第17話 龍の進化



 木葉とダンジョンへ行った翌日。

 日曜日。


 いつもより多くの探索が可能な日。

 スルト達は進化条件の達成のために、色々と調べたいと言うので休みだ。

 スルトが俺の部屋でPCと向き合っている。

 ……シュールだ。


 剣術とか体術、魔力操作の修行。

 そんな人の様な進化条件にはビックリだ。

 けど、彼等のやる気は絶好調だ。


『我等の力が及ばぬばかりに、主に無理をさせてしまいました。

 その罪を償えるのであれば、命も惜しくはありませぬ。

 しかし、どうかもう一度だけ再挑戦のチャンスを頂きたく』


 そう、俺に頭を下げたスルトを思い出す。

 相手はB+ランクのモンスターだ。

 B以降のランクには、マイナスとプラスが付く。


 事故率が上がるから、探索者が細かく戦力を理解できるように細分化された物だ。


 あの昆虫ドラゴンはBの中でも上位。

 それに対して、こっちはつい先日Dランクに進化した5匹。

 勝利なんてのは奇跡の部類だ。

 負けて当たり前の戦いだったと言える。


 なのに、あいつ等全員悔しがってた。


 少しでも早くランクを上げる為。

 進化条件の達成のため、今日は非召喚空間で修練をするらしい。


 一応休日のつもりなんだけどな。


 まぁ、休みたいときはいつでも休んでいいと伝えてある。

 だから勝手に言ってくるだろう。



 俺:ダリウスは休まなくて良かったのか?

 ダリウス:問題ありません。それより今は、この力を使いたくウズウズしてますから。

 ダリウス:それに、先輩方には負けて居られませんからね。



 昨日のスルト達の戦いを見て、ダリウスはやる気満々だ。

 一歩先にCランクに進化したからな。


 ダリウスの進化先は三種類あった。



 ――闇龍。


 ――毒龍。


 ――呪龍。



 正直、どれも分からん。

 俺の召喚獣は、どれも既存の魔物とは全く違うステータスを持っている。


 それが、召喚獣解析というスキルで分かった。

 スルトとかが良い例だ。

 完全保管なんて、探索者でも超希少なスキルだ。

 スケルトン・ポーターなんて種族は野良で確認されてないし。


 ていうか、収納のスキルを持っててもスケルトンなんて知能皆無だし使い方分からないだろ。

 と、思わなくもない。

 そういう意味でもスルト達は特別だ。


 黒魔術に関しても、野良のワイトが使う様なスキルじゃない。


 その魔物へ進化したからと、その魔物固有のスキルに目覚める訳では無いらしい。


 だからと言って、獲得の法則も分からない。

 どうせ分からないならと、進化先はダリウスに決めて貰った。



 ダリウス:それにしても、この身体は最高です!



 ダリウスの選んだ種族は『呪龍』。

 体格は馬並みとなった。


 そして、スキルなのだが……


「ダークブレス!」


 その一撃は、今までの物とは比較にならない威力だ。

 眼前全てを覆う程の黒いオーラ。

 それに触れたゴブリンは一瞬で倒れていく。

 炭を越え灰と成る個体も居る程だ。


 キルカウント。

 それが、新たにダリウスの獲得した能力だ。

 その能力は、連続して何かを殺害する度に発動。

 ダリウスの身体能力とスキルの威力を増加させる。


 故に、このゴブリンしかでない悪鬼洞窟では無類の性能だ。

 ただ、例えばそこらの蟻とかを殺しても不発する。

 対象は今分かる範囲では魔物のみの様だ。


 そして、キルカウントの待機時間は15秒。

 これは、キル数を加算できるリミットだ。

 1体倒すとまた15秒にリセットされる。


 その時間内に魔物を倒すと、ダリウスの中に呪いの力が蓄積される。

 その蓄積量に応じて無尽蔵に強化されていく。


 対、集団戦に置いては最強と言っていい力だ。


「す、すごいですね……」


 夜宮さんも、眼鏡を曇らせて冷や汗をかいている。

 そうなりますよね。

 俺もそうなってます。


 パチパチと手を慣らす夜宮さん。


「凄いでしょ」


 ダリウスは満足気だ。


「は、はい!

 とても強いと思います!」


「ふんふん、悪くない気分だね」


 夜宮さんだけど、やっぱり服は一緒だ。

 日給5万の筈なんだけどな。

 ずっとボロボロのスーツを着ている。

 なんていうか、家に帰ってる感じがしないんだよな。


 ホームレスとか?

 でも、お金ある筈なんだけどな。


「ダリウスさん」


 呼び方はそうなったらしい。

 ダリウスが、盟主と自分が同じ敬称は不敬とか言って。


「んー?」


 ダリウスって俺以外と喋る時は結構陽気だな。

 昨日は結構疲れたから、憑依はあんまり発動してない。

 ダリウス自身に自分の身体に慣れて貰うの先決。

 後、俺も休みたいし。


「実は私、昨日探索者のテストを受けて来まして……」


 探索者認定試験。

 俺もそれを合格して探索者になった。

 けど、俺勉強時間込みで1月以上かかったけど。


 少なくとも、明日行ってくるぜ!

 みたいなノリで合格できる試験じゃない。


「へー」


「合格してきました!」


 そう言って、自分の顔写真が貼られている探索者証を見せて来る夜宮さん。


 マジかよ。

 この人は割とずっと暗い顔してた。

 けど、ダリウスと話す時はちょっと楽しそう。

 それでも、こんなに笑ってるの初めて見たよ。


 そのくらい、夜宮さんは感情を露わにしていた。


「おぉー!

 それって凄いの?」


 凄げぇよ!


「あはは、全然全然。

 ダリウスさんに比べたら全くです。

 でも、これで大出を振ってダリウスさんの荷物持ちができますから」


「なるほどー。

 僕にとって便利になってくれたって事か」


「そうですそうです」


 なんだろう。

 この子供と大人で、王様ごっこしてる感。


「本当に何もできない私ですが、勉強だけは少しだけ自信がありまして」


 そう言って、あはは……と笑う夜宮さん。

 いや、それでも相当凄いと思うけどな。

 探索者の事なんて、学校で教えてくれる内容じゃないし。

 全部独学の筈だ。


「じゃあ、上げてたお金はその勉強に使ってたの?

 盟主が、ボロボロの服だから心配してたよ」


「あぁ……いえ、勉強は本屋で立ち読みしまして……」


 マジで凄いじゃん。

 俺の課題代わりにやってくれないかな。

 流石に、そんなお願いはしないけど。

 てか、個人情報バレるし。


 でも、じゃあ何にお金を使ってるんだろ。

 まさか、まだ貰ってる事を気にしてるのだろうか?

 それで、使ってないとか。


「じゃあ、お金は何に使ってるの?」


「言い難い事なのですが……借金がありまして」


「へぇ、どれくらい?」


 ぶっきらぼうにそう聞くダリウス。

 俺以外には気を使えないんだよな、この龍。


「1億程……」


 ブッ!

 飲んでたジュース噴出したよ。

 憑依飲料は危険だ。


 ってか1億って……

 俺だって30万くらいしか借金した事ないぞ。

 そもそも、どうやったらそんなに借りれるんだよ。

 良く知らないけど、与信とか無いと無理なんじゃ無いのか。


「それで、利子が毎月95万と5千円ほどありまして……」


 おぉ……

 ヘビーな話だ。

 てか、ヤバい所から借りてんだろうな……


 1日5万で、月20日探索したとして。

 それで100万だ。

 その中から95万を借金返済に充てたら、残りは5万。

 そりゃ家も無いか。

 てか、食費抜いたら残らないだろ。


「1億って多いの?」


 俺から知識はインストールされてるはずだけど、若干感覚とズレてる部分もある。

 どういう原理で知識を入れてるのか謎だよな。


 けど、夜宮さんはそんな質問にも丁寧に答えていく。


「いえいえ、頂けてるお金で利子は払えていますから。

 全然、困っているというほどではありません」


 いや、どう見ても困ってるでしょ。

 穴空いた靴下履いてるの知ってるんだからな。


「ダリウスさんと会わなければ生きてないでしょうね。

 多分臓器だけ取られて海の藻屑と言った所でしょうか。

 だから、大変感謝しています!」


 そう言って、何度も頭を下げる夜宮さん。

 それをみてダリウスは「へー」と興味なさ気な返事。

 人に興味無さすぎだろ。



 そうこう話していると、陽が沈んでいる。

 俺は自室に居るから外の明るさで分かる。



 俺:そろそろ引き上げるか。

 ダリウス:畏まりました!



 という会話をすると、ダリウスはいつもの様に夜宮さんに魔石の売却をお願いする。

 今日は一昨日までと比べてかなり多い。


 100個以上近くあるんじゃないだろうか。

 って事は300匹以上殺した訳だ。


 朝からやってるとは言え、流石に凄まじい数字だ。


 キルカウント、恐るべし……

 Fランク迷宮で日給100万円……

 もう、働く必要無いんじゃね?


 旅行用バッグみたいなのに魔石を詰める。

 詰め終えると、5つのバッグが満杯になった。


「これじゃ運べないね」


「いえ、ご心配なさらず!」


 そう言って、親指を立てる夜宮さん。

 一瞬ダンジョンの外に出て、台車を引いて来た。


「税込み3万2千円。

 こんな事もあろうかと、24回払いで買っておきましたので!」


 そう言って大きめの台車にバッグを乗せていく。

 いや、借金増えてますよ。

 ていうか、それ言ってくれれば払うのに。


 いつも領収書まで貰って来てくれる律儀な人だし。

 仕事ができない感じもしないんだけどな。


『これは絶対に持って行ってください!

 探索者は自営業、盟主様が確定申告で困る事になりますので!』


 と言って、初日にダリウスに領収書を渡していたのは記憶に残っている。

 そんなの全然考えてなかったし。

 そりゃ、税金払わないといけないに決まってるよな。


 そういうのに気も回るし、会社ってそんなに厳しい環境なのかな。


「いってらっしゃーい!」


「はい! 直ぐに戻ってきます!」



 そう言って、台車を引いて夜宮さんは買取所へ向かった。







 ――でも、いつまで待っても彼が帰って来る事は無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る