深層心理の精神騎(スピリット)

彁面ライターUFO

プロローグ『動き出した運命』


 心理学者になるのが、僕の夢だった。



 きっかけは、小さい頃に読んだ心理テストの本。小学生向けに作られた、お遊び程度の内容のものだ。でも、それを読み込んで、学校で友達に披露したら、ものの見事に的中した。

 「あなたが考えていた数字は……二十ですね!」とか、「あなたと相性の良い友達は、こんな人!」とか。占いじみた内容のものもあったけど、それでも、それを聞いた周りの子たちが、「すげー! 当たってる!」と喜んでくれるのが、たまらなく嬉しかった。



「そんなに心理テストとかが好きなら、将来は心理学者になってみたらどうだ?」


「……心理、学者?」



 食卓での、父の何気ない一言。それが、僕の人生を大きく変えた。”心理学者”……その言葉の響きが、たまらなくカッコよく感じたのだ。



 人の心は、複雑怪奇なもの。喜びも、怒りも、悲しみも、全ては人の心から生まれる。それが、人間関係を形成する要になることもあれば、人を苦しめてしまうこともある。

 もし、人の心についての知識で、人の役に立つことが出来たら……。心の問題を抱える人たちを救うことが出来たら、なんて素敵だろう。

 そうして僕は、心理学者になることを目指したのだ。



 努力の末、僕はなんと清森きよもり高校という学校へ進学することができた。

 ここは、数学や英語などに混じって「心理学講義」という科目が必修科目として組み込まれている、日本でも有数の高校。すなわち、心理学の最先端とも言うべき高校なのである。



 これでまた、夢に一歩近づける……!


 心理学の世界に大きく飛び込んだかのような気持ちで、僕はこれからの楽しい高校生活に期待を寄せていた。



 ────のだが。




 ***



「────じゃあ、本当に転校しちゃうのか?」


「うん……急な話でごめん。 お父さんの仕事の都合で、引っ越さなきゃいけなくなっちゃって。 ……短い間だったけと、ありがとね」



 ホームルームを終え、僕はクラスで出来た最初で最後の友人────眞鍋まなべ瑞人みずと君と、肩を並べて帰っていた。瑞人君は、幼児の心理研究を専攻し、僕と一緒に心理学を究めるために切磋琢磨してきた親友だ。……といっても、もうすぐお別れしちゃうことになるんだけど。



「まぁ、家庭の事情、って事なら仕方ないよな。 ……でも、心理学者になるって夢は、まだ諦めてないんだろ?」


「うん。 ひとまず、独学にはなるけど、勉強だけは続けようかなって」


「そっか……」


 沈んだ表情を見せる瑞人君。しかし、彼はすぐに首をブルブルッ! と振って、僕に笑顔を見せた。


「大丈夫だよ、学校が違ったって、俺らが友達であることには変わりない……だろ?

 何か困ったことがあったら、いつでも言えよ! 力になるから!」


 ……多分、強がりで言っているんだろうな、となんとなく分かった。瑞人くんは、人の気持ちに寄り添ってくれる人だ。だから、暗い顔はしちゃダメだ、と思ってくれたのだろう。


「瑞人君……ありがとう!」


 そう言って、グッと熱い握手を交わす僕たち。独学と、学校で教えてもらうのとは大きな差がある。きっと僕は瑞人君よりも心理学の知識で遅れをとることになるだろう。それでも、瑞人君は僕を助けてくれると言ってくれた。

 ……これは、自分も頑張らないとな。



 瑞人君と別れた後の帰り道で、色々考えた。たとえ普通の公立高校でも、必死に勉強すれば、心理学研究が盛んな大学に入れるかもしれない。やれることは、きっとまだあるはずだ。


 好奇心旺盛なところと、前向きなところ。それが、僕の長所だと思っている。

 だから、心理学者になる夢は諦めない。いつか、瑞人みずと君たちと同じステージに戻ってくるんだ! と、僕は決意を新たにするのだった。 

 

 



 ────とまぁここまでが、僕が葉後ようご高校に転校するに至るまでの経緯である。友達も彼女もいらない……ただ僕は、偉大な心理学者になるために、ひたすら勉強していられればそれでいい。そんな熱意にとらわれていた。



 しかし、この葉後ようご高校での生活は、僕にとって忘れられない……いや、忘れようにも忘れられない程、僕の人生を大きく左右するものになる。



 ────そう。この時の僕はまだ、あんな壮絶な運命に巻き込まれるだなんて……想像だにしていなかったのだ。


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