第8話 スキルアップ


 午後の授業をサボった。

 今、俺の中にある熱の様な物。

 活力、やる気、気合?

 そういう物を、講義で無駄遣いしたくなかったからだ。


 校門から外に出ようと、足を延ばす

 そこに声が掛かった。


「先輩、サボりですか?」


「木葉……先に教室へ行ったんじゃなかったのか?」


 木葉が悪い顔で近づいてい来る。

 悪戯好きの子供みたいな。


「酷いですよね」


「何が?」


「自分から先輩をフって置いて。

 それで今更何を心配なんて言ってるんでしょうか?

 相手の気持ちなんて何も考えてない。

 自分が楽になる事ばっかり考えてる最低女。

 謝罪じゃ何も解決しないし、ただ先輩を傷つけただけじゃないですか」


 誰かを陥れる。

 そんな言葉を、俺の後輩は嬉しそうに吐き出して行く。


「駄目ですよ先輩。

 あんな女に誑かされたら。

 先輩は、都合よくキープされてるだけです。

 また不幸になっちゃいますよ」


「見ていたのか」


「はい。それは謝ります。

 ごめんなさい。

 でも、分かって頂けますよね」


「何が?」


「探索者なんて辞めましょう。

 危ないですよ。

 先輩が、あの人に合わせて影を追う必要なんてないんです。

 あの人より、良い人なんて一杯いますよ。

 先輩は不運で不幸だっただけです、ただの偶然です。

 先輩のせいじゃない」


 俺は、不幸なんかじゃないよ。

 だって……あいつにフラれたから、俺は頑張ってるんだから。


「木葉、お前本当に良い奴だよな」


「……何でですか?」


「俺が思ってる事を、全部言ってくれたから」


 そういう気持ちが確かに俺の中に在った。

 雅に多少なり悪意を持っていたと思う。

 雅に責任を押し付けようとしていた事も事実だ。


 相手のせいだと想い込めればきっと楽で。

 自分は悪くないと肯定できる。

 でも、それが最終回答になったら俺は努力を辞めるだろう。

 木葉の言葉は、その揺らぎをハッキリさせる物だった。


 問題を自覚し、自分に可能な解法を理解する。


「迷いはなくなったよ」


 俺の迷いを、お前の口からハッキリ言われて。

 そして、俺はやっぱり思うよ。


「俺は力不足だ」


「……そうですか」


「木葉、助かった」


 木葉が、俺が抱えて居たけど、認めたくなかった物を全て言葉にしてくれた。

 だから俺の持つ熱意は、悪い方向には行かなそうだ。


「そういう答えの出し方をする先輩が私は好きですよ」


「お、自分磨きの効果が出て来たかな。

 俺モテモテじゃん。

 もっと、好きになっていいぞ」


「最低ですね、先輩。

 女の子の告白を茶化して誤魔化すなんて」


 今は誰かと付き合う気が湧かない。

 付き合うなら、相応のメリットを相手に与えられる人間になってからだと思ってしまうから。


 正直、木葉の言葉には驚いた。

 けれど、それは今は冗談で済ませておきたい。

 それを分かってか、木葉も余り追及してくる事は無い。


「……悪い」


「いいですよ。

 けど復縁するまでは、構って下さいね。

 その間に、先輩に私の事好きになって貰いますから」


「もう結構好きだけどなぁ」


「……この女誑し」


 罵る様に、けれど笑顔で彼女は言う。

 答えを出すのは、答えを出せるだけの実力を備えた後。


「今は、最高の誉め言葉だな」


「馬鹿、二股男、最低、女の敵」


「流石に言い過ぎだろっ!」


「誉め言葉なんでしょ?」


 馬鹿は関係ねぇだろ。

 とか。

 二股なんてしてねぇよ。

 とか。


 まぁ、色々あるけど。


「そうだな。

 もうちょっと、自信つけて来るわ」


「はい、応援してますよ」


 俺は、校門を跨いだ。



 ◆



――

神谷昇(21)

クラス『召喚士』

レベル『12』

『魔石召喚lv2』

『召喚獣契約lv2』

『召喚獣送還』

『召喚獣憑依』

『種族進化』

『独立行動』

――



 レベルが2つ上昇していた。

 そして、2つのスキルのレベルも上がっていた。


 魔石召喚はDランクの魔物を召喚可能に。

 召喚獣契約は、6匹の魔物と契約可能に。

 それぞれレベルアップしていた。


 ホブゴブリンを討伐したスルトたちを一旦送還し、休憩させる。

 同時に、スルトから魔石を預かり換金所に持っていった。


 ホブゴブリンを倒したが、Dランクの魔石は手に入らなかった。

 それでも俺の貯金は70万近くまで増えた。

 正直、全然金が足りん。


 魔物5、いや6匹分の武具。

 そして、新たに召喚可能になったDランクの魔石が欲しい。


 だから、もっと稼ぎを増やすべく俺は魔石を取り扱っている店舗に足を運んだ。


「いらっしゃいませ。

 どのような品をお求めですか?」


 探索者御用達のアイテムショップ。

 探索に必要なアイテムや、簡易的な装備。

 そして、様々なスキルの媒体となる魔石を売っている。


 中へ入ると、気の良さそうな女の店員さんが近づいて来る。

 求める物は明確に決まっていた。

 だから、俺はその名前を口にする。


「幼龍の魔石は置いてますか?」


 龍種。

 それは、魔物の中ではかなり希少な成長する魔物だ。

 通常の進化ランクアップとは違う。

 生きた年数によって、強大に成長する魔物。


 けれど、故にその最初の姿。

 幼い龍の魔石はDランクに分類される。


 俺がそれに目を付けた理由は単純。

 強いからだ。

 成長した龍は、Aランクを優に超える。


 しかも、成長速度は魔石を喰らう事で強化される事が、テイマー系のクラスを持つ探索者によって分かって居る。


 ネットで、俺は仲間に加えるべき魔物の情報を漁った。

 けれど、現段階では龍以上に適した魔物は居なかった。


「勿論です。

 しかし、鑑定書付きの魔石はかなり高額になっております。

 それも、龍種の物となりますとお値段はそれなりに」


 そう言って、差し出して来た電卓に書かれた数字は。



 ――500,000。



 普通のDランクの魔石の二倍の値段だ。

 しかし、今の俺のテンションはガンガン行こうぜだ。

 卸して来たお金をカウンターに置く。


「お買い求め、ありがとうございました!」


 その声を背に、俺はショップを出た。

 そのまま悪鬼洞窟へ向かう。


「魔石召喚」


 スキル名を呟くと、幼龍が出現する。

 黒い棘の様な鱗に身を包む龍。

 四足歩行で、背には二対の黒い翼がある。

 体躯は小さくて、鶏程度だ。


 しかし、この小さな体でも有する能力はDランク。

 ゴブリンより二段階も上の魔物だ。


「グル」


 早速俺は契約した。


 そして一旦、幼龍を送還。

 召喚陣の書かれたノートのページを破って置いておく。


 そのまま直帰。


 家から、ダンジョンに置いて来た召喚陣を意識してスキルを起動する。


 更にスキルを連続で発動していく。



 ――憑依。



 それは、魔物と感覚を共有するスキルという訳では無い。

 魔物の身体に俺の意思を移すスキルだ。

 弱めに使う事で、感覚共有の様な使い方もできるが。


 その本質は、俺の意思で魔物を身体を操れるという効果にある。



――

種族:闇幼龍

名称:

進化条件:龍殺しドラゴンスレイ

『ダークブレス』

『ダークファング』

『ダークネイル』

――



 憑依を発動した瞬間、そんな情報が頭に浮かぶ。

 深い憑依は、そのステータスすらも解析するらしい。


「グルゥ(行くか)」


 言葉を出そうとすると咆哮が出た。

 喉の構造が違うから、普通に喋れないのだろう。


 それに、四足歩行は以外に難しい。

 翼とかいう部位を操る方法が謎過ぎる。

 あとスキル。勝手に出んなや。


 一歩歩くたびに、爪が闇色に光り、床を粉砕する。


 これは……かなり苦労しそうだな。


「ギャ? ギャギャ?」


 だが、龍種の全能感というか万能感というか。

 加えて、目標を明確化した事による高揚感が、俺の精神を強くしている。


 正直、ゴブリン風情に負ける気がしない。


「グラァ」


 集まって来たゴブリンを見て、笑みの咆哮が漏れる。



 ――身体が慣れるまで、少し付き合ってくれよ。






―――――

 《豆知識》

種族名=名前=昇の呼び方。


スケルトン=スルト=主

ゴブリン=リン=ご主人様

グール=ルウ=王

ビッグアイ=アイ=主様

ヴァンパイアバット=ヴァン=主君

闇幼龍=??=??

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