第36話 魂在



――

夜宮久志(32)

クラス『鍛冶師』

レベル『1』

種族『千呪刀ムラマサ

クラススキル『能力付与』『武具鑑定』『武具作成』

レーススキル『無機物寄生』『付喪器』『呪力剣』『真価覚醒』『無器心ハート・ガジェット

――



 魔物化した夜宮さんのステータス。

 俺は、それを見て聞いた。

 脳死で。


『つまり、何ができるんですか?』


 夜宮さんは簡潔に答えてくれた。


『装備のレベルアップ、と言った所でしょうか』


 俺に合わせられた完璧な説明だった。


 という事で、紹介しよう。


「新たな武器の切味、試させて貰おうか」


 ヴァンが握る刀。

 黒刀と呼ばれる種類の武器。

 作成に闇属性の魔物の素材が多く使われている。

 その特性は、再生。

 周囲の影を吸い取り、刃が自動修繕される。


 ただ、それは市販されていた品だ。

 クソ高いが、夜宮さんの能力はまだ関係ない。

 その市販武器を更に強化するのが、夜宮久志の能力。



 ――魂魄武装。



 夜宮久志が魔石によって付与する能力。

 それは正しく、レベルアップ。

 それは、魔石を食う事で強化する。


 まぁ、夜宮さん自身にも装備を作るの能力はある。

 けど、レベル1だから弱すぎる。

 今は、市販品以下の道具しか作れない。


 設備、結構値段したんだけどな。

 能力付与にしか使われて無いのが現状。

 まぁ、必要投資だからいいけど。


 で、完成したヴァンの武器だけど。



「影纏い」



 黒い太陽が覆う世界。

 ここは、その吸血鬼の庭に相応しい。


「伸縮一閃」



 ――黒刀Lv4。



 Cランクまでの魔石を使い強化を重ねた。

 これ一本作るのに消費された魔石の数。

 FからCまでの魔石が20個づつ。

 計80個。

 値段にして、1250万。


 あぁ、所得税!

 あぁ、確定申告!

 つか、これって経費だよな!?

 そもそも経費ってなに!?


 やり方分かんねぇよ!


 助けて夜宮さ~~ん!



 久志:会計士をしていた事もあるので、お任せください。



 ふぅ、全然焦ってねぇぜ。

 マジでこの人有能だぜ。

 なんでクビになったのか謎過ぎる。


 まぁ、そんな感じに金のかかった武器という訳だ。


 それを人数分。

 いやそれ以上。

 この能力は有能すぎる。

 防具や装飾品の類にも有効なのだから。

 それによって、俺の財布は一瞬で空になった。


 掛かった総額は億を越えるとだけ言っておこう。


「伸びる武器って訳か?」


 澄ました顔で、雷道が刀を籠手で受ける。

 確かに、黒い刃が伸びている。

 一見、そう見える。


 だが、その本質は違う。

 レベルアップによって追加された黒刀の力。

 純粋な付与魔力量の上昇や、切味の拡張はあるが。

 それともう一つ。


 『影を刀身に貯蔵する事で、物質化した影を飛ばす』


 というのが、刀の能力の正体だ。


 パキリと、刀身が半ばから折れる。

 射出された影が離れたのだ。


「黒棘」


 そう、呟きながら。

 ヴァンが再度適切な長さになった刀を振るう。

 すると、その刀身から礫が幾つも飛び出す。


「ッチ」


 たまらず雷道も飛び退いて避けた。


 それを追って、斬撃が何度も振るわれる。


「無駄な事を繰り返すのが、テメェ等の利口かよ」


「知恵で某が敵えば利口さにも固執したかもしれんがな。

 だが、無駄ではないぞ」


「あ……?」


 雷道の身体がよろける。


「一本5キログラム。

 白銀の騎士が……

 貴様のリーダーが背負うと言った物に比べれば軽い物だろう?」


 影の杭。

 それが、影に刺さると一本につき5kg相当の重量として当人に重力が掛かる。


「ざけんな!」


 そう叫び、雷道は地面を殴った。


 はぁ?

 地面爆発したんだが。

 俺も家の壁とか殴ったら爆発するかな。

 しなかったわ。


 杭が空中に飛ぶように抜ける。


「埒開かない」


 そう言って木葉の動きが変わる。

 今まで、スカルの相手をしていたのが角度を曲げた。

 見ている方向はヴァン。


 だが……


 魔力強化のイヤリングLv4。

 視力強化の眼鏡Lv4。

 反転式凹凸光レンズLv4。


 その視界は、今までよりずっと強い。


「拡散縛光」


 天から光のヴェールが降り注ぐ。

 軽やかに跳ぶ木葉。

 その身体を地面に叩きつける。


「行かせない……よ?」


「この程度で、動けないとでも?」


 膝を立て、思い切り掌を地面に叩きつける。

 小さな声で呟いた。


「土遁・岩礫」


 地面がひび割れ、岩の欠片がアイに向けて放たれる。

 その数は目算で50を越えている。

 全部避けるのは不可能。


 だが、避けられないなら。


 受ければいい。


「拙者は速度を手に入れたのである」


 瓦礫とアイの間に、人影が現れる。



 執着のカイトシールドlv4。



 それが、ルウの持つ武器。

 今まで使っていたのと同じ物だ。

 強化すると、名称が自ずと変わった。


 執着。

 その言葉が示す、盾の力。

 それは……



 ――ショートワープ。



 短距離限定。

 10秒に一度。

 そんな制限はある。


 だが、その制限を満たせればルウは一瞬で移動できる。


 バキバキと瓦礫の砕ける音が響く。

 ルウの盾が、全てを受け止める音。


「白銀の御仁の背負う物。

 物怖じせず啖呵を切れる、その意気良い事。

 それを見て、拙者にもプライドがあった事を思い出した。

 拙者の後ろには、常に皆が居たのである」


 突き抜ける瓦礫が、ルウの肉を裂いても。

 その盾を握る拳の力が弱まる事は無い。



 ◆




 俺:いいのかよ、参加しなくて。



 一人、この辺りで一番高い廃墟の屋上から戦場を俯瞰するスルト。


 俺はそう声を掛けた。



 スルト:相手の主将が居らぬのに、我が出ては勝っていると言えませぬ。

 スルト:それに今回の目的は勝利に非ず。

 スルト:皆の単騎性能の把握。

 スルト:そして、奴の力に他の皆が呼応してくれればこの上ない成果かと。



 そう言って、スルトの視界は他の5人とは少し離れた戦場へ向く。


 使役する死体を使って、戦場を分けた。

 今も、スルトのスカルは、距離を維持する為に細々と動いている。


 だから、間違いないだろう。

 それは、あいつ等を2人にする為だ。



「随分、ダンジョンには似つかわしくない服装だね」


 リンの服装は和装だ。

 ミニスカだけど。

 ボディラインが絞られてたりするけど。

 まぁ、着物だ。


 桜色を基調とし、赤い楓が描かれている。


 あれが、リンと一番相性のいい装備だった。


「うっせー。

 つーか、あの女はどこ行った訳?」


「天童さんは……そうだね……

 自分の運命と向き合ってる最中って所かな」


「意味不すぎ。

 どうせなら、あいつとヤりたかったのに」


 それと、リンはメイクをしている。

 種族名に似合う、姫の様な恰好。



 桜楓おうふうの着物Lv4。



 それは、紫の魔力というリンの固有の属性の力を増幅させる効果を持つ。

 それ以外にも、彼女が身に着けている全ての装備は魔力増強の力を持っている。


「僕で我慢して貰うよ」


「はぁ……?

 普通に無理」


 紫の炎が広がり。

 雷鳴が轟く。


 背負った炎と雷が、徐々にリンの中に入っていく。


桜赤紫舞おうかしまい


 対してエスラの持つ聖剣が、真っ赤に滾る。


「行くよ、イグニ」


「舞って」


 紫の炎がエスラの左右から、囲うように展開される。


「イグニ」


 そう呟いて、二度剣を振るう。

 紫の炎は灼炎に薙ぎ払われる。


「待って欲しいのかい?」


「死ね」


 天から落雷がエスラを穿つ。


「悪いけど、それは頷けないな」


 剣先が空へ向く。

 熱の籠った切っ先に稲妻の全てが吸い取られる。

 そこで対消滅していた。


 どういう物理現象だよ……


「やっぱり、片方ずつじゃ駄目ね」


 素っ気なく、リンは独り言った。

 瞬間、その姿が掻き消える。

 足に雷を集めて加速したのか。


「シュレンみたいだ」


「それ以上よ」


 現れたのはエスラの目前。

 けれど、エスラはリンを見失ってはいない。

 真っ直ぐ見据え、既に剣を構えている。


 リンの拳に紫の炎とスパークが渦巻く。


 それを思い切り叩きつける。

 受けるは聖剣。

 炎の一閃。


 紫と赤の爆炎が、双方に吐き出される。

 スルトの視界からじゃ中が見えない。


 赤の爆炎から、何かが突き抜けて来た。

 転がって出て来たのは……



 スルト:その程度が底か?

 俺:マジか……



 吹っ飛んだのはエスラだ。


 煙が晴れると、その中心にリンが普通に立っている。


 凡そ剣技では最強の称号を持ち。

 聖剣という武器性能も他を圧倒する物を持つ。

 それが、剣聖と呼ばれ最強の探索者とも呼ばれる男。


 エスラ・デュラン・ルーク。


 それを、リンが単独で殴り飛ばした。


「想像以上だよ」


 弾き飛ばされ、廃墟に突っ込んだエスラ。

 半身を瓦礫に埋めながら彼は呟く。


「はぁ……」


 溜息を一つ。

 同時に瓦礫に埋まった体を出して立ち上がる。


「フゥ……」


 大きく息を吐き脱力した。

 右手の聖剣を地面に差す。



 ――そして、左手を前に向けた。



「まだ制御が甘くてね。

 味方を巻き込むから使わない様にしていたんだ。

 二本目はね」



 ――来てくれ、風聖剣シルフ。



 左手の拳の中から、突風が竜巻く。


 輪部が緑色に輝く、白い剣。


 それが左手に握られる。


「本気があるなら、さっさと出しな」


「大丈夫。

 これが正真正銘、今の僕の本領だ」


「あっそ」


 炎と風の二刀流。

 それを握って、剣聖は一歩ずつリンへ近づく。


 そうして、天災は始まった。


 風を吸った炎が爆炎となって大地を抉る。

 天からは雷が落下し、世界は炎に包まれた。


 一擲が。

 一振りが。


 空間を物理的に作り替える。


 大地を抉り、天候を操り、酸素濃度すらぶち壊す。



 俺:なんだこれ……

 スルト:駒一つで戦況を覆す。

 スルト:切り札ジョーカー……



 いつの間にか、二人以外の戦いの手は止まっていた。



「なんだよこりゃ……!」


「こんなの、どう援護したら……」



 ヴァン:手も出せぬ。それがここまで悔しいとはな。

 ルウ:この戦いに勝った陣営が勝つ事は明瞭である。

 アイ:交ざっても意味ない。そして、どっちかが負けたら、勝った方は止められな……い……



 つまり、彼等二人が他全ての戦いを無駄にしたのだ。


 なまじ皆馬鹿じゃない。

 あの何も考えて無さそうな雷道でも、直感か野生の勘で察してる。

 自分たちの戦いが、この戦況に無関係な事。


 なれば、戦う理由も意味もない。


 スルトと雅のやっていた様な高度な戦略とかじゃない。

 ただの殴り合い。

 だからこそ、誰にでも何が起こっているのか分かる。

 それは、戦意を折った。



 天変地異に人は抗えない。



「どうして、僕達の前に現れた?

 君達の目的は何だ?」


「なんでそんな事、あんたに言わなきゃいけない訳」


「君達には知能がある。

 もし協力してくれるなら、敵対する意味もない。

 それとも、僕等と敵対する理由があるのかい?」


「だからさぁ……」


 リンの激高に呼応して、雷が降り注ぐ。


「あんたのそれは、ここで拳を振るってるあたしの覚悟を馬鹿にしてるっつってんのよ!」


 風を蹴って落雷を避ける。

 風の薙ぎを炎で沿って、爆炎を天上に放つ。

 それは暗雲を割き、空の顔を露わにした。


「確かにそうだね。

 これでも剣士の端くれだ。

 次で決めよう」


「あんたが良い奴なのは分かってるから。

 そうして」


「僕が勝つよ?」


「だから、あたしが足掻かないと思う?」


「いいや、君は戦士だ。

 不相応ではあるが、最強と呼ばれた僕が君を認めよう」


「バーカ、嬉しくないっつの。

 でも、感謝は言っとく」


「風の剛翼よ。

 炎の息吹よ。

 重なり交ざれ」



 明るい桃色の魔力が拳に宿る。

 それは、リンの持つ紫の炎と雷を集中させた物。

 濃く、一点に。


 二本の聖剣が重なり、一本に戻る。

 輪部が赤と緑に輝く新たな聖剣。

 それが、大上段に振り上げられた。



「桜魔……ッ!」


「シル・フィグニス……ッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る