第一章【残雪と雪消】5

 ――その夜、十時を回った辺りで携帯がメールの着信を知らせた。


 読み掛けの漫画を伏せて、パカリと携帯を開く。片桐綾からだった。




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 From:片桐綾


 Sub:初メール♪


 Text:やっほう!明日は土曜日です。ってことは、お昼ご飯は持って来ないよね?二十種類のパンが食べ放題!の、お店の半額クーポンを二枚貰ったので、学校が終わったら一緒に行きませんか?


 あ、でも部活動があるのかなー。どうかなー。


 そーいえば、相模原君って二年生ですね!私、敬語を使えていたかな…?超不安。


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 何とも彼女らしいメールだと思った。話していた時の口調や雰囲気が目の前に浮かんで来るようだった。しかし、昨日と今日に少し話したばかりで、パン食べ放題に誘って来るというのも凄い気がした。やはり、彼女は勢いがあるようだ。などと考えていたら、またメールが受信された。




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 From:片桐綾


 Sub:追記


 Text:サラダも食べ放題!


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 思わず笑いが洩れた。だから行こうよ! と言う彼女が容易に想像出来た。明日の午後、別に用事は無い。むしろ暇だ。それに半額は魅力的だ。


 その後、店の場所と値段を尋ねて、俺はその誘いを受けることにした。そして「敬語は面倒だからいらない」と最後に書き足したメールを送信して、携帯を閉じた。


 明日は千円でパンとサラダが食べ放題である。他に一品は料理が付くらしいし、非常に楽しみだ。


 それにしても、明日もまた彼女は今日のように勢い良く話すのだろうか。そして、脈絡の無い話を流水の如くに述べたり、何かが引っ掛かる単語をあられのようにパラパラと落としたりするのだろうか。その未知数ぶりが少し怖くもあり、少し楽しみでもある俺がいた。


 とにかく、明日はパンとサラダが食べ放題である。明日の昼飯はいらないことを告げる為、俺は立ち上がり部屋の扉を開けた。

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