第47話 最終決戦
リンを最初から戦わせなかったのには理由がある。
リンは強い。
他の全員が単体では相手にならない程。
だからこそ、リンが負ければ終わりだ。
リン以外のメンバーでも対応能力はある。
スルト、ヴァイス、雅を中心に。
他のメンバーは戦い方も色々だ。
様々な局面に対応できる。
そして、数の上でも軍配はこちらに上がった。
ならば、リンの投入は最後。
押し切ると、決めた時。
そして、それは結界の破壊が条件だ。
もう一人の最強が、戦場に足を踏み入れた時、2大切り札で押し切る。
まぁ、俺が自分で考えた訳じゃねぇけど。
桜色の魔力と、赤緑の炎風が、結界を中心にブチ当たる。
双撃は結界の一部に亀裂を生じさせた。
亀裂は大した事の無い大きさ。
人1人、ギリギリ入れる隙間がある程度。
そこから人影が一つ侵入してくる。
結界は直ぐに塞がり、結局入ってこれたのはその1人のみ。
だが、それで十分だ。
「多分僕は今、加減ができない。
僕の仲間に手を出した事、後悔して貰う」
聖剣の切っ先をそれに向け。
「それはあたしも同じ。
仲間をこんなに傷つけられて。
好きな人も守れなくて。
腹が立ってしょうがない」
和装に身を包み、その手を敵に翳し。
「人殺しの英雄に、人間に憧れるモンスターか」
それでも、敵は臆す事など知らぬとばかりに。
ただ、その刺客の姿を笑い飛ばす。
だが、そんな煽りはキレてる奴には関係ない。
龍種が4匹。
しかも再生能力持ち。
人面魔物が100匹になる様に絶えず召喚されている。
でも、それだけだ。
「それでは神谷昇、我等はここで。
また会える時を楽しみにしております」
「あぁ……助けてくれてありがとう。
ヴァイス・ルーン・アンルトリ」
「我等には過ぎた……言葉かと……」
そう言って、ヴァイスは姿を消す。
召喚が解除されたのだ。
雅の魔力をこれ以上減らさない為に。
雅の強化がダリウスの身体から抜ける。
スルトや他の召喚獣、死体やスカル、木葉たちからも。
その強化は、たった2点に集中する。
白い魔力が、銀騎士と鬼の姫に宿る。
「僕が前衛、君が後衛。
文句は……」
「無いわ」
「行こうか」
そう言って、剣聖は駆けだした。
最強の剣士と呼ばれるエスラ。
だがそれは、聖剣を持つからではない。
それは彼の、純粋な剣術の腕による物。
「抜刀」
あの剣に鞘など無い。
腰へ剣を宛がい、狙い、振るう。
たったそれだけの動作。
けれど、洗練された技は俺の目から消える。
それほどの抜刀速度。
その一閃の先には炎と風が渦巻いて。
30匹近い人面魔物が空中へ打ちあがり、燃え尽きる。
そこを見据える4匹の龍眼。
既に、口元はブレスを吐き出す体勢。
だが、エースは剣聖1人じゃない。
「炎雷万象」
指揮者のように手を翳す。
そこから発生するは雷と炎。
右手と左手で独立した動作。
その先で、手に従って渦巻く力。
それは、空中に居る龍を穿つ。
紫炎が焼き尽くし。
紫電が貫通する。
パチパチと。
バチバチと。
その身が燃え、鮮血を巻き散らす。
「行きなさい」
焔が二本。
それは橋を作る。
エスラとマスク野郎を繋ぐ、直線の道。
その中には、何人たりとも踏み込めない。
「あぁ、助かるよ」
ただ、英雄は翔ける。
その在り方が当然という様に。
そうする事が当たり前という様に。
「そうやって、また人を殺すのか?」
「それで、罪の無い多くの人が救われるなら」
「自己中な男だ」
「自覚してるさ。
それでも僕は、自己中に君を殺す」
心配するなよ英雄。
きっとお前の隣には賢者様が居てくれる。
その力は俺が保証してやるよ。
4年も一緒に居た俺が。
「だが、残念だな。
切り札とは最後まで取っておく物、らしいよ?」
そう言って、マスク野郎は注射器を一本取り出し。
――自分の首へ。
「あれ……?」
取り落とした。
「筋肉弱体」
スルトが、小さくそう呟いていた。
剣先が錬金術師の腹部を貫く。
「爆ぜろ」
その言葉を引き金に、錬金術師の身体が燃え上がる。
一瞬。
瞬殺だ。
エスラが入って来て3分も経ってない。
けれど、リンとエスラの戦力は圧倒的で。
「さて、思ったより簡単に片付いたね」
「雑魚じゃない、この程度?」
天才曰く。
どちらか一方だけなら。
錬金術師の妨害戦術は機能する。
しかし、もし騎士と姫が完全な状態で同じ戦場に同時に存在すれば。
思い出す。
作戦を聞いた時、雅が最後に言った言葉を。
『勝負は一瞬でしょうね』
結局、全部あいつ等の言った通りかい。
けどまぁ、マジで助かった。
「スルト……よくやってくれたな」
「いいえ、今回の功績は全てヴァイスへ。
あの男の願いはきっと、その言葉を言って貰う事だったのでしょうから」
確かにな。
「態々未来から来てくれたんだからな。
今度、礼の一つも言いに行くか」
「チェスという遊戯が趣味の様です」
絶対俺負けるじゃん。
けどまぁ、ちょっとくらいなら付き合ってやるか。
そんな事を考えていると、結界が解除され始めた。
結界は錬金術師が発動してたっぽい。
って事は、あいつ大学全部をダンジョン化する術式を発動しながら戦ってたのか?
そりゃ、魔物頼りになるわ。
結界が完全に解ける。
結界を囲んでいた自衛隊や警察が突入してくる。
体育場へ生徒たちを迎えに行かせた。
俺もそっちに保護されよ。
他は送還して、リンと視覚共有した。
その後に来るのは。
多くの報道陣。
そういや、ここを中継してたっぽい。
マジこいつ等、雑な記事書きやがって。
まぁ、それが仕事なんだから仕方ないのかもしれないけど……
こっちはお陰で大変な目に遭った。
「暗月の塔について一言!」
「世間からは今回の事件も自作自演なのでは無いかと、思われる部分もあると思いますが? どうですか?」
「この事件に関しても、何か関わってるんじゃ無いんですか!?」
「本当に暗月の塔で無実の人間を殺害したんですか!?」
それが、今回の事件を解決した人間に掛ける言葉か。
と、思う。
そして、そう思ったのは俺だけじゃないらしい。
久志:私を召喚して頂けますか?
俺:いいんですか? 今の貴方の姿は……
久志:今回、私には何もできませんでした。
久志:だから、こういう時こそ大人の対応というのを見せる時だと思うんです。
そうして、夜宮さんは報道陣の前に姿を現した。
自分は生きている。
聖典に匿って貰っていた。
その理由は魔物化した事を知られるのが嫌だったから。
聖典は自分を保護してくれている間、様々な社会復帰の提案をしてくれた。
そう、報道陣へ説明していた。
被害者が生きているのだから、殺人などされている訳が無い。
大人の対応。
それは、報道陣に向けてと言うよりは聖典に向けてな気がした。
自分を殺した相手。
それを庇う様な振る舞い。
でも、その姿を俺はかっけぇと思った。
◆
「うーわ、ペスト君負けちゃったよ。
彼結構高かったんだけどなぁ……」
黒い服を着た女。
スクランブル交差点の真ん中。
そこで彼女は大画面に映る中継を見ていた。
それとは別に、イヤホンの着いたスマホにも映像が流れている。
それはカメラによる撮影ではなく……
まるで、誰かの視界を映像化したような。
「にしても、未来から来た……か。
なるほどね、それで失敗続きだった訳だ。
これからの予定は少し変える必要がありそうだね」
女はスマホの画面を消す。
そのまま、群衆の中へ消えて行った。
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