第54話 監禁


 ガラス張りの監禁所。

 大部屋の中央に、俺の区画が設定作られてるらしい。


 そして、首に付けられた重厚な首輪。

 首輪からは鎖が伸びて、俺の移動範囲はこのガラス張りの部屋だけ。

 しかも便所とちゃぶ台くらいしかない。


 それに、何故かスキルが使えない。

 召喚しようと試みても誰も呼び出せなかった。


「神谷昇様と仰るのですね」


 ガラスの向こうに女が居る。

 女は俺の財布を勝手に開けて、学生証を見ていた。

 シャーロット先生と瓜二つの外見。

 それが、多分100人以上。


「まぁ、一応そういう名前に生まれて来たけど。

 そっちは、何て呼べばいいのかね」


「シリアルナンバー51と」


「長い」


「では、シリアルとでも」


「他の奴呼ぶ時に困るじゃん」


「……お好きな様に」


「……じゃあ、ファイで」


「一桁目を日本語で、二桁目を英語にした場合の頭文字ですか?」


「まぁ、単純だけど。

 流石に全員に名前つける訳に行かないしな」


「理解しました。

 それではファイとお呼びください」


 それと同時に、後ろに居る奴らも自分の名前を確かめる様に呟いている。


 ファニ52ファサ53ファヨ54ファコ55

 シシ64セイ71エナ87

 多いな。


「あの質問です。

 100以降はどうすれば?」


 なんで、俺はこいつ等に名前を付けてるんだろう。

 そんな疑問を感じつつ、質問に答える。


「ハンドレットのハでいいんじゃね」


「……なるほど、では私はハワイ111ですね。

 ありがとうございます」


 何故、俺は誘拐犯から礼を言われているのだろう。


 そんな事を考えていると、彼女たちの奥にあった扉が開く。

 そこから入って来る男。

 黒髪黒目。日本人っぽいけど。

 丸眼鏡を掛け、かなり痩せている。

 服装は白衣だ。

 研究者なのだろうか。


 ただ、彼の装いで最も目立つのは体形や服装では無い。

 その手に引きずられる少女だ。

 ファイたちと同じ外形の女性。


 その肌は切り傷と内出血で覆われている。


 その男が入って来るとファイたちは、男に道を開く。

 そして、全員が一斉にお辞儀をする。

 大名行列みてぇ。


「こいつを治しておけ」


 そう言って、連れて来た女を捨てる様に床に投げやる。

 そのまま、顔を踏みつける。


 こいつとは、仲良くなれなそうだ。


 その男は、カツカツと靴音を鳴らしながら俺の居るガラスの前まで来る。


「あれは失敗したんだ。

 僕は天童雅を連れて来いと命令したのに。

 来たのはどうでもいい、君一人。

 だから罰を与えた、当然の事だろう?」


「そんじゃあ、お前の命令が適切じゃ無かった罰をお前も受けなくちゃな」


「立場を弁えた発言をしろよ」


「他人の研究成果でイキってるパクリ研究者に言われると耳が痛いね」


「もう、あいつが考えていた研究成果とは別物だ。

 あいつは所詮魔物と人間を合成させる事しかできない。

 だが、僕はクローンを作り竜人の血が80%以上の確立で適合可能な、こいつ等を作った。

 奴とは戦力の規模が違う」


「どっちにしても、あの錬金術師有りきの研究って事じゃねぇか」


「お前等に何が分かる……!

 僕は天才だ。奴すら越える研究者だ!

 貴様の様な聞いた事も無い大学に通う様な奴とは格が違う」


 そう言うと、男は俺に自分が何処の大学を卒業したとか、博士号があるとか、研究成果とか。

 まぁ、色々と教えてくれた。

 大学生相手に学歴マウントって何考えてんだこのおっさん。


 とは思うが、教えてくれるなら聞いておく。


「どうだ。

 分かったか」


「あぁ、分かった分かった」


「フン!

 お前は聖典との交渉に使えるかもしれんからまだ生かしておいてやる。

 だがな、要らないと判断すれば即処理する。

 精々震えて居ろ」


「そりゃどうも」


「それとな……」


 言いながら、男はガラス張りの部屋の支柱にある電光板を弄り始めた。


「カハッ」


 その瞬間、俺に取り付けられた首輪が絞まる。


「年上には敬語を使え」


 そう言って、男は立ち去っていく。

 ふざけんな、このままじゃ窒息する。


「僕は必ずチャンスをモノにする。

 僕への研究費を打ち止め、奴への技術提供費とした連中を必ず見返してやる」


 憤怒の籠った表情でそう言って。

 男は部屋から立ち去った。


 それを見て、ファイが電光版を操作してくれた。


「大丈夫ですか?」


「はぁ……はぁ……死に掛けた……」


 けどまぁ、情報は粗方手に入った。

 結果的には煽って正解だったらしい。


「けど、良かったのか?

 勝手に解除して」


「この部屋では、自由にして良いという命令を頂いています。

 私は貴方にお願いがありますから死なれる訳には行きません」


「ん?

 そりゃ、できそうな事ならやってもいいけど……」


「私達は生まれてこの研究所の事しか知りません。

 なので、外の事を教えて頂きたいのです」


 この女達は、シャルロットを狙い、雅を狙い、俺を誘拐した。

 それが彼女たちの意思ではないとしても。

 その一味である事に変わりはない。


 けれど、何というか見た目に反する幼気な雰囲気。

 そして真摯にお願いする姿勢を見てしまうと。


「外に出た事ないのか?」


「えぇ、私達は所詮模造品。

 より正確には道具です。

 ですが、50番以内のお姉様方の様に、成長と勉学を終えれば外へ任務に出向く事も増えるでしょう。

 その為に、予備知識を持っておきたいのです」


 断るべきだ。

 この組織の任務なんてのは成功率が低ければ低い程、俺にとっては都合がいい。

 その筈なのに。


「……別に、それくらいならいいよ」


 そう、言いたくなってしまった。

 それに、どうせここに居る間は暇だ。


「ありがとうございます」


 そう言って笑うファイを見ると。

 何というか、拍子抜けする。


 多少、拷問めいた事をされるんじゃないかとビビってた所はあったし。


 どうせ、召喚はできない。

 この首輪が雅の持ってた魔封石とか言う奴なんだろう。

 確か、対外に魔力を放出できなくなる。

 みたいな感じ。


 だから、この時点で俺の仕事はほぼ終わりだ。

 少しの間、先生ごっこに付き合うとしよう。


「ま、召喚以外は使えるんだけど……」


「え……?」


「いや、こっちの話。

 なんか聞きたい事とかあるのか?」


「はい!」



 それにしてもあの男、俺が召喚士だって知らないのか?

 どうでもいいって、結構ニュースでは目立ってたんだけどな。

 スルト達が。


 シャーロット先生には俺が探索者で、召喚士って事はバレてた。

 なのに、それを管理してるっぽい男は俺の事を知らない。

 報告が遅れてるだけなのか、別の理由があるのか。


 少し疑問に思いながらも、俺は目の前の外見大人の見た目子供たちにの、色々な疑問に答えていく事にした。



 ◆



 俺:って訳だから。

 俺:お前達は聖典と協力して、さっきの男の事調べてくれ。

 スルト:御意。

 俺:まぁ、思ったより安全そうだから救助は作戦練ってからでいいぞ。

 スルト:畏まりました。

 俺:それとさ。

 スルト:はい。

 俺:雅キレて無かった?

 スルト:かなり不機嫌な様子かと。



 正直、あいつのスペックは高い。

 でも、雅の本領が出て来るのはキレてる時だ。

 そして、あいつのキレ処は『敗北』だ。


 だから、もし勝ちたいなら。

 2ラウンド目は絶対に用意してはいけない。

 1ラウンドで完勝できなければ、次は無い。


「俺知ーらね」


「どうかされましたか?」


「ん、あぁいやなんでも。

 だから、合コンっていうのは実は真面に恋愛対象探してる奴なんて殆ど居なくてだな……大体ワンナイト目的っていう……」


「なるほど、合コンとは恐ろしい場所なのですね……」



 俺、何教えてんだろ。

 つか、こいつ等なんでこんな事聞いてくる訳?

 絶対任務と関係ないよね、この情報。

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