第35話 5v3
「はて、確か前は4人だったと記憶しているが?
さては死んだか?」
聖典の3人を前にして、スルトは何故か少し嬉しそうにそう言った。
なんか、骸骨だけど声で笑ってるの分かる様になって来たわ。
こいつ笑いながらホラー映画とか見てそう。
王城への入り口を守る様に配置されていた魔物。
そのAランクモンスターを避けて。
西側までスルトは足を延ばした。
そこに3人が居る事は、予め木葉に聞いていた。
だがその中に雅の姿は無い。
どうやら、今は海外に出張中らしい。
理由は木葉も知らないらしい。
「はぐれかテメェ?
つーか、最近は喋るモンスターがブームなのかよ?」
「シュレン、見て分からないか?
感じる殺気の種類が、あの時のワイトと全く同じだ。
それに、佇まいや杖の種類も同じ」
「はぁ? じゃあなんだ?
わざわざこいつは俺等を狙って現れたって訳かよ?
馬鹿じゃねぇのか? またボコるだけだぜ」
「……知能が低いだけならいざ知らず、まさか会話すら不可能なレベルの人間が存在するとは……
いや、主を人間の基本と考えるのは本当に間違いだった」
「んだとテメェ……」
そう言って、頭に手を当てるスルト。
その思考が何となく俺にも伝わって来る。
この前聖典に負けたのは雅の覚醒があったからだ。
その雅が居ない状況。
まぁ、代わりに木葉が動く訳だが……
それを織り込んでも、この雷道とかいう筋肉が言うべき言葉じゃねぇな。
「我は、あの女との再戦が望ましかったのだがな。
まぁ、居ない物は仕方あるまい。
……少し遊んでやるとしよう」
何故に、上から目線なのか。
まぁ、スルトの中じゃもう越えられる程度の戦力って認識されてるんだろう。
「こいつ……
頭蓋骨叩き割ってやるよ」
「先より何を言っている。
貴様が我に触れる事ができる未来等無い」
「骸骨如きがこの俺様に、言ってくれるじゃねぇかよ」
「先の事件、貴様等は何もしていない。
結果の一つも出さずして、有能と誤解される気分はどんな物だ?
我なら耐え難い苦痛だ。
貴様等がした事は、罪もなく無垢な小市民一人を殺害しただけ。
それを、英雄譚と呼ばれて……貴様等は嬉しいのか?
人間という物は理解に苦しむな」
スルトにしてみれば、それはただの事実の羅列。
けれど、何となく俺には分かるよ。
その表情を見れば一目瞭然だ。
俺はその顔の名前を知っている。
――後悔。
と、人はその感情に名前を付けた。
「それでも僕は進み続けなくちゃいけないんだよ」
剣聖は炎の中から聖剣を引き抜く。
「あぁ、貴様だけだ。
我が目に映した
エスラ・デュラン・ルーク」
「この世界はそんなに優しくはできちゃいないんだ。
自分がどれだけ大きな問題を抱えて居ても……
自分を賭して助けてくれる人なんて殆ど居ない。
どれだけヒーローを願ったって、彼等は都合よく現れちゃくれないんだから。
――だったら、自分でなるしか無いだろ」
「貴様の都合は、貴様の汚点の言い訳にはならぬ。
貴様の選択はヨミヤを含め大勢を殺した。
それが、事実だ」
「あぁ、お前の言う通りだ。
だから、失敗に報いる事ができるだけの功績を誓って、この剣を振るうよ」
「自分本位の理屈だ。
貴様の失敗に付き合わされた人間には、何の贖罪にもならぬ」
少しずつ会話はヒートアップする。
でも、と俺は思ってしまう。
例えばあの時、夜宮さんを殺していなかったとして。
スルト達がもっと強くて、錬金術師も倒せてたとして。
俺に、夜宮さんを安全に助ける事ができたのだろうか。
時間は無かった。
外では探索者達が戦っていた。
夜宮さんの代わりに大勢死ぬなら意味がない。
あの時、エスラは選択した。
俺にそれ以上の答えが出せたのだろうか。
殺さなければ良かった。
そんな単純な話では無かった筈だ。
久志:スルトさん、もう大丈夫ですよ。
久志:あの時死んでなくても先は無かった。
久志:私は皆さんに感謝しています。
久志:逆に言えば、彼等をそこまで憎んではいません。
久志:私の為に、ありがとうございます。
全召喚獣共通の
「お前に何と言われようと、これが僕の生き方だ」
「そうか……分かった」
スルトの呟きは、エスラに向けた物か。
それとも夜宮さんに向けられた物か。
両方か。
「なればその実力がある事を、我に証明して見せよ」
「あぁ、もう
互いのリーダーが啖呵を切る。
それで、口戦は終わりだ。
罵り合いに意味はない。
論争だって結局決め手にはなり得ない。
いつだって、最後は実力が決めて終わる。
まぁ、こっちはまだそのリーダーしか姿を現して無いんだけど。
「行け」
その声を切っ掛けに、街の建物に隠れていたスカルの群れが姿を現す。
「なんだこいつ等!?」
「焦るな、ただの雑魚だ。
この人骨の相手は僕がする。
シュレンと忍は頭蓋を潰してくれ」
「ッチ、命令しやがって」
「……」
言葉とは裏腹にシュレンは頭蓋を殴って落として行く。
木葉もそれに参加。
花火の様な魔法と、高速の接近戦闘で立体的に宙を翔ける。
そんな戦い方するんだな。
想像より強そうだ。
そんな相手に、うちの指揮官が何を出すのか。
「お前の性能は、仲間有りきだったと記憶してるけどね」
そう言いながら、剣聖は刃を振るう。
その一撃は、明確に脊髄を叩き折った。
「その通りだ。
まぁ、仲間である必要は薄いかもしれぬがな」
しかし、別の人骨がそう話始める。
スルトが倒した
それを収納から出した死体を、支配の魔杖で操ってダミーにしてんのか。
杖を持ってると言っても、杖のサイズは人の腕くらい。
ローブの中に仕舞い込めば外からは分からない。
スルトか、スルトの操る竜牙兵なのか。
それを見分ける術はない。
「喋ってるのが本物だろう!」
そんな簡単な事を、スルトは見落とさないだろ。
「そもそも、我に発声器官は無い。
自然と魔力を音にして発しているだけだ。
ならば、操る死体からも音を出せて当然」
「そうかい」
また一匹。
竜牙兵の首を落として、剣を構え直すエスラ。
そして、視える竜牙兵を一撃で屠っていく。
流石の戦闘能力だ。
単騎で考えれば俺の召喚獣に相手できそうな奴は居ない気がする。
でもまぁ……
いつの間にか、他2人と随分距離ができたな。
「そろそろ良いか」
「何の真似だい?」
そう言って難なく頭蓋は切り裂かれた。
そうして、頭蓋の咥えていた紙切れが宙を舞う。
それは、雷道と木葉の方に居たスカルも同じ。
紙切れを咥えていたスカルが、同時に破壊された。
スルト:主よ。お願いいたします。
俺:オーケー、スルト。
俺はスキルを起動する。
魔石召喚。
「来い、お前等」
召喚する召喚獣は3匹。
「進化したあたしを見せて上げるよ」
「亜人……?
見た事無い種類だな」
リンをエスラの前に。
「某と」
「拙者の相手は」
「貴方達……ね……」
雷道と木葉の前には、ヴァン、ルウ、アイを召喚する。
「前に視たのと同じだな。
この前みたいにはいかねぇぜ」
「知能以外は普通と同じ……」
小さい声で木葉が呟く。
ヴァンの耳が無いと聞こえないんだよな。
でも、木葉の評価はそういう感じか。
まぁ、俺も大体同じ認識だ。
でも、魔物がそれを持つって意味が分かってんのかね。
魔物にはランクが存在する。
そして、探索者にもランクがある。
基本的にそのランクは同価値だ。
けど、それは魔物が
基本的な身体能力や異能だけで比べるなら……
魔物は探索者の性能より随分上の物を持っる。
召喚獣たちを見てるとそう思うよ。
「数的に仕方無いのかもしれないけど、僕に君達2人だけっていうのはどうかと思うよ」
「はぁ?」
「何か勘違いしている様だな。
これは、実験と経験の為の戦いだ」
「あんたの相手はあたしだけ。
さ、掛かって来なよ」
そう言ってリンは笑う。
エスラに手招きを送った。
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