第29話 修行と金策


 我は死を2度経験した。

 一度目は、まだ主と出会う前。

 曖昧な記憶の中には、確かに探索者に敗北した記憶が存在する。


 二度目は、悪鬼洞窟に初めて入った時。

 圧倒的な数の差。

 我は、数匹のゴブリンに囲まれ嬲られた。


 そして今。三度目。


「ここまでか……」


 既に、我以外の4人全員が死亡ロスト

 リンも、ルウも、アイも、ヴァンも、

 手も足も、技も術も出せずに死亡した。


 不死街。

 ここは、そう呼ばれるAランクダンジョン。

 太陽は隠れ、輪部だけが浮かび上がる。

 そんな、暗黒に閉ざされた世界。

 

 その構造は城を中心に形成された城下町。

 城下町には東西南北が存在する。


 東の死骨。

 西の死鬼。

 南の死骸。

 北の死霊。


 丁度、アイを除いた我等の上位互換。

 そんな魔物の跋扈する街中。

 流石、主の選んだ迷宮だ。

 確かに我等に丁度良い。



 ――リッチ。



 主の記憶ではそう呼ばれる魔物。

 それは、スケルトンが何段階も進化した存在だ。

 同時にBランクモンスターでもある。


「カカカ」


 醜悪な笑みを浮かべる敵。

 それは、まるで獲物を甚振る様に。

 黒い炎の塊が我に放たれる。


 ギリギリ回避できるように抑えられた速度。

 必死に足掻き、それを回避する。

 けれど、視線を上げると次の黒炎が迫る。


 それを避けても……


 次が来る。


 何度も。

 何度も。


 こちらのスタミナが切れるまで。

 切れればまた休ませ、踊れと言わんばかりに魔術が起動する。


 序盤は良かった。

 Aランクダンジョンと言っても、入り口付近の魔物はFランクだった。


 楽勝と、我等は先に進む。

 すると、魔物の力が上がって行った。


 ――Eランクと成り。


 ――Dランクと成り。


 ――Cランクと成り。



 そして、Bランクの魔物が姿を現した。


 街という構造は、魔物の密集を促す。

 戦闘時間が長引けば、森林とは比べ物にならない程に、敵が寄って来る。

 それら全てを捌く事は、現状戦力では無理だった。


 どんどん、我等は逃げる様に奥へ行った。


 どんどん、強き魔物が姿を現した。


「憶えて置け、必ず貴様を殺してやる」


「カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ」


 骨の鳴る音と共に、我の身体を黒炎が呑みほした。




 ◆




 俺は馬鹿だ。

 何故、こんな簡単な事に今まで気が付かなかったのか。


 スルトには収納がある。

 だったら、その中に俺が書いた召喚陣を入れておけばいい。

 いや、そのアイデア自体は前からあった。

 実戦もしていた。


 しかし、それができるなら。


「俺、ダンジョンに行く必要なくね?」


 いつも、入り口まで行って紙切れを落としていたのがバカみたいだ。


 不死街に向かい、いつもの様に陣を刻む。

 後は、スルトが召喚された時にあいつに紙切れを落とさせればいい。

 問題は、どの召喚陣を使うか指定できないってとこだ。

 自己送還用なら別になんでもいいんだけど……


 だが、それも解決した。

 陣に番号を振った。

 こんな事できるとは思っても見なかった。

 因みに、スルトがぽつりと言ったアイデアが発祥だ。


 まぁスルトが『やはり気が付いておられましたか』とか言って、俺の方が先に考えてた事になったけど。


 という事で、ゾンビ戦法の為に俺が毎回赴く必要は無くなった。

 それで、俺は何をしているかというと。


「大蟲森林ですか……」


 夜宮さんがそう呟く。

 そう、俺(ダリウス)と夜宮さんは大蟲森林に来ている。

 理由は……



 俺:金がねぇ!



 まず、スルト達は死亡前提の修行で稼ぎが0になる。

 次に、親父の入院費と親父が働けない間の家計に入れる金。

 そして、夜宮さんの装備製作費用。


 夜宮さんは、特別な効果を持つ武器も作る事ができる。

 けど、素材に魔石やドロップアイテムが必要なのだ。


 魔石の値段で分かるが、探索者産業は軒並み値段が高い。

 必要な金額を稼ぐには、死ぬ気で探索する必要がある訳だ。


 あと、夜宮さんの……

 鍛冶師の能力スキルに便利な物が芽生えてた。



 【鍛冶場】。



 それは、俺の非召喚空間の一部に、夜宮さんの専用スペースを作る物だ。


 サイズは小さ目の小屋。

 そこに物を送る事ができる。

 逆に、鍛冶場内に存在する物はいつでも出現させる事ができるのだ。


 スルトの収納に近いスキルだ。

 これのお陰で、金策の効率は上がった。


「じゃあ、久志は動かないでね。

 僕がここに魔石を持って来るから」


「は、はい!」


 森林という空間。

 音を立てれば魔物は寄って来る。

 スルト達と同じ戦術だ。


「ダークブレス!」


 黒い息吹が、木々を薙ぎ倒して行く。

 これも、一日も立てば勝手に治るのだからダンジョンは不思議だ。


 数秒で、ブンブンと羽音を立てて巨大昆虫が寄って来る。


 夜宮さんは一本だけ残った木の上にいる。

 地中の魔物に襲われない様にだ。

 ちょっと足震えてるけど大丈夫かな。


 因みに憑依はまだ使っていない。

 っていうか、使う余裕がない。

 スルトの方と行ったり来たりしてるからな。


 スルトたちが細かく決めた修行方法。

 その第一段階は数を熟す事だった。

 だから、待機時間が終わった傍から召喚してる。


 見てる感じ、早いと10分程で負ける。

 流石にAランクダンジョンだ。

 で、召喚可能は1時間後。

 やられた時間を確認して、1時間後にタイマーセット。

 再召喚ってのを繰り返し。


 ダリウスの方も確認してるが、こっちは余裕が有る。

 というか、こういう白兵戦に置いて『キルカウント』の性能が凄まじい。


 30匹も殺す頃には、殆どの魔物が一撃だ。

 キルカウントには魔力を微回復させる効果もあるらしい。

 だから、凄まじい速度でスキルが回されている。


 爪、牙、ブレス。

 それを連続で使う。

 進化した事で飛行速度も上がってる。

 マジで、無双ゲーだ。


 死にまくってるスルトたち。

 殺し続けているダリウス。


 ここまで真逆になるとはな。


 それと、やっぱり夜宮さんにはほぼ戦闘能力は無いっぽい。

 魔物としての能力はあるけど……



 装備寄生:装備された対象の意識を乗っ取る。



 夜宮さんを装備ってなんだよ……

 想像したら、人間バットとか思い浮んだ。

 後は、肩車とかおんぶとかお姫様だっこ?

 なんか想像するとぞわぞわする……


 他もそんな感じで碌な戦闘能力が無い。

 まぁ、本人も戦闘向きの性格って感じは全くしないし、もう、これはしょうがないか。


 てか、魔物と人間の力両方使える時点で唯一無二なんだからもうそれでいい。



 俺の最近こんな感じだ。


 ダリウスの方は夕方には帰って来る。

 夜宮さんから魔石を貰って買取所に行く。

 もう夜宮さんをパシリにはできない。

 夜宮さんが現れたら街中はパニックだ。


 スルト達は、夜も挑む日は挑む。

 睡眠とか要らないっぽいし。

 作戦会議とか、自己鍛錬の日もあるみたいだけど。


 スルトたちが聖典に会うのは大分先だな。

 不死街には入り口は4つあるから。

 西門から入ってるスルトと、東門から入ってる聖典は相当進まないと合わないと思う。

 迷宮はAランクだけあって土地も広いし。


 木葉に予定を聞いてるから、会おうと思えば直ぐ会えるし、会わない様にしようと思えば絶対合わない。

 本当に使える忍者こうはいだ。


 俺はスルト達の進化条件を思い出す。

 魔力操作、武術、剣術、神道の習得。

 アイだけは、猪、蛇、天馬の討伐。


 けど、アイ以外は熟せば達成できるってモンでもない。

 判定基準もふわっとしてるし。


 アイの天馬討伐とかもかなり難題なんだよな……

 ペガサスって、Bランクモンスターだぞ。


 さて、あいつ等はこの試練をどれくらいの期間で乗り越えてくれるかな。


 俺にできるのは応援と支援だけ。

 あいつ等の努力を最大限援助する事だけだ。



「――頑張れお前等、期待してるからな」



 誰も居ない自室で、俺は小さく呟いた。

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