第14話 デート=集団戦



 リン:何あの女……。ご主人様の隣を歩いちゃって。

 ルウ:王に拙者たちの戦を直に見て貰える。それは良い事である。

 アイ:主様と一緒に探索。嬉しい。

 ヴァン:我等の力で主君を驚かせてやるとするか。

 ダリウス:皆さん、護衛はお任せください。僕も皆さんの活躍楽しみにしています。



 主に宿った新たな力。

 名を念話メッセージ

 独立行動のスキルでは、主と主以外との会話しかできない。

 それは憑依でも同じ事だ。


 しかし、このスキルは、我々召喚獣間での会話も可能とする。

 この声は、主には聞こえない。


 そのネットワークで、会話をしながら我等はいつもの迷宮を進む。


 大蟲森林。

 人間より、そう名付けられたダンジョン。

 それは今や、我等の庭の様な物だ。


 普段は安全な位置から、我等に加護を与えてくれる主。

 しかし、本日だけは別。

 我等の戦いぶりを直に見てくれるという。

 その状態に、皆の気分も高揚している。



 スルト:だが気を引き締めよ。

 スルト:流石は主が連れて来た者。あの人間の実力は、我等の誰よりも上である。

 リン:分かってるわよ。今のあたしたちじゃ、相手にもならない。

 ルウ:佇まいからして、かなりの強者でありますね。

 ヴァン:流石、主君が連れて来た人間だ。



 ダンジョン内で隊列を組みなおした我等。

 主の警護は新たに加わった召喚獣に任せる。

 ダリウスは、単体の性能で言えば我等の誰よりも高い。

 だが、ダリウスが5匹居るよりも我等の方が強い。

 そんなバランスだ。


 故に、主の采配は理に適った物である。



 ◆



「詠唱時間を予め作って置いた媒体で簡略化か。

 リスタートのデメリットによっては中々……

 でも、それだけであのレベルは説明がつかない。

 Dランクみたいだけど、連携可能な程の知性……?

 秘密はそれかな……」


 魔石召喚のスキルを使うと、木葉がぶつぶつと小声で呟き始めた。

 何言ってるか良く分からん。


「木葉? どうかしたか?」


「いえ先輩、なんでも無いですよ。

 私、ダンジョンで緊張しちゃってるのかも?」


 まぁ、そりゃそうだよな。

 俺も実際めちゃくちゃ緊張してる。

 ていうか、めっちゃ怖い。

 何が嫌でこんな危ない場所に来ないといけないのか。


「でも、悲鳴でも上げるかと思ったよ」


「え?」


「だって、ここ探索者でも寄り付かない虫ばっか出る迷宮だし」


 そう言っている間も、スルト達が巨大百足を容易く屠る。

 紫というか緑っぽい血が飛び散った。

 正直、キモイ。

 女の子の前だからカッコつけてるだけだ。


 でも、木葉の方が余裕そう。


「まさか、こういう事に慣れてる訳でもないしな?」


「……慣れてないですけど」


「でも、それにしては余裕そうじゃん」


「うっ……きゃ、きゃー怖いですー!」


 なんか、ワザとらしい感じで俺に抱き着いて来る木葉。


「流石にそれは俺でも嘘だって分かるぞ?」


「うっ……これはですね……」


「グロい映画が好きとか?」


「そ、そうです! 大好きです!」


「ゲテモノ料理も食える?」


「食べれます! 大好きです!」


「じゃあ、今度一緒に食べに行くか?」


「は、はい……嬉しいです」


 何故か、冷や汗をかきながら木葉は苦笑いだ。


 百足を倒し、採取を終えたスルトが俺たちに近寄って来る。


「主、魔石が見つかりました。

 献上いたします」


「喋ってる……?」


「あぁ、名前を付けたら喋る様になったんだよ。

 こいつは、スルトな。

 スルト、こっちは俺の後輩の木葉だ」


「お見知りおきを木葉様」


「よろしくお願いします。

 ……って、喋れる召喚獣なんてAランク越えの高位種だけの筈なのに」


 後半はボソボソ言ってて良く聞こえなかった。


「スルト、良くやった。

 収納して置いてくれ」


「御意」


 そう言うと、スルトの手に有った魔石が消える。


「今のは?」


「収納っていうスルトの能力だ。

 便利なんだよな」


「容量や内部時間はどうなってるんですか?」


 え。

 何それ。

 考えた事も無かった。

 俺が困っていると、スルトが代わりに答える。


「容量は、今の所限界を感じた事はありません。

 最低でも10トンは入るかと。

 内部時間は停止している様です」


「ほんとに?」


「木葉様には及びませぬ」


 何言ってんだスルト。

 木葉はただの大学生だぞ。

 俺が連れて来たからって、そんなにおだてなくていいのに。


「何言ってるのかな……?」


 木葉が愛想笑いを浮かべている。

 なんか、迫力が増した気がした。

 何か、普段とは様子が違う。

 まぁ、ダンジョンだしそりゃ違うか。


「私なんて大した事ないよ?」


「フッ、なるほど。

 我等も精進しなければなりませぬな」


 そう言ってスルトが笑った。

 そのまま振り返って皆の元まで戻っていく。

 なんだあいつ。


 その後も、スルト達は危うげなくダンジョンを進んでいく。


 俺が渡した魔道具。

 支配の魔杖を使い、百足を蘇生。

 使役している。

 ただ、スルトが使うと肉が削げ落ちて骨だけになってしまった。


 それを暴れさせ、適当に木々を薙ぎ払っていく。


「何やってんだあいつ等」


「空間を作ってるんですよ。

 自分たちの戦いやすい、開けた場所を。

 蟲の魔物は百足のように、構造物を回避する性能が高い場合が多いですから。

 だから、奇襲を受けない様に……」


「へぇ」


「まぁ、視界が開けてなくてもあの上で全体を見てるメデューサが居る限り、不意打ちの危険性は無さそうですけど。

 あぁ、地中からの攻撃を警戒してるのか」


「でも、大きい音を立てると魔物が寄って来るんじゃ?」


「それも狙いでしょう。

 不意打ちでなければ負けない。

 そうであるのなら、数を集めて叩く方が効率的です」


 木葉の言う通り、薙ぎ払われた空間に四方八方から蟲の魔物が寄って来る。


 リンの炎が広がり空間内が紫に包まれる。


「炎を操作して、虫の進行方向をコントロールしてる」


 追い込まれた蟲達が地面を這うが、必ず前に誰かが居る。

 ヴァンに向けて突進する大型のダンゴムシ。

 しかし、ヴァンの手には影によって作られた刀が握られている。


 抜刀一閃。

 ダンゴムシの装甲を切り裂き、内部まで断ち切る。


「あれ、長さおかしくね?」


「魔力で作った武具ですからね。

 伸縮は自在なのでは?」


「ほぇー」


 だが、虫の中には羽のある奴もいる。


「空に逃げられるんじゃ……」


「いいえ、制空権は最初からこちらが取っていますよ」


 カマキリみたいな蟲が羽を広げた瞬間、光線がその羽を穿つ。


「良い視野です」


 アイの光線は、羽を広げた奴を見逃さない。

 バッタもテントウムシもゴキブリも。

 羽を広げる一瞬だけ、動きが止まる。

 その瞬間に、光線が羽を穿つ。


「でも、同時に飛び上がられたら?」


「恐らく問題ないでしょう」


 木葉の言う通りだった。

 紫の炎が、その虫の天上を覆う。

 それは、光線の再射撃の時間稼ぎ。

 けれど、確かに蟲の行動範囲は激減している。


 そこをアイが再装填した光線で撃ち抜く。


「高い情報共有能力。

 そして、優秀な全体指揮官」


 そう言ってスルトをみやる木葉。

 けど俺は思った。

 スルトが狙われたらヤバいんじゃ……って。


 しかし、そんな俺の心を見透かしたように、木葉が先んじて答えを言う。


「何より、あれだけチームの距離感を離せるのは、ブレインを警護する護衛の存在ですね」



「――ワァアアアアアアアア!」



 ルウが盾を構え、吠えた。

 その瞬間、虫がルウに群がっていく。


「精神干渉系の絶叫ハウル

 その声を聴いた者は、声の主への憎しみを増大させられる。

 蟲の知能でそれに逆らうのは無理でしょうね」


「すっげ」


 何がって、4匹以上の巨大昆虫に群がられても耐えている事だ。


「あれ、なんですか先輩?」


「何が?」


「あの、黒いオーラですよ」


 よく見ると、ルウの身体を黒い何かが覆っている。

 でも、あの時の『呪怨黒化』という物よりは大分薄い光だ。


「さぁ?」


「なんで先輩が分かってないんですか」


 呆れるように俺を見る木葉。

 しょうがないでしょ。

 俺何もやってないんだから!


 なんて言える訳も無いから、内心で悔しがるしかできない。

 悔しい!


「多分ですけど、強化スキルの一種ですかね。

 使ってるのは、さっきのスルトさん」


 あぁ、多少魔法を使える様になったらしいからな。

 でもリンの炎やアイの光線程、攻撃力は無い。

 だから、多分味方を補助する方の魔法を研鑚してるんだろう。


「闇属性の強化魔法……。

 見た事ない……魔物特有の力?」


 更に、死亡した魔物をスケルトン化して制御している。

 炎の陣形とアイの光線に合わせて、彼女たちの手の届かない魔物の足止めに使っている様だ。

 流石スルト。


「どうだ?

 これくらいで満足してくれたか?」


「はい。

 先輩の召喚獣は確かに強いです」


 紫の炎を制御するだけだったリンが、動き始める。

 短刀に炎を纏わせ、接近戦闘で魔物を屠り始めた。

 アイの光線も、頻度が上がってきている。

 ヴァンも蝙蝠に変身し、俺が上げたかぎ爪に影を纏わせて拡張。

 傍の敵から切り裂いている。


 ルウも盾に群がって来た魔物に剛力で、カウンターを決めている。

 スルトは静観しているが、操る魔物の動きは派手な物になっている。


「作戦が殲滅になりましたね。

 勝ちが決まったと判断したようです」


 最近はダリウスとの訓練ばっかだったからな。

 授業中に稀に見てたけど、ずっとじゃないし。

 まさか、ここまで圧倒的になってるとは。

 次のダンジョンを早く探してやらないと。


「ですが……」


 木葉が小さく呟く。

 何故か、俺から少し離れて手を鞄に入れている。

 気のせいかもしれないが、鞄から金属音が聞こえた気がした。


 大地が揺れる。


「なんだ……?」


「ワームです。

 来ますよ」


 それは、スルトの真下だった。

 大地が盛り上がり、スルトが打ち上げられる。


「KISYAAAaaaaaaaaaaa!!」


 そのまま地面から現れた巨大な芋虫擬き。

 牙のある大口と長い胴体だけのキモイ何かが、スルトを食った。


「Dランクモンスター。

 アースワーム。

 奇麗に不意を突かれましたね」


 そう言って、姿勢を低くする木葉。


 でも、俺の隣にリンがやって来た。


「木葉さんって呼んでいいですか?」


 呼ばれて、木葉がリンを見る。


「……えぇ」


「あたしはリンっていいます。

 心配しなくて大丈夫ですよ」


「どういう意味ですか?」


「スルトは、あんなのに負けないので」


 リンが、そう言った瞬間だった。

 空中に飛び上がり、地中に帰ろうと下降を始めたワームの。

 その、胴体から何かが付きだす。


 黒い、剣……?


「あれは一体……?」


「ご主人様から貰った極大剣です。

 最初は、自力で操るのは無理だったんですけど……」


 その剣が、ワームの胴を一周し切裂いた。

 中から、浮遊するスルトが現れる。


 真っ二つになったワームは、そのまま地面にべちゃりと血肉を巻き散らした。


「魔力を纏わせて武器を操ってる……?」


 そのまま、何食わぬ顔で着地するスルト。

 あいつかっけぇ……


 そのまま直ぐに魔石の採取を始めるスルト。

 あいつかっけぇな。


「どうですかご主人様?

 これが私達の今の力量です」


 そう言いながら、俺の右腕の身体を摺り寄せて来るリン。

 何故か、木葉に視線を送っている。


「あぁ、思ってた数倍強くなってるよ」


 そうすると、何故か対抗する様に木葉逆から引っ付いて来る。

 まぁ、悪い気はしない。


「そうですかね?

 集団戦のコントロールは認めますけど、強い単体相手はどうですかね?

 手数や種類はあっても、高ランクの魔物の装甲を突破できない。

 良くある話です」


「そんな事……」


 反論しようとするが、言い返せないリン。

 そりゃそうか。

 まだこの迷宮のボス。

 Cランクには挑んだ事も無いのだから。


 ふむ、しかし確かに木葉の言う事も一理ある。

 今までの話でも木葉の言う事が間違ってる感じは無かったし。


「ていうか、なんでそんなに詳しいんだ?」


「えっ……あっ……それはですね……」


 分かりやすく狼狽える木葉。


「ははーん、なるほどな」


 したり顔で、木葉を見る俺。


「なんですか、その顔は」


「いいって、隠さなくて。

 全部分かったぞ」


「……私は別に隠し事なんて」


 そう言って視線を逸らす木葉。

 分かりやすい奴め。


「木葉って、探索者オタクだったんだな」


「……え?」


「だってそうだろ?

 探索者でもないのにあれだけ探索の事やスキル、戦術についても詳しいなんて。

 でも隠す必要ないだろ?

 ちょっと詳し過ぎる気もするけど、別に引いたりしないぞ」


「そ、そうですね……。

 実はそうなんです……ははは」


「やっぱりか」


「待ってよご主人様。

 あたし達は、自分たちより高ランクの相手とだって……」


 そこまで言った所で、スルトが傍に居て口を挟む。


「……リン、その言葉は無意味だ」


 そう言って、俺の前で膝を付くスルト。


「主よ、我等は主の命によってこのダンジョンの最奥。

 迷宮の守護者との戦いは避けてきました。

 しかし、我等の実力は見て頂いた通り。

 どうか、挑戦を許可して頂きたいのです。

 今日この日であれば、負ける事は無いでしょう」


 そう言って、チラリと木葉を見るスルト。

 うちの召喚獣たち、木葉の事気に入り過ぎじゃない?


「だが……」


 いや、俺は怖いんだよ。

 だって、生身だし。

 死んだら死ぬし。

 ていうか、召喚獣の君らと違って俺のスペックは凡人だからな。


「良いんじゃないですか、先輩」


「けど、危ないだろ」


「私は先輩の力を信じますよ。

 先輩は、自分の召喚獣を信じれないんですか?」


 そう言って笑う木葉。

 こいつは、俺がそういう言い方をされると折れる事を知っているのだ。

 いつものズルさが戻って来た。


「はぁ、ダリウスも加える」


 それでだめならしょうがない。

 世の探索者たちは、常に命がけで戦っているのだ。

 常軌を逸した行動だと思うが、それでもそっちが正統派。

 俺は、所詮ズルをしているに過ぎない。


「それでも、ちょっとでも危なかったら逃げるからな」


「ありがとうございます!

 ご主人様!」


「御意」


 そうして、俺たちはこのダンジョンの最奥へ向かう事となった。

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