからず衝撃を受けていたことを再認識した――綾と距離を置くという状況に。


 別に、一年の間、片桐と全くの音信不通だったわけでは無い。時々、メールはしていた。それより更に時々にはなるが、電話もしていた。だが、会うという話は出なかった。俺からそれを言うことは違うように思えたし、一年後を想像するに留めた。が、不安もあった。心は変化する。一年が経った後、綾はどんな気持ちになっているだろう。そして、俺も。などと、考えてみても何も始まらないことは分かっていたので、綾が自分を確立させる為に努力していることを思い、俺も自分自身を前進させることに時間を遣った。主に勉強に。結局、学生としてすることは他になかなか見当たらなかった。高校生の時とあまり変わらない。あとは、読書などで知識を蓄え、友人と付き合う中で視野を広げることを意識した。急速に変化することは難しいだろう。ただ、急速に俺の意識は何処かへと向かい始めている、そんな気がしていた。


 俺は、綾の力になりたい。それを実際に可能にしたい。綾は、橘さんに頼って過ごした自分を悔やんでいた。俺は、橘さんのように綾の選択肢に成り得なかったことを悔いていた。次に会う時、俺はもうそういう思いは抱えたくなかったし、綾だけが先へと進み、成長している姿を見るのは望ましく無いと思っていた。変わるなら、二人共にが良い。

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