第10話 神器


 俺は召喚獣を第一部隊と第二部隊に分けた。


 今後、召喚獣が増えてもいい様に付けた物だ。

 因みに第二部隊は闇幼龍一匹である。


 闇幼龍の名前はダリウスとした。

 名付けを終えると、闇幼龍にも意思が宿った。


「ダリウス……それが僕の名前ですか。

 とても気に入りました。

 これから、盟主の為に一層の忠誠を」


「あぁ、悪いんだが憑依を使ってお前の身体を操る予定なんだ」


 名付けを与える事で、魔物は知能を得る。

 それは、スルト達で分かって居た事だ。


 だから、俺に憑依される事が気に入らないかもしれない。

 そう思って、一応聞く。


「それでもいいか?」


 駄目ならば、それはそれで考えればいいだけの事。


「何の問題があるのでしょうか?」


「なんていうか、お前は俺の為に働いてくれるのに、その意思を無視して俺が勝手に身体を操っていいのかと」


 そう言うと、ダリウスが翼を広げて俺の顔の高さまで飛ぶ。


「我が身は全て盟主の物。

 どのように使われようが喜びこそあれ、失意等ありません。

 それに、盟主に憑依されていても意思が消える訳ではないのです。

 可能であるのなら、提案を一つ」


「勿論、何かいい方法があるのか?」


「翼の使用権だけを残す事は可能でしょうか?」


 それを聞いて、俺はハッとした。

 ダリウスの言っている事が理解できたからだ。


 憑依のスキルには強弱がある。

 相手の視界を共有して閲覧する事から、相手の肉体全ての主導権を奪うまで。


 だが、そのバランスを調整すれば……


 確かにダリウスの言う様な事が可能かもしれない。




 ◆




 やって来たのはEランクダンジョン。

 名称:大蟲森林。


 悪鬼洞窟と同じく、その迷宮もかなり人気の無いダンジョンだ。

 理由は、まぁ言わずもがな。

 名称の通りだ。


 ダンジョンとは異次元の入り口だ。

 だから、現実世界にそこまで大きな変化は引き起こさない。


 ただ入り口の大きさでランクが大体分かると言われる様に、高ランクのダンジョンなら入り口もスカイツリーのように巨大な物もある。


 しかそここは所詮Eランク。

 ダンジョンへの扉は高さ5m幅3m程度しかない。


 その入り口に、召喚陣をセット。

 そのまま俺は外に出る。

 スキル起動。


「皆、出て来てくれ」


 スルト、リン、ルウ、アイ、ヴァン。

 その5体が迷宮内で召喚される。



 俺:やる事は悪鬼洞窟と同じだ。

 俺:魔物を倒して魔石を回収。

 俺:ボスはまだ挑まなくていい。


 スルト:御意。



 この念話の様な力。

 それは、俺のスキル『独立行動』の効果の一つだ。

 召喚されている召喚獣と意思で会話する事ができる。


 スルトに教えて貰った。

 なんで、召喚獣の方が俺のスキルに詳しいんですかね。


 それを使った秘策も用意している。

 まぁ、使うのは大分先だろうけど。


 更に、スルト達に武器を与えた。

 防具はまだ無理だが、魔物用の武器を五個なら、ギリギリ買えた。

 本当にギリギリで、俺は一文無しになったけど。


 特にスルトにお願いされた武器がめっちゃ高かった。

 あんなの何に使う気なんだよあいつ。

 まぁ、スルトにはスルトの考えがあるんだろうけど。


 そのまま、俺たちは悪鬼洞窟へ向かう。

 悪鬼洞窟へノートの切れ端を捨てて、帰宅。

 召喚と憑依を発動する。


「それじゃあ行くか、ダリウス」


 ダリウスの能力を十全に発揮し、召喚士としての力を組み合わせられる様に訓練する。

 それが終わるまでは、暫く第二部隊は悪鬼洞窟だ。


「僕も早く、先輩方のように強くなりたいです!」


 いや、君の方がランク上だけどね。

 けど、向こうは向こうで先日の黒い状態変化がある。

 あれが何だったのかは結局分からなかった。


 スルトに聞いても、狙って出せる戦術では無いらしい。

 スルトは頭脳型で指揮官だからか、そういうのに頼る気は無いらしい。


「じゃあ、翼の訓練から始めるか」


「はい!」




 ◆




 主によって新たに任された戦いの場。

 そこは、有り体に言ってしまえば蟲の巣窟だった。

 更に、そこに生息する全ての昆虫は通常の十倍以上の体躯を持つ。


「右前から音がする!

 気を付けろ!」


 ヴァンが、優れた聴覚を駆使した索敵で、敵の接近を観測する。


「キモッ」


 リンがそう言って、ヴァンが指示した方向へ顔を向ける。


 そこに居たのは、巨大な百足だった。


 だが、まるで機関車の如き速度で猛進するそれは、猪等よりもよほど高い攻撃力を有していると思われる。


 だが……


「ルウ」


 我は、信頼に足る仲間の名を呼ぶ。


「任せるのである」


 今の我等は昨日までの我等とは違う。

 この神器があるからだ。


 ルウが持つのは鉄のカイトシールド。

 アーモンド形の盾だ。


「フンヌ!」


 ルウの盾が、大百足の突進をブロック。

 すかさず我は指示を送る。


「リン、アイ!」


「分かってるって」


「フフ、分かった」


 右から短刀を構えたリンが走る。

 左側面に回り込んだアイの瞳に光が収束する。


「KYyAaaaaaaaaaaaaaa!」


 百足が声にもならぬ悲鳴を上げる。


 殆ど同時に、剣戟と光線が両側面を穿つ。

 しかし、光線の方が威力がかなり高い。


 主から与えられた神器。

 その中でも、アイの物は特殊だ。


 魔導レンズ。

 魔力によって身体の周りを自由に浮遊するレンズ。

 それに光線をぶつける事で、透過した光は収束強化される。

 百足の甲殻を貫通し、光は大ダメージを与えた。


 ただ、レンズの操作と光線の制御、そして射線の管理と周囲の警戒。

 アイの仕事量が増えた事で、彼女は若干攻撃速度が低下している。

 しかし、味方に誤射するよりはマシ。

 想定通りだ。


 一撃で止まったアイの攻撃とは別に、リンが百足の背に乗り疾走すると同時に短刀で斬りつける。


「ヴァン、我を乗せろ」


「あれをやるのか?」


「初めてが実戦では怖いか?」


「馬鹿を言うな、ちゃんと合わせろよ」


「任せて置け」


 我はヴァンの背に乗り、高度を上げる。

 ある程度の高さまで飛んだ時点で、翼を停止。

 我の身体をヴァンの翼が覆い、急下降を始める。


「行くぞスルト!」


 ヴァンが与えられた神器は、翼をガードするウィング。


 そして我は……


「今だ!」


 高度がある程度まで下がった所で、我は叫ぶ。

 それと同時に、ヴァンが身体を捻り我を空中へ投げ出す。

 

「――収納解放」


 呟きと同時に我の神器が姿を現す。


 ――極大剣。


 単独の腕力では全く振るえない程巨大な武器。

 その全長は我の身長と同等な程。


 それを、落下の速度を利用して無理矢理振るう。


 全身を前転させ、極大剣を百足に叩きつける。


 もし失敗し、我の身体が地面に向けば我は死ぬ。

 だが、それも主の加護あればこそ恐怖は無い。


 故に、最大の一撃を。

 最高の火力を求める事ができる。


「飛剣・堕転斬り」


「KIiiNnnnnnnnnn!!」


 その一撃は巨大な百足の首を跳ね飛ばす。


 首が取れても、数秒絶叫する百足。

 しかし、その悲鳴は直ぐに止んだ。


「アイ」


「大丈夫、他の魔物の気配は……ない。

 この森、そこまで魔物の生息数は多くない……よ」


「ヴァン」


「あぁ、音も聞こえん」


 どうやら、一時、戦闘は終了の様だ。


「ていうかスルト、凄いじゃん!

 最初に聞いた時はマジ……って思ったけど何よあれ!

 爆発してたよ爆発!」


 リンが興奮気味にそう言ってくる。

 我は収納によって大剣を仕舞いこみながらそれに応える。


「だが、ヴァンと我が一時行動不能になるデメリットもある。

 それだけの時間、押さえておいてくれたルウのお陰だ」


「それを言うのであれば、遊撃によって威力を抑えてくれたリンとアイの功績である」


「フフ、全部スルトが指揮した事」


 随分と仲良くなった物だ。

 しかし、それも当然か。

 主の非召喚空間。虚空世界。

 そこで我等は常に共に居る。


 作戦を立案し、戦術を憶え、それぞれの性格や能力を共有して来た。

 常に同じ敵に挑むという共通の目的。

 主に対する敬愛の共有。


 そして、非召喚空間では肉体が正常な状態へと自然回復する。

 食事も睡眠も不要になり、快適な精神状態となる。

 快適な精神は有意義な作戦立案を可能とする。

 そして、相手の性格や趣味趣向を受け入れる受け皿を広くする。


 それだけあれば、仲間と呼べる間柄になるのは必然だった。


「最後の一撃、某が協力したとしても見事だった。

 認めざるを得んな、リーダー」


 ヴァンが素直に誰かを褒める事は珍しい。

 普段、自分はDランクと単独で戦えるだけの力があると豪語する程に自信家だ。


 ヴァンも高揚しているのだろう。


 今の一撃は、アイの光線が利かない程の硬さを持った相手への対策として考えた物だ。


 その一撃が見事に決まった。

 しかも、初めての連携でだ。

 楽しくないという方が無理のある話だ。


「皆、進むぞ」


「うん」


「うむ」


「えぇ」


「あぁ」


 我等は止まらぬだろう。


 主が止まらぬ限り、どこまでも。

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