第64話 吸血鬼と龍の親子
ランクC。
久志以外の某達は全てそのランクに到達した。
それでもまだ、某はこの男に一度も勝てていない。
「某には、何が足りない」
白銀の騎士と向かい合い、そう問いかける。
「知らないよ。
僕は強く在り続ける。
だから、君と同じ悩みは抱けないし抱かない」
3本目。
輝く青い刃を持った聖剣を構えて。
剣聖は某を突き放す。
戦いの日まで残り7日を切った。
ヴァイスは強い。
今のままでは勝てない。
それを理解しているからこその焦り。
「今日はここまでだ。
悪いけど、瞑想の時間だからね」
「……分かった」
エスラとの修練が終わり、某が向かったのはシャルロットが寝泊まりしている部屋だ。
「いらっしゃい、ヴァンさん」
「あぁ、悪いな世話を任せて」
「いいえ、どうせ授業以外の時間は暇ですし。
それにファイも手伝ってくれてますから」
出迎えたのはシャーロットだった。
教鞭を取れるだけの知恵を持った。
001、龍人とクローンの配合体。
最初のクォーターである。
「最近は皆様忙しそうですね」
「あぁ、この後は主君の力の修練だ」
「それにはいつも通り、私達も参加しますよ」
スルトが、考えた我等の秘策。
それは、あの忌々しい力を制御するという物だ。
確かに、敵である主君と同じ能力を持つあの男でも、あの黒々しい力の制御はできないと聞いている。
なれば、こちらが勝れる点はそこしかない。
理屈は分かるが、昨日は成果はでなかった。
我等を暴走させる所までは行く。
感情を昂らせ、黒い物を吐き出すだけ。
けれど、その後だ。
やはり、知性が持っていかれる。
完全に暴走し、主へ襲い掛かる。
エスラを始めとした聖典メンバーと、この3人が居るから止められているが、常軌を逸した修行である事に変わりはない。
「悪いないつも」
「いえ、私達には進化や修行という物がありません。
この身体の限界は数値として算出されています。
それを越える力を出す事はできません。
だから、羨ましいです。
人間の努力する姿が」
「努力とは目的に近づく全ての行動だ。
反復運動の事でも無ければ、辛く苦しい事という条件もない。
故に、お前達のやって居る事も、お前達の目的を達成する為の努力に他ならない」
「良い考え方ですね。
そう言って頂けると、助かりますよ」
「というか貴様、何故主には偉そうで某にはその様な口調になる」
「昇君は生徒ですから。
貴方は、そうじゃないでしょう?」
「そういう物なのか?」
「えぇ、そういう物です」
少し長い廊下を歩き、リビングへ向かう。
そこではシャルロットとファイが……
「フン!」
「エイ!」
玩具の剣で戦っていた。
某は目尻を押さえ、溜息を抑え込む。
「何をしている、お前達」
「きしさまごっこー!」
「騎士様ごっこです」
「えい!」
「はっ!」
……某は、一体何を見せられているのだろう。
そんな疑問が頭を過る。
「……すいません」
おずおずと、謝罪してくるシャーロット。
「いい」
「ねー、わたし10かい勝負で6かい勝ったんだよー」
「嘘です、私が6勝です」
どうでも良いわ。
「うそつきー、わたしのほうが勝ってるもんー!」
「いいえ、私の方が勝率は上です」
「むー」
「む?」
二人の間に、稲妻の様な物が幻視される。
瞬間。
「
「ドラゴンウィング」
二人の姿が、著しく変化する。
シャルロットの姿が、龍へ近づく。
ファイは背中を翼を宿した。
「やめなさい」
「やめんか」
某がシャルロットを。
シャーロットがファイを押さえる。
「そもそも、間借りさせて貰ってるのよ私達。
家を壊すなんて許さないわ」
「シャルロットもだ。
力とは大きくなるほど、軽はずみに使う物ではない」
この2人は、年齢上は殆ど同年らしい。
クォーターは我等と同じ様に初期知識を持って生まれて来る分、成長が早いらしいが。
それを加味して、この2人の精神年齢は同程度という事だ。
ファイの方は容姿が20程に見えるのもあいまって、始めて見る者は戸惑うだろう。
しかし、某ももう慣れた。
「ごめんなさい……」
「すいません……」
似たような表情で俯く二人。
「「はぁ」」
我とシャーロットは、同時に溜息をついた。
子育てという物を某はした事が無い。
きっと、この様な感覚なのだろうな。
そのまま、少しだけシャルロットの我儘に付き合い、我等は地下の訓練施設に向かう。
そこには、既に全員が揃っていた。
「来たなヴァン、今日はお前からだ」
「畏まりました」
主君の声に応え、辺りを見渡す。
ビルの地下。
全方位を、ダンジョンから出土した頑丈な素材で作成されたトレーニングルーム。
そこで、某は全ての武装を外して行く。
昨日も、スルト、リン、ルウ、アイ、某の順で訓練を行った。
結果で言えば、全て失敗。
我等は、あろうことが主君へ襲い掛かった。
今日こそは理性を保つ。
そう意気込み、部屋の中央へ立った。
「行くぞ、ヴァン」
主君がこちらに掌を向ける。
「いつでも」
某の動きを見守る様に、他の者達が某を囲う。
準備は整った。
「――呪怨黒化」
昨日は、その言葉を引き金に我に黒い魔力が入って来た。
その瞬間、一瞬で意識が吹き飛びそれ以降の記憶が無い。
――しかし、今回は。
主君がそう言った瞬間、頭に色が浮かび上がる。
それは灰。
「黒く……ない……?」
スルトが、小さくそう呟くのが聞こえた。
そう、聞こえたのだ。
我は、周りの声を認識できた。
「ヴァン……?
制御できてるのか?」
主君が不安気な表情で、某を見る。
自分の手を見ると、真っ黒な魔力ではなく、灰色の魔力が灯っているのが見えた。
「くっ……」
しかし、身体が思った通りに動かない。
腕を上げるだけでも、かなりの負荷がかかる。
まるで、重力が増した様だ。
「動、け……!」
一歩、前に足を踏み出す。
それを見て、周りの者へ緊張は伝わった。
暴走した場合、他の皆で暴走者を抑え込む。
この強引な修練方法しか、今の所この力を鍛える方策は無い。
一歩。歩き。気を抜いた。
瞬間。
「ガァァァアアアアアアアアアアアアアアア!」
某の意識は、昨日と同じ様に吹き飛んだ。
目が覚めると、召喚獣の皆を始めに聖典メンバーやシャーロット、ファイに抑え込まれている。
「戻って来たか、ヴァンよ」
「ク……駄目だったか、スルト」
「いや、期待以上の成果だ。
何故、数秒意識を保てたのだ?」
「分からん」
拘束が少しづつ解かれながら、某はスルトへそう返答した。
「ふむ……」
いつもの様に考え込むスルト。
この男に、その姿勢はよく似合う。
顎に手を当て、虚空に視線を向ける。
「あぁ、いや……まだ確信するには早いか」
何かに気が付いたのか。
頷くような仕草をするスルト。
しかし、何処かその顔は悲し気に見えた。
「申し訳ありません、主君」
「いやいや、すげぇよ。
今まで誰も耐えてなかった訳だし。
使う度に強力になっていくっていう、面倒な能力だし」
「それでも必ず、物にして見せます」
「あぁ、期待してる」
そう言って、主君は某と拳を合わせる。
フランクな主君も居た物だ。
しかし、その様な関係が某には心地よく。
「きしさま、だいじょうぶ?」
「あぁ、心配を掛けたなシャルロット」
「あたま、さげて?」
「ん? こうか?」
膝を曲げて、シャルロットに目線を合わせる。
すると、少しだけ彼女は背伸びをして。
「よしよし」
と、頭を撫でて来た。
「どういう……なんだ……?」
「がんばったら、あたまなでてくれるの」
「ほう、誰が?」
「シャーロットおねえちゃん」
「ふむ、であればお前の頭も某が撫でてやろう」
「ふぇ? なんでー?」
決まっている。
天涯孤独で、ずっと研究所に幽閉され。
それでもお前は元気に笑っている。
頑張ったというのなら、それはシャロットも同じだ。
「お前は、良い子に育ちそうだなと思ってな」
「うん! しゃる、いい子だよ!」
その言葉を聞いて、某の心は少しだけ白くなったような。
そんな錯覚を覚えた。
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