第60話 確認 ※微エロ?
いつか、エスラの招待状で来た屋敷。
そこに、私は昇とヴァイスと共に転移した。
「お帰りなさいませ。
盟主よ」
いつかの使用人は、昇に対して跪く。
「ダリウスか。
お前も来てたんだな」
「はい。また、盟主の足としてお使いください」
「あぁ。
まぁ、暫くは外に出るつもりねぇけど」
「畏まりました。
お部屋を準備させて頂いております。
こちらへ」
「あぁ、行くぞ雅」
彼は、私の手を引いてダリウスの後を追う。
そのまま一室に通された。
少し広めの部屋。
中央にベッドがあって、隣のスペースにソファや家具が集められている。
「ラブホテルみたいな部屋ね」
「っ……あいつ等……悪い、別室にさせる」
「どうして?」
「どうしてって……嫌だろ、急に出て来た俺なんかと同じ部屋なんか」
「そういう自覚はあるのね」
「そりゃ、分かってるさ。
お前にとって俺は、誰とも知らない他人だ」
「それでも、貴方の名前は昇なんでしょ」
「お前の知ってる俺とは大分違うだろ」
そうかもしれない。
でも、その理由は私だ。
私が死んだから、彼はこうなった。
壊れた様な顔で、愛想笑いを浮かべている。
そんな彼を見て、私は……
「俺は別に、雅に不幸になって欲しい訳じゃない。
少しの間だけ、俺がお前が生きてる世界があるって事を自覚できるくらいの間だけ、一緒に居て欲しい」
この人はきっと、もう終わってる。
人生を終えている。
この人は不幸なまま死んだ。
過去に戻ろうと、この人の記憶はなくならない。
絶望は払拭なんてされない。
希望に目を輝かせる活力なんて残ってない。
そしてそのまま、彼はもう一度死ぬのだろう。
ヴァイス、貴方は間違えた。
そのやり方じゃ、誰も幸せにはならないのよ。
「悪かったな、無理矢理連れて来て。
けど、なんでこっちの俺にあんな事言ったんだ」
「あんな事?」
「俺の彼女になるなんて嘘っぱち」
確かに、目の前に居る昇と私の知る昇は全然違う。
今の昇は、私に別れを告げられる程度の事で壊れたりしない。
簡単に耐えきって、簡単に再起する。
そもそも、昇はもう私に未練なんてない。
あの人の周りには多くの人が居る。
木葉ちゃんも、リンちゃんも。
多くの仲間が居る。
けれど、この人の傍にはヴァイスしかいない。
何も残っていないと自分を哀れんで、全てを捨てて来たから。
そして、この人の心はモンスターでは満たせない。
全て失って、魔王なんて呼ばれて。
また呼び起こされて、また貴方は死ぬ。
私は知ってる。
神谷昇は、大事だと認識した相手には、馬鹿みたいに甘い。
自分の願いを簡単に折り曲げるくらい。
あの場で、私だけが彼を昇だと認識し幻視した。
「嘘じゃ無いわよ」
彼はあの時、誰も殺さなかった。
ヴァイスに命令したのは、防衛だった。
昇より、私より、ヴァイスより、ずっと深く多く。
彼の心は、死んでいる。
それでも、いない人間を幸せにしようだなんて私は思わない。
でも、呼び出されてしまったのなら。
そこに彼が居るのなら、私が彼を見捨てられる訳がない。
「私と付き合ってくれますか?」
心が壊れているのなら、治せばいい。
心が死んでいるなら、生き返せばいい。
彼とヴァイスが、私にそうしてくれたみたいに。
死ぬときは、死にたくないと言いながら死ぬべきだから。
「冗談はやめてくれ。
何、言ってんだよ……」
「自分で自分に、無くした物を全部取り戻すって言ってたじゃない」
「だから、もう取り戻してるんだよ。
ヴァイスが上手くやってくれた。
あれは、少しだけこの世界を見たいってのと、お前を連れて行く時に」
「私を悪者にしないため?」
「そういう……訳じゃ……」
「私じゃ嫌?
きっと貴方が離別した彼女と、同じ顔で同じ体で同じ性格よ」
「お前は後悔するに決まってる」
「かもしれないけれど、それは貴方次第よ」
「俺じゃ、お前を幸せにしてやれない」
「私が貴方に幸せになって欲しいから、言ってるの」
私は彼ともう別れてしまった。
もしかしたら、ヴァイスはここまで計算していたのだろうか。
それなら、悔しいけどあいつの勝ちね。
目の前の昇の手を引いて、私は彼をベッドの前まで誘導して、押し倒される様な形をとる。
「沢山、頑張ってくれたのよね。
助けてくれて、ありがとう」
私がそう言うと、彼は顔をくしゃりと歪ませて涙を零した。
涙が私の頬に落ちて伝う。
「ごめん。ごめんな……俺……あの時、何も出来なくて。
身体が震えて動かなくなって、お前は俺を守ってくれたのに……」
「いいのよ。それはきっと、絶対、私が望んでした事だから」
貴方の自責の念は全て私が許す。
貴方を二度と魔王なんて呼ばせない。
「貴方が好きよ」
そう言った瞬間、チクりと、心臓が痛んだ気がした。
「俺も、俺もお前を愛してる……」
容易く彼は、私の首筋に顔を埋める。
◆
コツコツ……と。
扉がノックされて、開いた。
「主は……」
入って来たのはヴァイスだった。
「寝てるわよ」
昇をベッドで寝かせた私は、ソファに腰かけて返事をした。
「ていうか、人の裸まじまじ見ないでくれる?」
「我等にその様な感情は無い。
着替えを持って来た」
「ありがと」
私はヴァイスの持って来た衣服に袖を通す。
「少し、話があるわ」
「奇遇だな。
我等もだ」
「まず、貴方は最低。
主人の為なんて言って、貴方は貴方の事しか考えてない」
「あぁ、その通りだ。
謝罪する。
そして、感謝する。
やはりお前は我等の見込んだ通り、太陽の巫女だった」
「貴方がそう誘導したんでしょ。
最初にチェスで負けたのも態と?」
「いいや、アレを見て貴様に任せるべきだと思ったのだ」
「あっそ……
昇を召喚する事を決めてたなら、煙草くらい持ってるわよね」
「あぁ、それがどうかしたか」
「1本、頂戴」
「吸うのか?」
「高校の時、隠れて吸ってたの。
知ってるのは昇だけ。
付き合ってからは控えたけど、いつも終わった後に1本だけ吸ってた」
私の独白を聞き流し、ヴァイスは煙草のケースを差し出す。
「悪いが、これしか用意は無い」
「これ、初めて見る銘柄」
「主が未来で好んで吸っていた物だ」
「未来にしか無いの?」
「いいや、今も普通に市販されている」
「そう、私を思い出すために吸ってたんじゃ無いんだ。
良かった……」
ヴァイスの手に有ったのはファイブスターという銘柄。
私の吸ってた奴とは違う。
「そう言えば、貴方って昇が最初に召喚した
「だから、何だというのだ……」
「不幸自慢がうざいのよ」
貴方も……私もね。
「昇は……どれくらい生きられるの?」
「気が付いていたのか」
「貴方が私に何か隠してたから、調べただけ。
そしたら、魔術なんて意味の分からない技術がある事が分かった。
私もまだ何となくしか理解してないけど、あの召喚が完全じゃ無いって事くらいは分かるわ」
昇の腕一本。
シャルロットという竜人の子供の膝下。
ファイとシャーロットの首も外に出てた。
触媒も生贄も完全じゃ無さすぎる。
「持って、2ヵ月という所だな」
「そう……だったら、それまでは貴方の思い通りに動いてあげる」
あの人を私が必要ないくらい強くする。
そうして、私をこの人に宛がう。
それが、ヴァイスのプランの一つだった。
「だがお前は、我等の考えに気が付いて筈だ。
何故、止めなかった?」
「貴方が自分の意志で止めないと意味が無いから」
「この時代の神谷昇が死んでもか」
「貴方こそ、昇の異能に気が付かない訳ないでしょ」
あの時、ファイと名付けられたクォーターが動けたのは、昇が名前を付けていたからだ。
でも、そもそも、彼女たちが居る場所に昇を監禁させたのはヴァイスの指示だ。
「貴方が、昇を殺すかもなんて最初から考えて無いわよ。
片腕っていうのは、想定より随分重かったけれどね」
この煙草、あんまり美味しくないな。
「お前が、自分の感情を殺してでも他者の為に動ける人間で良かった」
「昇のが移ったのかしら。
いえ、私には貴方の主人も昇にしか思えないってだけね。
昇じゃ無かったら、殺してる」
「それでいいさ。
どうかあのお方を、頼む……」
「貴方に頼まれたからやるんじゃないからね」
「分かっている。
それでも、我等はお前に最大限の感謝を送ろう」
「貴方は、この昇が消えた後どうするの」
「主が幸せに死んでくれるのならば、それ以上の幸福は無い。
その先は、何も考えて居らんな」
「だったら、今度こそ私に従いなさい」
「まだ、我等を信用できるのか?」
「昇の召喚獣だから……ね」
「……ふむ、構わぬ。
我等の願いを叶えてくれるのならば、恩は返す。貴様にも」
「もう裏切るのは無しよ」
「理由が無ければな」
そう言って、ヴァイスは少し笑った。
憎たらしい。
でもなんでか、私はヴァイスを悪く思えない。
「お腹が空いたわね」
「主が目覚める前に、食事を用意するとしよう」
「私も手伝うわ」
そして、私とヴァイスは眠る昇を残して部屋を出た。
◆
「はぁぁぁあああ……
なんであの
もう、それだけで腹いっぱいだっつの」
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