第26話 長めの休暇


「じゃあ皆、新しく召喚獣……召喚人? になってくれた夜宮久志さんです。

 仲良くするように」


 流石に召喚獣6……7体を召喚するには俺の部屋は狭い。

 なので、リビング会議である。

 母さんは入院中の父さんのお見舞い。

 普通に仕事もあるし、帰るのは夕方だ。


 逆に、俺の大学はモンスターにぶっ壊されたとかで一月ほど休校になった。


「夜宮久志と申します。

 先輩方に迷惑にならない様善処しますのでよろしくお願いいたします」


 そう言って奇麗にお辞儀する夜宮さん。

 流石に自分の角にも慣れて来たらしい。

 リビングの床まで穴だらけにしたら、俺が母さんに殺される。


「うむ、よろしく頼む。

 我はスルトという」


「よろしくねー、リンだよ!」


「拙者、ルウと申す。

 歓迎するのである、ヨミヤ」


「フフ、よろしく。

 私、アイ」


「某はヴァン。

 得意なのは近接戦闘である。

 よろしく頼む」


 挨拶を交わす召喚獣たち。

 夜宮さんは、一人一人とペコペコしながら握手していた。


「僕は説明要らないよね」


 と言って、身体を丸めて寝ている黒龍。


「今日は休暇だ。

 親睦会も兼ねて、適当に飲み食いしてくれ」


 折角だしと、色々食料を買い込んで来た。

 デリバリーとかも頼んだ。


「今日はダンジョンには行かぬのでしょうか?」


 スルトは、本当にストイックだ。

 休みなど要らないって感じ。


「あぁ、悪いが少し待ってくれ。

 今、お前等を行かせるダンジョンを選んでる」


「なるほど……」


「それと、召喚獣たちのリーダーとして聞いておきたい事があるんだ」


「なんなりと」


「今までクリアしたダンジョンはFランクとEランク。

 順当にいけば次はDランクって事になる。

 だが、そのランクは人気でな。

 それに、Dランクを攻略できたからって、この前戦った聖典って探索者たちに勝てる様になる訳じゃない」


「確かに、間違いないかと……」


 悔しそうに拳を握り込むスルト。

 そういう感情もあるんだなこいつ。


「それでだな、死ぬの前提で難易度の高いダンジョンに行ってみるってのはどうだ?」


 召喚獣は死んでも復活する。

 費用さえあれば残機は無限だ。

 故に、経験を溜めるだけならゾンビアタックも可能。


「勿論、死ぬのが嫌ならこの話は……」


 続く俺の言葉を遮って、スルトは言った。


「是非も!

 是非もない事でございます。

 ただ、主の力に導かれるままの進化。

 それだけの貢献ならば、我等でなくともできる事。

 我等は、我等が主の僕に相応しいと証明したく。

 なれば、死など幾らでも受け入れましょう」


 膝を折り首を垂れて、スルトはそう宣言する。


「そうか……

 皆もいいか?」


 そう聞くと、皆一様に頷いた。

 全く、俺の召喚獣共は肝が据わってる。


「分かった。

 高難易度なら過疎ってるダンジョンは結構ある」


 そもそも挑戦できる探索者が少ないからな。


「最高の修行場所を用意してやるから、ちょっと待っててくれ」


「御意」


 それから、召喚獣たちと昼食を囲んだ。


 リンは肉が好きらしい。

 ルウは割と野菜が好き。

 アイは甘い物に目が無い。

 ヴァンは、魚介の赤身、特にマグロ気に入ったようだ。

 寿司も取っといてよかったぜ。


「スルトって飯食えるのか?」


「あ、主の命令とあれば……」


 そう言って、手羽先を食べてビールを煽る。

 そういや、召喚獣って成人なのかね?


 スルトが食べた物は全部床に零れた。

 夜宮さんが直ぐに布巾を持ってきて拭いていた。


「面目ない……」


 と、骨でも分かる位落ち込むスルト。

 シュールギャグの鮮度高すぎ。


 そんな感じで親睦会は進んでいく。

 その最中に、夜宮さんが不安げな表情で聞いてきた。

 この人、いつも不安そうな顔をしてる気がするけど。


「昇さん、少し宜しいでしょうか?」


 切り出されたのは、夜宮久志という『召喚獣』のスペックの話だった。


 千呪刀。

 そう呼ばれる魔物と合成された彼。

 しかし、彼の人間としての側面が失われた訳じゃない。


 夜宮久志には、ちゃんと『クラス』としての能力が残っている。

 その上で、魔物の能力を得たという事だ。


 錬金術師に使役されていた人面魔獣は完全に精神に異常を来してた。

 でも、夜宮さんは普通に話してる。

 製造方法がそもそも違うのだろうか。


「私が元々保有していた力は鍛冶師。

 職人クラフターなんです」


 探索者の持つクラスは、幾つかの種類に分けられる。


 基本的な殆どは接近戦闘職バトラー

 次に術式を用いて戦闘を行う術式士キャスター

 最後に、ダンジョン内の戦闘ではほぼ役に立たない職人クラフター


 まぁ、他にも近接戦闘職と術式士を合わせた様な『魔剣士』とかもあるが、基本的には3つだ。


 そして、鍛冶師は職人クラフターの分類だ。

 職人は自分の作った武器が他者に使用される事で、その使用者の獲得したレベルの一部を共有される。

 けど、職人でレベルを上げるには凄く強い探索者に武器を使って貰うか、多くの人間に使って貰う必要がある。


 だから、職人クラスは殆どの人間にとっては『ハズレ』と呼ばれる部類の物だ。


「なるほど、それじゃあ戦闘は微妙ですかね」


「そうですね。ダリウス君の様な戦いはできないかもしれません」


 まぁ、ゴブリンの魔石採取も青ざめた表情でやってたしな。

 暴力が得意そうには思えない。


「それで、私の魔物の力なのですが……」


 千呪刀ムラマサ

 それは元々、武器の形状をした寄生型の魔物だ。

 って事は、夜宮さんは今寄生されてる状態なんだろうか。


 でも、あれって精神支配するだけで角とか生えないよな。

 ネットで検索しても、その様な情報しかでてこない。


 やっぱり、あの錬金術師の魔物化は既存の技術では無さそうだ。


 そんな予想を立てて、夜宮さんの話を聞く。


「刃物の声が聞こえるんです……」


「はい?」


 素っ頓狂な声が出た。

 なんというか、サイコパス味のある台詞だな。


「それはその、殺人鬼的な発想で?」


 まぁ、魔物だし。

 ギリ受け入れられるけど……


「い、いえいえ!

 その様な意味ではなく。

 言葉通りの意味で……。

 台所の包丁や、結晶に埋まっている時に視た探索者や召喚獣の皆さんの武器もそうです。

 この角を通じて、声が流れて来るんです」


 ムラマサ。

 その語源は江戸時代の妖刀だ。


 どうして魔物にそんな名前がつくのか。

 鑑定士が鑑定したらそうだったらしいという事しか分かっていない。


「大丈夫なんですか?」


「えぇ、別に不快という訳では無いですし。

 聞こえない様に自分で調整する事もできますから」


「あぁ、なるほど」


 呪いって言うほどの物じゃないらしい。


「それで、私のクラスの力と刃物の声が聞こえるという特性を生かして装備製作をお任せいただけないかと……」


 おぉ……正直……


 それ、めっちゃよくね?


 武器って普通に依頼したら超高い。

 でも、このまま夜宮さんが……お抱え鍛冶師が成長すれば……


「めちゃくちゃいいじゃないっすか!」


「いえ、昇さんの契約枠を一つ消耗しているのに戦えないというだけでマイナスですから」


 全然そんな事考えてなかった。

 けど、この人はそういう事を気にする人なんだろう。


 戦力増加に召喚獣の数を増やす。

 それは順当な手段だ。


 でも、スルトや皆を見ていて思う。

 こいつ等が進化する方が確実だと。

 俺のスキルレベルは調子よく上がっている。


 このままAランクやSランクの魔物も召喚できるようになるのかもしれない。

 だが、その生まれて来た魔物にスルトたち以上の戦術性があるのかは疑問が残る。


 俺は、もうスルトを始めとした彼等に賭けている。

 一蓮托生だ。


 だったら戦えるBランク魔物よりも。

 スルト達に適した武器をオーダーメイドできる鍛冶師の存在の方がアタリとも言える。


「ただ、武器を作る為の施設や素材なんですが……」


「勿論、それは俺が出しますよ」


 まぁ、スルトたちが稼ぐ金だけど。


「ありがとうございます。

 私も誠心誠意、武器を作ろうと思います!」


 そう言ってガッツポーズをする夜宮さん。

 その目には、少しだけ自信が籠っていた様な気がした。


 その時……



 ピロン♪



 と、俺のスマホが鳴る。



 木葉:先輩、直接会って話したい事があります。

 木葉:明日、ご予定はありますか?



 スマホが、そんなメッセージを受信した。

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