第61話 挑戦状
病院の先生からは、治って数カ月経つ傷痕みたいだと言われ、入院1日と軽い診察だけで退院になった。
家に帰ると、母さんが煎餅を口から取りこぼした。
親父は、『お揃いにしろなんて言って無いだろ、バカ息子』と俺の頭に手を置いた。
やらかしたんだと。
今更ながら、俺はそれを自覚した。
でも、母さんも親父も俺に探索者を辞めろとは言わなかった。
理由は聞いていない。
ただ母さんは「信じてるから」と、スマホに送って来た。
口で言われるのは、流石に恥ずいしこれでいいか。
4日程留守にしたのに、叱りの一つもない。
警察に捜索願とか出されてたっぽい。
警察が家に来た時に謝ってる声が俺の部屋まで聞こえた。
心配……かけたんだよな。
「だからこそ、か……」
まだ止まれない。
スルトにも怒られたし。
責任、取らなきゃだよな。
大人なんだから当たり前だ。
人任せにして来たツケ。
もしそれで失敗したなら、俺が代わりに補填して贖罪をする。
「行くか」
結局、帰って来て早々、1時間も立たずに俺は家を出た。
目的地は、聖典のビルだ。
作戦会議をするなら、会ってする方が確実だ。
相手は未来の俺。
皮肉というか、そもそもどういう風に思えばいいのかも謎。
でも、雅を無理矢理連れてった訳だし。
流石に、雅があそこで行った言葉を信じる程俺も馬鹿じゃ無い。
それに、ヴァイスは俺やファイたち、シャルロットも殺そうとした。
ビルに到着し、玄関から入る。
受付も居ないエントランスに、全員集合していた。
エスラ、雷道、木葉、ファイ、シャーロット先生、シャルロット。
そして、俺の召喚したスルト、リン、ヴァン、ルウ、アイ、ダリウス、夜宮さん。
因みに、生首だけになったファイと先生の予備パーツは研究所の中に保管されていた。
それを2人の指示に従って取り付ける。
すると、彼女たちは普通に動き出した。
人造人間って便利だな。
俺の義手とかにならないかと画策中である。
夜宮さんが。
「では、会議の続きを始めましょうか。
とは言え、まずは相手の居場所を探る方法に関してですか」
スルトが取り仕切る様にそう言う。
リーダーシップも有っては俺は嬉しいよ。
てか、スペックが高すぎる。
本当に俺の記憶から派生した知能なんだろうか。
「あぁ、それなんだけどさ」
俺がおずおずと左手を上げると、皆の視線が俺を向いた。
「居場所に心当たりでもあるんですか、先輩」
「いや……その……」
と言いながら、俺はポケットから一通の便箋を取り出す。
「これ、見てくんね?」
それは、母さんから受け取った物だ。
差出人不明で、俺宛に届いていたらしい。
しかも、今朝。
俺は一応中身を確認した訳だけど……
『果たし状』
馬鹿みたいな大きさで、一枚目にでかでかとそう書かれていた。
「あぁ昇君だからね………………」
「うむ主らしい………………」
「いや、はい……だって先輩ですもんね」
「ご主人様だ…………」
「王に相応しいのである」
「主様……フフ……」
「それでこそ主君かと」
「盟主、僕はそういう所も好きです!」
「まぁ、少年漫画みたいでいいんじゃないでしょうか」
と、手紙が回された順に皆言っていく。
そして、最後に。
「ギャハハハハハハハハハハ、馬鹿だこいつ!」
「うるせっぇえええんだよぉ!
テメェ、片腕だろうが関係ねぇ!
俺の召喚獣で囲んでボコボコにしてやるよ、筋肉脳筋馬鹿が!」
「やってみろバーカ!
今時そんなモン、ガキでも書かねえっつうの!」
そんな言い合いをしていると溜息が聞こえた。
エスラと木葉が頭を抱えている。
そして、他の面子はケラケラと笑ってる。
「はたしじょう……ってなに?」
「手袋を相手にぶつける様な物よ、シャルロットちゃん」
「……へぇ、あ、ありがと。
あと、ごめんなさい」
「気にしないで。
私から逃げた理由も分かるから。
今まで、実験する側だった私が信用できる訳無いわよね」
そう言って、先生はシャルロットの頭を撫でた。
シャーロット先生は俺と会った時シャルロットと離れていた。
それは、シャルロットが先生を信用しきれなかったのが原因だ。
まぁ、研究所の奴らの拘束が急に解けたんだから仕方ない。
ていうか、シャルロットとか先生も居るんだった。
ファイも俺をジッと見てる。
俺の話を聞いて勉強してる時の目だ。
流石に子供の前だし……
「ぐぐぐぐ……
やっぱやめとこう雷道……」
「あ、あぁそうだな……」
ていうか、重要なのは二枚目だ。
クソムカつくが読み直そう。
『よぉ、俺。
かいつまんで書けば、天童雅は預かったから返して欲しけりゃ俺を倒してみろっていうアレだ。
まぁ、5本以上召喚できる筈の聖剣を2本しか出せない剣聖とか。
無制限でノーモーションな転移の異能を開花させてない忍者とか。
あらゆる魔力を抹消できる異能を開花させてない脳筋とか。
Cランクなんか使役してイキってる召喚士にゃ無理な話だろうがな。
それでも、コテコテに負けたきゃ全員で掛かって来いよ雑魚共。
50日後、『無限の闘技場』ってダンジョンで待ってるぜ。
そんな実力じゃ、どうせこれから起こる厄災にも対処できねぇだろう。
そっちも俺が解決してやるから安心してボロ雑巾になってろ』
クソ、ウゼェ……
これが俺だと……?
俺はもっと、頭良いんだが?
もっとマシな文章書けるんだが?
バカアホバカ。
「何がヤバいって送り先の住所普通に書いちゃって、消した跡があるって事ですよね」
「あと便箋の販売地域から、大体何処にいるか調べられるよね。
結構、凝った造りしてるし」
「貴様等、主を馬鹿にするのは止めるのだ」
「でも、スルト君もちょっと思ってたよね」
「……思って等無い」
「嘘だぁー!」
「煩いぞ! 柊木葉。
会議を続ける」
「あー、誤魔化したー」
「主よ、彼等の言った通り調べようと思えば敵の現在地を特定する事は可能だと思いますが……」
「が?」
「奇襲自体が、ヴァイスに読まれている可能性は高いかと」
いや、この果たし状にヴァイスは関わってないんじゃないかな。
つーか、なんか思ってた俺と大分違う。
まぁ、それでも無理矢理連れてったのは事実だし……
あぁ、いやそういう問題じゃ無いのか。
「俺が決めて良いって事は、答えは無いんだな」
「はい。
この果たし状に乗るべきか、奇襲するべきか、我には判断しかねます。
貴方の思考だけは、ヴァイスと我にはイレギュラーですから」
「……天才って事か?」
「……勿論」
「なるほどな」
雅を早く助けたいって気持ちはある。
でも、思ったより余裕がある気がする。
寝て、目覚めて、そうすると何か冷めるというか。
冷静になる。
雅が、そんないい様にされるのかとか。
所詮、魔王とか言っても俺だし、とか。
ヴァイスの事も、憎み切れないと言うか。
あいつが、未来の俺を呼び出す理由も、なんとなく分かる。
そうなると、目の前にある熱の原因がうざったい。
こんな嘗めたモン、送って来やがった俺。
あと、俺の右腕の仇。
あと、色々サンキューヴァイス。
けど、殴る。
「受けて立ってやろうじゃねぇか」
「御意。
では、我等はそれまでに少しでも研鑚を。
そして、主に一つ願いがあります」
「なんだ?」
「資金が必要です。
聖典の口座は、天童雅とヴァイスしか引き落とせない様になっていたので」
「……お、ぉお……ま、任せとけって!」
ダリウスー、魔石集め手伝ってー!
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