第46話 切り札


 憑依先選択。

 ダリウス。



 俺:悪いなダリウス。

 ダリウス:いえ、それよりスルト殿からの作戦は。

 俺:あぁ、頭に入ってる。

 スルト:主、強化術式の方は問題ありませんか?

 俺:あぁ、暫くは大丈夫だ。



 雅の方には生徒は集まらない。

 ルウという怪物に近づける生徒は少ない。

 来た奴は、ルウは気絶させればいいしな。


「もしかして先輩ですか」


 そう声を掛けて来た後輩。


「おぉ、木葉か……早いな」


「さっきまで怪物にされてたのにすぐ働けって、ちょっと天童先輩って鬼畜ですよね」


「ははっ、それは本当にそう」


「お前、龍に変身できんのか?」


 雷道も木葉の隣に居る。


「召喚獣に乗り移ってんだよ」


「意味が分からねぇ」


「じゃあ分かんなくていい」


 減らず口を言いながら戦場を確認する。

 スルト、ヴァイス、ヴァン、アイ、ダリウス、木葉、雷道。

 そして、スカルが200匹くらいと死体が100匹くらい。

 それが、こちらの全戦力。


 対して、錬金術師の戦力は人面魔物100匹。

 けど、倒されるたびに懐から召喚してる。

 多分、同時に操れる数に限りがあるタイプ。

 けど、それはスカルと死体も同じだ。


 そして、飛龍種の人面魔物が4匹。

 地味にこの4匹が一番不味い。

 まず飛んでるのがマズい。


 この時点で接近戦闘できるのがダリウスとヴァンだけ。

 ヴァイスが魔法を撃ってるが当たる気配が無い。


「魔力に敏感なようだな。

 今使える術式速度では当たらん」


「そうだな、我の弱体も感知されて避けられている」


「ヴァイス、援護してくれ。

 俺が突っ込む!」


「了解、主……いいや、神谷昇よ」


 そうだ。

 俺はお前の主じゃない。

 別人だ。

 全く別の人生を歩んでいるのだから。

 だけど、俺はお前が仲間で良かったと心から思う。


「頼んだ!」


「まさか、その様な言葉を貴方から言われる日が来ようとは……」


「主は、いつも我に期待し頼って下さるぞ」


「そうか。

 主の人生を身勝手に歪めた我等の行い。

 失敗だった訳では無さそうだ」


「大成功に決まってる」


 ダークネイルで雷を鱗に纏う飛竜へ爪を振るう。

 西洋系の顔面を持つ人面魔物。

 こいつが素材として使っている人間は、日本人だけじゃないって訳だ。


「ストーンバレット」


 ヴァイスの術式が俺の爪を避けた飛竜の先へ飛ばされる。

 先読みの能力の高さ。


 そして……


「捕まえた」


 弱体術式が、龍を捕らえる。

 ほんの一瞬、雷の龍が硬直した。


「「畳み掛けろ」」


 ヴァイスとスルトの声が重なる。


「炎遁・幻花火」


「炎拳雷脚」


「血影一閃」


「集中光線」


 4つの技が重なって、1匹に集中する。


「なっ」


「クソが」


「ッチ」


 真面に通ったのはアイの光線だけ。

 それ以外の技は全て、他の飛竜によって止められた。


 木葉の花火は火龍が身体で受け止めた。

 ジャンプして叩き込まれた雷道の拳は、氷の龍の足に止められた。

 ヴァンの剣は水龍の翼と一体化した爪と交差する。



「ははははは、素晴らしい!

 それは生前の本能か?

 それとも探索者としての知恵が残っているのか?

 同じチームの探索者4人で、お前達を作って正解だった!

 あぁ、本当に探索者というのは仲間意識の塊だね」



 イラつく声が、戦場に響く。


 よく見ろよ、まだ俺の一撃が残ってるだろうが。


「安寧を願うよ、名前も知らない探索者。

 ダークブレス!」


 キルカウントを最大まで蓄えたダリウスのブレス。

 それは、ミサイルの様な火力を持つ。

 雷龍という着弾点から暴風が発生した。


 結界が合って良かった。

 雷龍を貫通したブレスが、外に出ちまうからな。


「まずは1匹」


「何処がだ」


 そう言って、錬金術師は指サイズの石を墜落した龍へ投げる。

 龍はそれを器用に口でキャッチした。

 噛み砕き、飲み干して。



 ――龍の傷が癒えていく。



「VvvvOOOOOOOOOOOO!」


 龍の咆哮が、呼応する。

 咆哮はいつしか4つへ増え。

 その口の中に、エネルギーが収束していく。


 報復って訳かよ。


「ヴァイス、一つ任せて良いか?」


「あぁ、もう一つは任せる」


「一匹は俺が止める」


 それだけ言って、俺たちは動き始める。


「多重詠唱・アイスシールド」


 それが、氷の龍の前に展開する。


「強弱歪曲」


 雷龍ブレスの発射方向がズレる。


「ダークブレス」


 水のブレスの発射に合わせて黒いブレスで対抗する。


 けれど、最後の一撃。

 火龍のブレスが……


「拡散縛光……!」


 メデューサの瞳が光り、そこから発生られる光が重力の枷となる。


「VvvvOOOOOOOOOOOO!」


 だが、火龍の動きは止まらない。

 無理矢理ブレスを放とうとしている。


 そして、その方向は……


「素晴らしい……

 それは正しく知能だ」


「体育場……」


 スルトが忌々しく呟く。


「いいや、その少し手前。

 天童雅を狙っている」


 魔術でブレスの一本を防ぎながら、ヴァイスも呟いた。



 その瞬間、俺の頭に声が響いた。



 ――王よ、憑依を。



 その声に従って、俺はダリウスの憑依を切り替える。



 俺:ルウ、何か策があるのか?



 それが声の主だ。



 ルウ:転移で盾にブレスを当てる事は可能です。

 ルウ:しかし、空中では踏ん張る事もできず、押し飛ばされ無力でしょう。

 俺:そうか……


 ルウ:拙者が今のままであるならば……



 ルウは俺に願う。

 スキルの実行を。

 種族進化の実行を。

 けれど、俺には分かる。

 お前はまだ進化できない。


 それでも。



 ――今、今なのです。

 ――全身全霊を賭し、命を投げうってでも、死守する事。

 ――それが、拙者の守りたい物全てを守れるタイミング。

 ――故に、拙者はここに誓うのである。

 ――神に誓って、この一撃を防ぐと。



 あぁ、そうか。

 確かにお前は種族進化はまだできなかった。

 3秒前までは。


 行けるぜルウ。

 お前の誓いに……

 お前の思いに……


 お前がそれを望むなら。

 俺も全霊でそれに応える!


「種族進化」



 ――Cランク・聖死体。



 死体が……

 アンデッドが……

 聖者を気取るなど、許される事ではないのかもしれない。


 けれど……


「王は我を認めている」


 王権神授。

 それは、俺の何の使い道も無かった魔力を吸い取って、ルウの全能力を強化する力。


「好きなだけ持ってけ」


「御意!」


 もう、彼女にゾンビの様相は無い。

 少し顔が青い普通の女性。

 黒髪が整い、金眼が光る。

 

 彼女は祈る。

 彼女は願う。

 彼女は称える。


 そして、哀れむ様に力を振るう。


「受け止めきれないのなら、弾き飛ばせば良いのである」


 盾を持ち、振りかぶる。

 そして、足に全力の力を込めクレーターを作りながら飛び上がった。


 そこへ、火龍の放った巨大な火球が飛来する。

 着弾すれば雅どころか体育場も吹っ飛ぶ火力。

 けれど、そこは俺の騎士が居る。


 火球の起動とルウの跳躍の起動がクロスした。

 その瞬間、振りかぶった盾が振るわれる。


 シールドバッシュ。


「拙者がここに居る限り、何人も聖域は汚せぬ」


 まるで、野球ボールのように吹っ飛んだ火球。

 それは上空で結界にぶち当たり消滅した。



 スルト:よくやった。

 俺:助かった。

 ルウ:任務を全うしただけであります。



 その声と共に、俺も憑依を切り替える。


「では、始めようか」


「うむ、大体の戦力は確認した」


 滞空していたスカルが動き始める。

 それは、2人の軍師の決めた合図。

 木葉と雷道への作戦共有もできたって事だろう。


 狙うのは龍じゃない。


「今更私を狙うのかい?」


 言葉に従う様に、人面魔物たちが錬金術師を守る。

 けれど、こいつの言葉は間違っている。

 俺たちが狙ってるのはこいつじゃない。


 そもそも、なんでこいつはここに居る。

 この一週間、何故かコイツはここから動かなかった。

 雅が言うには、結界の穴を塞ぐため。

 じゃあ、どうやって塞いでる?


「なるほど、狙いは結界の破壊か」


 お前の足元に形成され描かれた魔法陣。


 こっちには、ヴァイスっていう博識者が居てな。

 その魔法陣が、結界の脆い部分を補強してる事は分かってる。


「させると思うかい?」


 飛龍も動き始める。

 俺たちの迎撃。

 けれど、スカルの数は200匹。

 死体たちも連動して動いてる。


 それを前線として。


「ダークブレス!」


「ファイアーボール」


「狙撃光線」


「伸縮一刀」


 遠距離攻撃で前衛毎削る。


 敵を追う戦闘方法ではなく、エリアを奪い取るゾーン攻撃。


 そもそも、俺一人じゃ魔法陣にすら気が付いてない。

 魔法陣の効果は、ヴァイス曰くその内部に錬金術師が立っている限り結界の脆い部分を補強するという物。


 なら、錬金術師をどかすか、魔法陣その物を壊せばいい。


「悪いけど、そう簡単には退けないな」


 人面魔物が盾になって、錬金術師を守る。

 その間に、飛龍のブレスによる爆撃が始まる。


 ッチ。

 クレーターが幾つもできて、戦場は混沌と化して行く。



 けれど、


 その中で、ひっそりと忍んでいた者が居た。



「よくも、気持ちの悪い姿にしてくれましたね」



 錬金術師の真横。

 そこで、忍者は最後の一手を。


「炎遁・幻花火」


 バチバチと、火花が連鎖する。

 それは木葉中心に徐々に広がっていく。


「それでも……退く訳には行かないかな」


 火花の中で、まるで痛みなど感じないとでも言わんばかりに。

 マスク野郎は火花を受け止める。

 骨折とか、それ位じゃすまないだろ。


 実際、受けている時、その身体はぐちゃぐちゃと動いていた。

 本当に、全身の骨が砕けるみたいに。


 なのに。


「守れ」


 何も無かったかのように、それは立ち上がる。

 人面魔物が集まって、マスク野郎と木葉の間に並ぶ。


「悪いですけど、私の隠密の定員は2人なんですよ」


「はっ、人に言ったんだからちゃんと見せてくれんだよな。

 脳筋野郎!」


「当たりめぇだろうが!」


 そう言って、雷道シュレンは拳を引く。

 その手に焔を宿した、正拳突きが。


「構えてから隠密解きなよ。

 馬鹿なの?」


 そう言って、懐の小石から人面魔物が出現する。

 まるで、盾になる様に。


「馬鹿はテメェだ。

 俺は、自分の力を磨く事で手を抜いた事はねぇ。

 焔纏い――貫拳」


 その突きは、人面魔物の腹部に直撃。

 そこで終わると思われた。

 だが、その突きのエネルギーは抉る様に奥へ流れる。


 弾く様に、一番後ろのマスク野郎の身体が吹っ飛んだ。

 魔法陣の直系は3m程。

 あのまま飛べば必ず外に出る。


「私を陣から出すな!」


 その命令に人面魔物が動く。

 だが、そんな真似を軍師共が許す訳ねぇだろ。


「チェインライトニング」


「筋力弱体」


 錬金術師を助けようと動いた魔物の動き。

 その全てを、潰す。

 それができるのは、彼等が戦況の全ての流れを把握していたからだ。


「中々、侮っていたらしい」


 錬金術師はそのまま二度バウンドして、陣の外へ出た。


「でも、また戻ればいいだけだ。

 結界が脆くなるからって、直ぐに破壊できる訳じゃない。

 破壊するには、相応のエネルギーを中と外の両方からぶつけないと……」


「「ふむ」」


 呆れ顔で、スルトとヴァイスがマスクを見る。


 よし、代わりに俺が言ってやろう。


「そんな事、最初から分かってんだよ」


 ドヤ顔で、そう言ってやる。

 ダリウスの爪で、魔法陣を描きながら。


「切り札は、最後まで取っておく物だ」


「これで、詰みだな。錬金術師」


 来い。リン。


「後は任せるぜ」


「そうですよ、リーダー」


 木葉と雷道が、安心する様に呟く。


 結界の向こう側で、一人の男がこちらを睨む。


 召喚陣からリンが現れた。


 完全武装だ。


 一週間前、俺たちは負けた。

 その時、全部の装備が無くなった。

 けれど、戦闘中にスルトがスカルで集めていたのだ。

 それを、リンの元まで届け終えて着替えて貰った。


 今までの戦闘なんてのは、この状況を作る為の陽動でしかない。


「行くわよ」


「あぁ、あの時の続きを始めよう」


 結界の中と外でそう話す2人。


「あの時と、同じだと思わないで」


「そうか、ならば僕も全力で一撃を放とう」



 明るい桃色の魔力が拳に宿る。

 それは、リンの持つ紫の炎と雷を集中させた物。


 濃く、一点に。


 二本の聖剣が重なり、一本に戻る。

 輪部が赤と緑に輝く新たな聖剣。

 それが、大上段に振り上げられた。



「桜魔……ッ!」


「シル・フィグニス……ッ!」

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