第11話 ランクアップ


 Eランクダンジョンの攻略を始めた事で、俺に流れて来る経験値の様なエネルギーが増大した。


 レベルアップの感覚が立て続けに続いていく。

 それに、新たなスキルの感覚も。


「素晴らしいですね。

 先輩方は……」


「分かるのか?」


「えぇ、皆さんの頑張りが伝わってきます」


 俺は、翼を羽ばたかせて飛ぶ。

 一つの口で二人分の言葉を吐いて意思を疎通する。

 言葉にせずとも、憑依状態であれば思考の共有も可能だ。


 ただ、言葉に出てしまうほど驚いたのだ。


「俺たちも負けてられないな」


「そうですね!」


 翼の遠隔制御。

 思考分割による肉体の同時操作。

 基本的には俺が身体を操作する。

 翼などの制御が甘い部分は、ダリウスに補助して貰う。


 更に、ブレスは牙のスキル起動。

 それもダリウスに任せた方が、効率的な事が分かって来た。

 俺の役目は戦闘の組み立てだ。


 スルトならもっとうまくやるのだろうな。

 そんな挫折的な思考が頭に浮かぶ。


 けれど……現状負けているからと、それが何もしないで良い理由にはならないと思う。


「ギャギャギャ」


「ギャッ」


「ギャギ、ギャガ、ギャギャ!」


 ゴブリンの群れがわらわらと溢れて来る。


「行くぞダリウス」


「お任せを、盟主」


 身体を慣らすため。

 そして、当初の目標通りスルト達の武具を充実させる為。

 俺は、爪を、牙を、息吹を、巻き散らす。


 俺も早くEランクダンジョンへ行かないとな。



 ◆



 俺がダンジョン攻略を始めて5時間程。

 リンが死んだ感覚が来た。


 それを受けてスルトに連絡する。



 俺:送還するか?


 スルト:今宵はここまでの様です。



 丁度、俺の方もある程度慣れて来た所だ。

 俺はダリウスを含む全ての魔物を送還した。


 勿論、スルトは再召喚し集めて置いた魔石を収納して貰ってから。


 スルトから得られた魔石の数は、俺のFランク35個。

 スルト達のEランクが15個。

 やはり、Eランクとなると1匹当たりの討伐時間が増えている様だ。

 それでも、売却金はスルトたちの方が多くなりそうだけど。


「申し訳ありませぬ。

 土中より接近するワームの様な魔物に気が付けませんでした。

 リンは我を庇って……」


 申し訳なさそうにスルトがそう報告して来る。

 俺は自分のベッドに腰かけ、スルトが正座で床に座る構図。

 ……めっちゃシュール。


「良い判断だな。

 お前が死んで収納の中身が無くなるのが最悪だ」


「御意……

 しかし、土中からの攻撃も想定して置けば……」


 俺なら慌てふためいて何もできず即死する自信がある。

 でも、スルトにとってはそれは冷静に対処すべき事件なのだろう。


 スルトがそう思うなら、俺はそれを否定しない。


「明日までに土中からの攻撃への対処手段を講じて置けばいい」


「仰る通りかと……」


「それとスルト、お前の進化条件は確か後Dランク一体の討伐だ。

 今からランクアップしに行くぞ」


 スルトは既にホブゴブリンを二度倒している。

 後一度倒せば進化条件を達成する。

 他のダリウス以外の召喚獣は既に進化可能な状態にある。

 ならば、スルトも同時にランクアップさせよう。


「しかし、それでは主に迷惑を掛ける事に……」


「また、同じ負け方をする方が迷惑だよ」


「……面目次第もありませぬ」


 突き放す様に俺は言う。

 主人だと、主だとか王だとか、召喚獣たちは俺を持ち上げる。

 なら、俺はそれに応えなければならない。


 上から目線で命令する。

 俺の役に立てと。

 その為に、最大限の支援をする。

 それが、俺の役割だろう。


「それとお前の武装を増やす。

 収納何て希少スキルがあるんだ。

 もっと、多種の武器を使える様になってくれ」


 課題を持って問題に取り組む姿勢。

 スルトには確かにそれがある。

 けれど、俺に対しては何処か遠慮がある。

 結局、奥の手も使わなかったしな。


 けれど、それでは困るのだ。

 絶対に勝たなければならない一戦。

 その時に本気を出して貰うために。


「スルト、どんな武器が欲しい?」


 金はある。

 もっと稼げる。

 お前達が死ねば武具は失われる。

 だとしても、俺はお前たちに金を使うよ。


 自分で使うより、よっぽど目的に忠実な使い方だ。


 その後、サクッとホブゴブリンを討伐して来た。


 これで、彼等がDランクへランクアップする条件を全て満たした事になる。



「リン」


「はい」


 妖鬼。


「それが、新しい種族名だ。

 そして……」


「鬼火という能力を獲得しました」


 紫の炎を操るスキル。

 その最大の特徴は操作の自由だ。

 どれだけ燃え広がっても、意思一つで消火できる。

 更に、炎に指向性を持たせる事が可能。


 魔術師的な能力も会得したリンは攻撃の幅が大きく広がるだろう。


 そして、見た目も大きく変化した。

 ずんぐりむっくりだった容姿とは全く違う。


 小柄な少女という様な見た目になった。

 普通と違うのは、肌が薄い緑な事。

 それと二本角が額にある事だ。


 けれど、それ以外は本当に人間の様になった。

 ボブカットの白い髪。

 身長150cm程の小柄の体躯。

 派手な中学生? みたいな見た目。


「ていうか服! 

 健全な男の子には刺激強すぎるだろ」


 何故か腰巻だけあるけど、上半身は完全な裸だ。


「ご主人様なら全然へーきですよ?」


「駄目! 俺がへーきじゃねぇから」


 俺のサイズの服しか無いが、少しダボ着いたニット系のセーターを着させる。

 今度、もっと服買って来るか。

 どうせ金ならある。


「えへへ、ご主人様の匂いがする」


 ちょっと変態チックだが、まあそれ位はいい。


「次、ルウ」


「はっ」


 膝を付くルウに種族進化のスキルを起動する。



 ――屍食鬼。



 獲得した能力は、自己再生。

 魔物の血肉を喰らう事で、体力を回復する。

 戦闘中に仕えるかは分からないが、戦闘終了時に体力を満タンにできる様なイメージか。


 それに、基本的なステータスも増している。

 特に防御力に磨きがかかっている。

 代わりに動きは少し鈍い。


 これもかなり人間に近づいた。

 まず、飛び出してた脳ミソやら臓物が引っ込んだ。

 ちゃんと肌が全身を覆っている。


 そして……


「え、ルウってその……」


「私に何か?」


 胸が膨らんだ。

 というか、進化前は肋骨さらけ出してたから胸とか無かった。


 こいつ、女だ……


「いや、なんでもない……」


「はっ、一層の忠誠を約束するであります」


 そう言ってまた膝を付く。

 こいつにも取り合えず適当な服を着せといた。


「次はアイだな」


 アイは進化条件が他より面倒だった。

 300種類の魔物の観測。

 でも、ググったら一瞬だった。

 もっと早く気が付けば良かった。


「フフ、よろしくお願いいたします」


 種族進化を実行。



 ――メデューサ。



 それが、アイの進化先だった。

 目玉だけだったのが顔だけになった。

 単眼ではなく、目が二つある。鼻とか口、耳もついている。

 それと髪の様な蛇が揺らめいている。


 飛行能力が魔力の様な物を使っての浮遊能力に変化。

 更に、石化の能力を獲得した。

 けれど、これは相手と目を合わせていないと発動できず、全身を石化するには15秒程かかる様だ。


 これに服は必要なさそうだな。


「フフ……私はどうせ顔だけの女……」


 とか言い出したのでニットの帽子をやった。


「フフフ、嬉しい」


 チョロい。

 でも、俺の衣服が着々と無くなっている。


 これで、後は男組だな。

 気が楽だ。


「ヴァン」


「更なる力……楽しみです」



 種族進化――レッサーヴァンパイア。



 正当進化っぽい感じになった。

 金髪のイケメンだ。

 でも、肌が頗る青い。

 目は赤く、牙は尖っている。


 俺と同じくらいの身長で……やはり全裸だ。


「失礼……主君」


 そう言って、腕を横に振るう。

 その瞬間、真っ赤な液体がヴァンの身体に纏わりつく。

 それが黒く変色し、貴族の様な豪華な装いを形成する。


「血液による武具の作成。

 それが某の能力のようです」


 うわぁ、俺が上げた武器の使用頻度皆無になった。

 まぁ10万くらいだったからいいけど。


「それと蝙蝠に変身するスキルも使用可能です」


 良かったぁ……


 地味に、ヴァンが一番人間に近い。

 耳が尖っている事以外は、人間と言えば信じて貰えそうな感じだ。


 ルウはまだフランケンシュタインみたいな感じで、ちょっと化物感あるし、リンは緑だ。


「最後だな、スルト」


「御意」


 そう言って跪くスルトへスキルを発動する。


 種族進化。



 ――ワイト。



 スルトの見た目にそこまで変化は無い。

 ただ、服が発生した。


 紫のローブの様な。

 魔力で造られた鎧。

 魔力耐性がかなり上がっている様だ。


 そして、何か風格というか圧力を芽生えさせる。

 気品の様な緩やかな態度。


「主、何か清々しい気分です。

 己を思い出したような……」


 そう言って、スルトは立ち上がる。

 何も無い丸い眼球の無い瞳が、俺を見つめる。


「主よ、もしも願いが叶うのであれば、魔道具を所望したいと存じます」


 それは、スルトの新たな武器に関する提案だった。


 魔道具。

 それは、魔術系のスキルを持たない物でも魔法の様な効果を発動させる事ができる希少な道具。


 それは、ダンジョンから出て来る品か、希少な生産系クラスの作った物しか存在しない。

 億を越える魔道具も沢山存在する。

 最低でも数百万はする高級品だ。


 けれど、俺は大して考えもせず頷く。


「任せろ、それが召喚士としての俺の仕事だ」


「感謝を……

 そして、その褒美に勝るほどの活躍を約束いたします」


 スルトが望むのだ。

 それを揃えるのが、最低限俺の仕事。


 ……金策するかぁ。

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