第一章

第一章①『運命の始まりと初頭効果』


 突然だが、簡単な心理テストをしてみよう。


 貴方は、不思議な鏡を手にした。それは、映し出した人を実際よりも魅力的に見せるという魔法の鏡。さて、その不思議な鏡は、一体どのような形をしているだろうか。

一、丸い形。

二、四角形。

三、三角形。

四、楕円形。

 この中から選んでみよう。

 言うまでもない事だけど、これはあくまで心理テスト。決まった一つの答えがあるわけでは無い。だから、自分の思うままに、フィーリングで答えてもらえればと思う。



 ……さて、どれか一つ選べただろうか。焦らすのはこのくらいにして、種明かしといこう。

 実は、どの形を選んだかによって、貴方が自身の外見に対してどう思っているか、どれくらい自信があるのかを探ることができるのだ。

 一の丸い形を選んだ人は、おだてられると、調子に乗るタイプ。

 二の四角形を選んだ人は、外見よりも内面に自信があるタイプ。

 三の三角形を選んだ人は、必要以上に外見を気にしないタイプ。

 そして、四の楕円形を選んだ人は、容姿にかなり自信があるタイプ。

 

 ……とまぁ、こんな具合に、鏡の形を答えさせるだけで、その人の内面にせまることができる訳だ。

 もっとも、これはただの簡単な心理テスト。当たってなければごめんなさい。人の心というものは、人によって解明できる領域にまできている。子供にでも答えられる簡単なテストで、人間の心の奥底が見えるのだ。

 ……そう、『心理学』という学問によって、人間の心は暴くことができるのである。そして、それを生業とし、人間の心を解明しようとする者たちを、人は『心理学者』と呼ぶ。



 僕───藤鳥ふじとり剣悟けんごの夢は、立派な心理学者になる事だ。その為に、高校で必死に勉強をして、心理系の大学に進むことが、まず最初の目標。たとえ高校が普通の公立高校でも、努力さえすれば、名門の心理系大学に進学することは可能なはず。そう信じて、これから頑張っていこうと決めたのだ。


「いよいよ、か……」



 今日は、ゼロをイチにするための大事な日。そう、葉後ようご高校への転校初日である。

 ここで、心理学的な知識を一つ。人間は、最初に見たもの、聞いたものの印象が一番記憶に残りやすい。つまり、ファーストコンタクトで得た印象が全てを決め、後にそれをくつがえすのは難しいという事だ。これを『初頭効果しょとうこうか』と呼び、演説やマーケティングのスキルなどによく応用されている。

 ……何が言いたいのかというと、僕は今から新しいクラスでの自己紹介というミッションを控えており、まさに『│初頭効果しょとうこうか』によってクラスメイトからの印象を決められる局面にある、という事だ。


「すぅ……はぁ……」


 軽く深呼吸をして、心を落ち着かせる。正直、僕は大学合格の為に勉強する事だけが大事だと思っているから、友達なんて作る必要は無いし、クラスメイトからどう思われようが関係ないと思っている。しかし、最低限印象は良くしておきたい。周りから「変なヤツ」みたいな扱いをされながら高校生活を終わらせるのだけは御免ごめんだ。



「───えーでは、新しく来た転校生クンの紹介をします。 どうぞー、入ってきて下さーい!」



 教室の中から、担任が声をかける。僕は、もう一度だけ深呼吸をすると、意を決してガラガラッと扉を開け、ゆっくりと黒板の前に立った。

 皆の視線を背中に浴びながら、スラスラと黒板に自分の名前を書いていく。そして、丁寧にふりがなまで書き終えてから、チョークを持ったままクルッと振り返り、一世一代の一言目を発した。



「……清森きよもり高校から転校して来ました、藤鳥ふじとり剣悟けんごです。 皆さん、これからよろしくおにゃがいしゃ※$△☆ゞ♭……」




 …………………………あぁ、最悪だ。


 クラス全員が、ポカーンとしながら僕を見つめるその視線がすごく痛い。おそらくこの瞬間、彼らの中で僕の第一印象が「"よろしくおにゃがいしゃ"の人」で確定してしまっている事だろう。

 すぐに言い直そうとしたが、口も頭も回らない程に気が動転してしまっていた僕は、ただ口をモゴモゴと動かすしか出来なかった。舌がカラカラに渇き、視界が白く染まっていくのを感じる。


(終わったな、僕の高校生活……)


 もう、諦めるより他になかった。乾いた笑いを浮かべながら、僕は思考を放棄してさっさと自分の席につこうとした。




 その時、ガタンッ! と音がしたかと思うと、窓側の席に座っていた一人の女子生徒が徐に立ち上がっていた。

 明るい金色のショートボブで、パッチリとした目で、スラッとした感じの体型の女子生徒。彼女は、全員の注目が集まる中、いきなり両手をグーにして頭の近くに掲げ、



「ニャニャッ!? 貴方はもしや、ニャガシャガ星人のニャー悟クン!」



「…………は?」


 意味不明すぎる言動に、今度は僕の方がポカーンとしてしまった。ニャガシャガ星人ってのも謎だが、それ以上に、彼女のテンションそのものが謎すぎる。収拾がつかない思考を整理するより先に、その女子生徒は次のモーションに入っていた。


「ウニャーッ! ニャガシャガ星人との出会い……それが、この一年二組に訪れた未知への扉! さあ皆、ニャー悟くんに盛大な拍手と、『ウニャッシャー!』ってニャガシャカ星の挨拶を!!」


「いや、えっ……何……?」


 ツッコミを入れようとした、その直後だった。クラス中からクスクスと笑いが起こる。さっきまでの気まずい沈黙が嘘のように吹き飛び、明るい空気感が生まれたのだ。


「なんだよニャガシャガ星人って! 意味わからなすぎる!」


風晴かぜはれさん、マジ個性の塊って感じー!」


「ってか、藤鳥ふじとりくんのこと置いてけぼりにしちゃ駄目でしょ。 ……こんな感じだけど、よろしくねー」


 それは、誰かをバカにする笑いじゃなくて、素直に歓迎する意味での笑いだった。皆が温かい気持ちで僕を迎え入れてくれてるんだという事が、心で感じられる。皆の笑顔に釣られ、僕も無意識のうちに頬を緩ませながら、「よろしく!」と笑顔で挨拶をしていた。不安と焦りは、もうとっくに吹き飛んでしまっていた。



 担任に指示されて席につく直前、ふと、さっきのショートボブの女子生徒と目が合った。彼女は、僕に向かってニカッと笑いながらグーサインを向けてきた。

 ……あぁ、なるほど。どうやら彼女は、このクラスのムードメーカー的存在らしい。だからこそ、わざとあんな発言をして場を和ませ、僕の自己紹介をフォローしてくれたのだ。

 ありがとう、という意味を込めて、僕は彼女に向かって、左手で小さくグーサインをして見せた。



***



 人間は、一度興味を引かれたら、それについてもっと知りたいと思う生き物である。知的好奇心というものは誰でも持ち得るものなのだ。

 そんな訳で、ホームルームを終えた直後には、僕の席の周りにクラスメイトが円を成して群がってきた。


「ねーねー、藤鳥ふじとりくんってどこ出身なの?」


「部活とか決めた? 趣味とかある?」


清森きよもり高校って、すげー頭いい所だよな! 何でこの学校に来たんだ?」


 ……とまぁこんな具合に、転校生お決まりの質問攻めが始まる。興味を持ってもらえるのはありがたい事だけど、流石にちょっと落ち着かないかな……。

 と、心の片隅でそんな風に思いながら質問に答えていると、生徒たちの輪を割って、一人の女子生徒が僕のもとに近づいてきた。眼鏡をかけた、真面目そうな雰囲気の子だ。


「皆さん。 転校生が気になるのは分かりますけど、程々にしてあげて下さいね」


 丁寧だが、ビシッと気が引き締まる感じの声音だった。生徒らの波が引いたのを確認すると、彼女は僕の目の前にやってきてスッと手を差し出した。



「私は霧谷きりや椿つばき。 このクラスの学級委員をやっています。 今後ともよろしくお願いします」


「あ、あぁ。 よろしくお願いします……」


 どうやら握手を求めていたらしい。僕が手を出して握ると、彼女───霧谷きりやさんは幽かに笑顔を見せた。周りの反応を見て明らかなように、彼女は学級委員らしい風格と威厳を持っているようだった。落ち着きのある敬語、その堂々としていてクールな姿勢からも、彼女がリーダー的な立場に向いた性格である事が推察できる。ちなみに、こういったリーダー格の人間の行動特性は、PM理論というものによってタイプ化する事ができて……。



「それと……皆さん、もう少し周囲へも配慮してください。 梓内あずさうちさんが席に座れず困っていますよ?」


 と、僕が頭の中で心理学講義を始めている合間に、霧谷きりやさんがまた周りの生徒たちに指示を出していた。梓内あずさうち……って誰だろう? 頭にクエスチョンマークを浮かべていると、僕の隣の席に一人の女子生徒が腰かけ、僕に声をかけてきた。


「ごめん霧谷きりやさん、ありがとね。

 ……あ、はじめまして。 私、梓内あずさうち凛桜りおっていいます。 よろしくね」


「よ、よろしく……」



 一瞬見とれてしまう程の可憐かれんさ、目を引く美しさを、彼女は持っていた。梓内あずさうち凛桜りお、と名乗った彼女は、綺麗なピンク色の長い髪を揺らし、ニコリと微笑んでいる。よく見ると、周りにいた男子生徒たちのほとんどは、彼女を見るなりその瞳孔を二、三倍ぐらいに大きくして、あからさまにデレデレしていた。……どうやら、梓内あずさうちさんはクラスでも人気の美女らしい。こんな子が隣の席だなんて……僕は今後、ちゃんと授業に集中できるだろうか。



 キーン、コーン、カーン、コーン……



 クラスメイト達の質問攻めを受けている間に、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。皆がそそくさと席につく中、不精ぶしょうひげを生やしたジャージ姿の先生が入ってきて一言、



「よし、じゃー授業始めんぞー。

……あー、藤鳥ふじとり。 お前は、一時間目の合間に学校案内受けてもらう事になってっから、職員室行ってこーい」


「あ……はい、分かりました」


 そうか……転入手続きの時に説明されてたのすっかり忘れてた。まぁ、初日は何かとイレギュラーなことが続くものだから仕方ない。そう自分に言い聞かせつつ、僕は静かに立ち上がり、皆の邪魔にならないようそっと教室を後にした。葉後高校での一日は、まだ始まったばかりだ。



***



「……というか、職員室ってどこだっけ……?」


 教室を出てから十分弱。僕は早速迷子状態になっていた。公立高校というだけあってその校舎内は無駄に広く、帰り道すらもう分からなくなってしまうほどの迷宮だった。教室に戻ろうにも、来た道すら思い出せない。……いや、決して僕が方向音痴な訳ではないけど。


 ……とりあえず、外に出てみよう。覚悟を決めて、僕は校舎の階段を猛スピードでかけ降りていった。ここからは時間との勝負。今ならまだ、「急にお腹が痛くなって、トイレに行ってました」とかの言い訳が通用する。だからそれまでに、一刻も早く職員室を見つけなければ。

 教室があった三階から一気に一階までかけ降りた僕は、次に外への抜け道を探しにかかる。とりあえず、この廊下の突き当たりまで行って───



「…………あれ?」



 階段のすぐ隣に位置する空き教室の前で、僕は不意に足を止めてしまった。カーテンが閉めきってある、やけに暗い教室。その真ん中あたりの机に、オレンジ色のペンダントのようなものが、ポツンと置かれているのが見えたのだ。恐らく誰かの忘れ物なのだろうが、僕が足を止めてしまった理由は他にあった。



 乱雑に置かれたそのペンダントが、暗い教室の中でギラギラと異様に発光していたのである。


「何だ、これ……」


 人間が光るものに興味を示してしまう本能的な性質の話は置いておくとして。……このペンダントは、ボタン電池で光っているものでもなければ、周囲の光を反射させるタイプのものでもない。言うなれば、アニメやファンタジー映画なんかで見るような、魔法のペンダントみたいな神秘的な輝き……とでも言おうか。とにかく、どう見ても非科学的な光り方なのだ。



「……」



 自然と、体が動いていた。時間が差し迫っている事も忘れて、僕は空き教室に足を踏み入れると、そのペンダントの目の前まで来てじっくりとそれを観察した。オレンジ色に光るそれは、クルクルと粒子のようなものが内部で動き回っているような構造をしていた。でも、夜光塗料が入っているとか、ライトが仕込まれているとか、そういう類いの仕掛けは一切確認できない。まじまじと見れば見るほど、その発光原理は謎に包まれていった。



「これを着けたら魔法が使えるようになったり……。 ……なんて、そんなことある訳ないよな」



 一時間目の途中なんだから、人が居ないのは当たり前。そう分かっていながらも、僕は辺りをキョロキョロと見渡し、人が居ない事を確認する。そして、知的好奇心に押し負けて、ゆっくりとそのペンダントを首にかけてみた。



 ………………………。



 ……うん。まぁ、分かってはいたのだが、何も起こりそうになかった。 

 人は、非日常に惹かれ、非現実的なものに興味をそそられるものである。目の前に何か不思議なものがあると、それに連動して不思議な何かが起こるのではないかと、無意識の内に期待してしまうものなのだ。……だから、うん。別に変なことじゃない。きっと誰だってそうするんだから。うん。



「……ってか、こんなバカな事してる場合じゃないし!」



 ふと我に返って大事なことを思い出した僕は、急いで空き教室を飛び出した。早くしないと、本当に一時間目が終わってしまう! 焦る気持ちを抑えながら、外へ向かう。ペンダントを首にかけたままである事さえも忘れ、僕は、かたわらのちびキャラと一緒に廊下を駆けて外へ出た。



 …………………。



 

 …………………かたわらのちびキャラ?





 校舎の突き当たりから外に出て、石段を下りようとした辺りで、僕は自分のすぐ隣でとんでもない異変が起きている事に気がついた。ものすごい時間差で、「は?」の一言が頭に浮かんだ。

 目を点にしたまま、ゆっくりと視線を移す。



 ───そこには、僕にそっくりの見た目をした、二頭身ぐらいの小さいキャラがちょこん立っていた。




「……いやいやいやいやいやいや」



 訳が分からない。自己紹介の時の「ニャガシャカ星人」とかいうあのパワーワード以上に意味不明だ。こんな非現実的な情景があっていいはずがない。目の前の、まるで僕をデフォルメ化したかのようなちびキャラは、僕と同じように目をパチクリさせて、慌てふためいている様子だった。  



「疲れてるのかな……」



 何かの見間違いかと思って、目をこすってもう一度見てみるが、やはりちびキャラはちゃんとそこに存在している。よく見ると、そいつの腰には小さな勇者の剣がぶら下がっており、まるでRPGの初期装備状態みたいだった。

 じーっ……と、両者動きを止めたまま見つめあう。どうやら、こちらに危害を加える様子はなさそうだ。恐る恐る、ちびキャラの方へ手を差し出し、触れてみようとする。しかし、



「……あれ、触れない?」



 いくら触ろうとしても、僕の手はちびキャラの身体をすり抜けるようにして、ヒュンヒュンと空を切るばかりだった。ホログラム映像……のようなものなのだろうか? こんなの、科学的に考えても全く理解できない。……そう考えると、なんだか逆に興味が湧いてきてしまう。

 こんな非日常は初めてだ。昔から、好奇心は旺盛なタイプだったのだが、いざこうして目の前に不思議が転がっていると、やはり心が踊る……! 何とかして掴まえて、色々と調べてみれば、世紀の大発見を得られたりするかもしれない。

 僕が一人でテンションを上げていると、ちびキャラの方に新たな動きがあった。



 ピョコッ、ピョコッ、ピョコッ。



 警戒心を解いてくれたのか、目の前のちびキャラがパッと笑顔を見せたかと思うと、チョコチョコと跳びはねるように動き回り始めた。可愛らしい効果音でも聞こえてきそうなその動きは、まるでダンスでも踊っているかのようだった。

 ……なんか、こうして見てると可愛いな。今日は色々と不思議なものを見た気がするけど、こうしていると少し穏やかな気分になる。動物の不安解消効果、ヒーリング効果なんかは有名だが、このちびキャラも似たような役割を果たしてくれているのだろう。まるで、新しいこと続きで逼迫ひっぱくしていた僕の緊張を優しく解きほぐされたみたいで、ちょっと余裕が出来た気がした。



 ピョン、ピョン。 タッタッタッタッ……



 と、突然ちびキャラが躍りを止め、軽やかに石段を登っていった。かと思えば、そのまま校舎の中へ一人(一匹?)で入っていってしまう。



「え? ちょっ、ちょっと待って!」


 職員室へ行く事などきれいさっぱり忘れて、僕は慌ててちびキャラの後を追いかけていった。 



***



 来た道をそのまま戻っていくのかと思いきや、階段をスルーしてそのまま真っ直ぐ進んでいくちびキャラ。一体どこに向かっているというのだろう……? そうこうしている内に、ちびキャラがある場所の前でやっと動きを止めた。



「ここって……」



 辿り着いたのは、校舎一階の別の階段の裏側にある、備品などが置かれた倉庫。扉の前には赤い文字で『生徒は立ち入り禁止!』と書かれた貼り紙と、侵入を阻むロープが張られていた。また、埃や砂が溜まりまくっている事から、ずっと放置されていた場所であるという事も見てとれる。あからさまに不審……そんな場所だった。



「……ここに入れ、って事?」



 ちびキャラは、僕の返事を待たずに、さっさと倉庫の壁をすり抜けて中へと入っていってしまった。

 どうしよう……足を踏み出すのを少し躊躇ちゅうちょしてしまう。ここは立ち入り禁止の場所。しかし、今は授業中で回りには誰も居ない。

 「押すな!」とか「入るな!」のような、「〇〇してはいけない」といった指示の事を『否定命令ひていめいれい』と言う。人はそういった命令をされると、その"否定前"を想像し、命令に反した行動を取りたくなってしまうものなのだ。つまり人は、「入るな!」と言われると逆に入りたくなってしまうという心理学的特徴を持っているのである。実際、僕は今、この倉庫の中に入ってみたくてしょうがなかった。



「……よし」



 ゆっくりと深呼吸をして、覚悟を決める。そして僕は、身を屈めてロープをくぐり、倉庫の扉に手をかけた。


 扉のカギは壊れており、不用心にも、自由に開閉が出来る状態で放置されていた。倉庫の中は予想通り埃っぽくて、体育祭なんかに使われていたのであろうつなや大玉、廃棄前の机や椅子などが乱雑に置かれていた。

 入り口の扉のすり硝子ガラスからしか光の差さない暗い室内を、ゆっくりと足元を探るようにしながら進んでいく。途中、何度も転びそうになりながら、とにかく前へ、前へと足を進めていくと、さっきまで行動を共にしていたちびキャラが、積み重ねられたパイプ椅子の上でピョンッ、ピョンッと跳びはねているのが見えた。



「あ、お前こんな所に───」






 ───そう、その時僕は目の当たりにした。 それまでにもう、様々な不思議を目にしておきながら、そのどれにもまさる衝撃をこの瞬間に受けた事を、今でも覚えている。 





 忙しなくピョンピョンと跳ぶちびキャラの視線の先。


 ……部屋の端っこに置かれた小さな本棚のその上。そこに、まるで女神様のように綺麗な白髪の少女が座っていたのだ。





つづく


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