第63話 危橋渡
「申し訳ありません。
恐らく、現状の戦力でヴァイスに……魔王と呼ばれるあの男には勝てません」
俺の逆鱗に触れた事を悟ったのか。
スルトは、膝を付き首を垂れる。
「それで、それが俺の秘密を探る事と何の関係がある」
「我は、主の力に答えを見つけようとしました」
「どういう意味だ」
「敵の召喚士と主は同じ能力を保有しながら、その性質に多くの違いがあります。
そこにしか勝機は無いと考えました」
「だから、なんでそれで椎名先輩の名前が出る」
「呪怨黒化。
仮に、その力を制御できれば、我等の能力を一時的に飛躍させる事ができるでしょう。
この力は、主の感情に起因する能力です。
感情とは記憶に起因する物です。
そのために、主の記憶を調べました」
……少し、熱くなり過ぎたか。
スルトはただ純粋に、俺を勝たせようとしただけ。
これは、俺が悪いな。
「お前はどこまで知ってる?」
「主が、探索者になると決めた日。
その日、椎名胡桃という女と何か合ったという事だけです」
「……そうか。
だったら、あの人の事はもう調べないでくれ」
「主、僭越ながらその者と話すのは危険かと。
主には、呪怨黒化という呪いがあります。
それは、感情の起伏によって暴走する。
であれば、その者との接触は……」
「黙れ。
調べんなって、俺は言ったぞ」
「……御意」
そう、スルトは再度視線を下げる。
心配しなくても、あの人と話したのはお前を召喚した日が最後だよ。
それ以降は、やり取りは何もない。
それに、俺はただ励まされただけだ。
相談して、話を聞いて貰って、楽になっただけだ。
それ以外には何も無い。
「悪いな。
正直、お前でも、あの人の事を詮索されるのは気分が良く無い」
「申し訳ありません……」
一度、深呼吸して怒りの様な熱を下げる。
隠してるのは俺自身だ。
そもそも、俺の記憶が無ければ、スルト達は短期間にこんなに成長していない。
それに、スルトの反応を見れば分かる。
俺が見せたくない記憶は見れないのだろう。
だったら問題無い。
「呪怨黒化を鍛えるなら、方法は一つしか無い。
お前も分かってるだろ、なんで最初から俺に言わなかった」
「危険かと……」
何を今更。
と、考えて……ふと、思い出した。
そう言えば、俺は常に安全な場所に居たんだよな。
基本的に、スルト達が戦っている間、俺は家にいた。
大学でも放送室という安全な場所に居た。
誘拐された時が初めてだ。
あんな前線まで行ったのは。
だから、態々ヴァイスはあんな大仕掛けをしたんだろうな。
「行くぞ」
「何処へ?」
「ここの地下、トレーニングルームになってるんだとよ。
エスラに木葉に雷道が居れば、一人位止められるだろ」
スルトが勝てないと判断した。
それは、俺が勝てないと判断するに足る理由だ。
にしても、勝つためとはいえ。
あの忌々しい力に頼る事になるのか。
「良いのですか?
主の御身が危険に晒されます」
「けど、俺はあいつに勝ちてぇ」
あのクソみたいな果たし状を送って来たから。
……じゃねぇ。
リンを、ルウを、アイを、ヴァンを。
召喚獣を殺し、混ぜ合わせ、ヴァイスにした。
俺なら、そんな力に目覚めてもそんな事は絶対しねぇ。
そんな奴が俺より強いなんて許せない。
最初から、俺の指針は一貫してる。
見返すのだ。
相手が間違っていると証明するのだ。
俺が正しいと、俺が強いと見せつける。
それだけが、俺の願いを叶える方法。
――そう、あの人が教えてくれた。
「なぁ、スルト」
「はい」
「もう、俺たち随分負けたと思うんだよ」
聖典にも負けた。
雅にも負けた。
錬金術師にも負けた。
ヴァイスにも負けた。
未来の俺にも負けた。
今回だって、もう諦めてるような物だ。
相手は、俺とヴァイスだけ。
なのに、俺はエスラや木葉たちの力を借りようとしている。
ファイやシャルロットとも契約してとか。
馬鹿か、俺は。
俺と俺の戦いに、他の奴らを混ぜて、俺の方が強いなんて証明できるかっつの。
「もう、負けたくねぇ。
相手が俺なら、尚更……」
「……はい。
我の力不足です」
「違うさ。
俺が、ビビってたんだ。
お前に言われて気が付いたよ。
責任を取るってのは、痛みを感じ、怖いを思いをするって事だよな」
「…………」
スルトは何も答えない。
けど、それがもう答えみたいな物だ。
お前が、言いたくない事が答えなんだから。
「未来の俺は、この力を御しきれずに死んだ。
なら俺は、この力を御しきってあいつに勝つ」
「……当然、お供いたします」
「あぁ、ありがとう。
……スルト」
「いいえ、我等がここまで成長できたのは、主のお力があればこそ。
いえ、きっとそれも違う。ヴァイスは違ったのだから。
きっと、この力を持っていたのが主だったからこそ、アンデッドである筈の我ですらこの生をここまで感謝しているのかと」
スルトがそう言った瞬間、俺の中で何かが変わったような。
そんな気がした。
俺と、スルトは地下室へ向かう。
エスラ、木葉、雷道、ファイ、シャルロット、シャーロット先生。
全員に協力して貰おう。
幾度暴走しても。
どれだけ死にそうになってでも。
きっと皆が止めてくれる。
だから、必ず呪怨黒化を制御してやる。
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