第4話 魅力3000倍だオラァ!!
「マスター……」
「大丈夫だ。安心しろ」
突如現れた兵士達に取り囲まれた俺は困惑しつつも、ピィを庇うように抱きしめる。
すると、兵士達の輪が一部開かれて……その奥から、馬に乗った一人の女性が現れた。
「なんだ……ただの一般人ではないか」
金髪碧眼。ドレスと鎧を合わせたような格好をした女は、これまたファンタジー名物の女騎士といった感じ。
この兵士達の上官のようで、一人だけ馬に乗っている事もそうだが……体から放つ雰囲気が偉そうなオーラたっぷりである。
「本当にここで、奴の反応が消失したのか?」
「ハッ! 間違いありません!」
「……そうか」
兵士と会話した女騎士さんが、こちらへ視線を落としてくる。
かなりの美人さんだけど、まるで蛆虫を見るような蔑む視線……怖い。
「お前達は近くの村の者か?」
「え、ええっと……」
「まぁなんでもいい。それよりも、この近くで……あの醜い化け物を見かけなかったか?」
自分で聞いておいてなんだそりゃ?
とは思いつつも、俺は正直に答える事にする。
「醜い化け物って……オークの事ですか?」
「ああ、そうだ。その名を口にするのもおぞましい……あの豚を始末する為に、我々はこの土地までやってきた」
「ああ、そういう事でしたか。あのオークなら、俺が倒しちゃいましたけど」
「は?」
俺が答えると、女騎士はポカンと驚いた表情をする。
それから少しの沈黙の後……大口を開いて笑い始めた。
「ハハハハハハハッ!! これは面白い冗談だ!」
「「「「「ハハハハハハハハッ!」」」」」
女騎士が笑うのと同時に、周囲の兵士達も一緒になって笑い始める。
それを見て、俺の腕の中のピィがムッと怒りの表情を浮かべた。
「笑わないでくださいっ! マスターは本当にオークを倒したんです!!」
「くくくっ……そうかそうか」
「本当です!! あちらに死体もあります!!」
「……なんだと?」
死体と聞いて、女騎士の顔から笑みが消える。
そして彼女はそのまま、ピィが指差した方角へ視線を向けた。
勿論そこには、俺がさっき倒したオークの死体(下半身)が残っている。
「おい、確認してこい」
「かしこまりました!」
女騎士からの指示を受けた兵士がオークの死体に近付いていく。
そしてそれを注意深く観察した後、戻ってきた兵士が報告する。
「間違いありません。例のオークの死体です」
「ほーら! マスターが倒したという証拠です!!」
ふふーんと、胸を張ってドヤ顔をするピィ。
しかし、女騎士は苦笑しながら首を横に振る。
「我々以外の何者かが豚を始末したのは認めよう。だがそれは、お前のマスターとやらである事は絶対にあり得ない」
「なっ!? どうしてそう言えるんですか!?」
「そこにいる男は【レベル0】ではないか。本当にオークを倒したのなら、最低でもレベル10には上がっているはずだ」
女騎士がそう言うのと同時に、ブゥンと俺の頭上に【レベル0】という表示が現れる。
「どうせ、通りがかりの冒険者が倒したのだろう。その死体を発見し、自分達が倒したとして報償を貰おうとでも考えたか?」
「ふ、ふざけ……!!」
トマトのように顔を真っ赤にしたピィが食ってかかろうとするが、俺はそんな彼女を羽交い締めにして止める。
「そんなつもりはありませんし、別に信じて貰えなくても構いません」
「……」
「もう行ってもいいですか?」
「……いいだろう。我もこれ以上、醜い者と会話を続けるつもりはないのでな」
俺の顔を一瞥し、視線を外しながら呟く女騎士。
「あ?」
その瞬間、世界が白黒へと変化していく。
「これは……メニュー画面の時間停止?」
驚いて視線を落とすと、ピィがとんでもない顔をしていた。
どうやらピィがカード状態じゃなくなった事で、メニュー画面は彼女の意思で開けるようになっているらしい。
「醜い……? このクソ女、私のマスターを醜いと言ったんですか? 私のマスターを私の大好きなマスターを私の大切なマスターを私のかけがえのないマスターを私の優しいマスターを私の事を愛してくださるマスターをマスターをマスターをマスターをマスターを……」
赤かったはずの瞳が、光を失った漆黒の色へと塗り潰されて……ピィはブツブツと何やら呪文のような言葉を呟き始める。
「ピ、ピィ?」
「マスター!!! 今すぐステータスを変更しましょう!!」
「え? ステータスって……」
「どうやらこの世界だとレベルは公開情報ですが、ステータスは見えないようです! だからそれを逆手に取って、ステの暴力でこのクソゴミカス女を分からせるんです!!」
俺の服をグイグイと引っ張りながら捲し立てるピィ。
「逆手に取るって、どのステに振るつもりなんだ?」
「魅力です!! 魅力のステータスにポイントを振れば、この女はマスターの事を醜いだなんて絶対に言えなくなります!!」
「え、でも……」
俺は正直、乗り気じゃなかった。
だって魅力にステを振ると、俺の容姿が変わったり、異性が近寄ってきたりする可能性があるわけで。
生まれつきのこの顔は気に入っているし、異性にモーションをかけられたりするのは童貞の俺には刺激が強すぎる。
「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」
「うっ、うぅぅぅ……だっでぇ……!」
じんわりと目に大粒の涙を溜めて、ピィが俺の胸に顔を埋めてくる。
そっか。それだけ悔しかったんだよな。
俺が魅力1のクソダサのせいで、一緒にいるピィにも嫌な思いをさせてしまった。
「……分かった。それじゃあ、魅力にポイントを振ってくれ」
「っ!? いいんですか!?」
「ああ。でも、やりすぎないように100くらい……」
「どうせなら3000くらいいっちゃいましょう!!」
「えっ」
「いいですよね? ね? ねぇ!?」
「……う、うぃっす」
『了解。SP配分の申請を承認。マスターのステータスを強化します』
またしてもポワーンと俺の体が光に包まれる。
顔が変形するかもと身構えたが、そういう事はないようで。
静止していた時が再び動き始め、世界に色が戻っていく。
「では、城にもど……」
女騎士は来た道を引き返そうと、乗っている馬の方向を変えようとする。
その際、視界の端にチラリと俺の体が映り……
「ん……? んんんんっ!?」
チラ、チラリ。
綺麗な二度見で俺の方を見てくる。
目を細め、それから腕でゴシゴシと両目を拭い……再び目を開く。
「……………………」
「カルチュア様?」
俺を見つめたまま動かくなかった女騎士の名を、近くの兵士が呼ぶ。
しかしカルチュアと呼ばれた女騎士は微動だにせず、俺を見つめ続けるだけ。
「……おい」
「はい?」
「貴様、名をなんという?」
「へ? 俺は……」
「マスター! 教えてやる必要なんてありませんよ!」
俺が答えるよりも先に、ピィが俺の腕にしがみついて遮ってくる。
それを受けて、カルチュアの部下達が一斉に怒りを見せた。
「無礼であるぞ! この御方はレストーヌ聖教国の第三……」
「やめぬか!!」
俺達にやりを向けようとした兵士達を一喝するカルチュア。
「「「「「!!」」」」」
兵士達が唖然としながらも動きを止めたのを見たカルチュアは、今度はコロッと表情を変えて……頬を赤らめながらモジモジと俺に話しかけてきた。
「わ、我が名はカルチュア・エルヌ・レストーヌ……貴様には覚えておいてほしい。そして我の顔を胸に刻みつけておいてほしいのだ」
「あ、はい」
「それと先程は、あの……違うのだ。言葉の綾というか、我の目が曇っていたというか……ああん!! 我のバカバカバカ!」
「「「「「カ、カルチュア様……!?」」」」」
ポカポカと自分の頭を叩き始めたカルチュアを見た兵士達に動揺が走る。
俺だってびっくりしたさ。誰だってそうなる。
「……また会おう。貴様の名は、その時に教えてくれ」
「はぁ……?」
「約束だ。守ってくれないと……我、悲しんじゃうからな!」
言うが早いか、カルチュアは馬に指示を出して駆けて行ってしまった。
「「「「「カルチュア様―!!」」」」」
その後を慌てて追いかける兵士達。
こうしてこの場にはポツンと、俺とピィだけが残される。
「フッ……勝ちましたね」
「勝利、なのかなぁ」
よく分からないが、ピィの気が済んだのなら良かった。
「とりあえず、近くの村を探そうか。しばらくの拠点にする場所を見付けないと」
「ええ、そうですね。では……」
ピィは俺の横に回ると、左手をギュッと握ってくる。
「……駄目ですか?」
「ううん。構わないよ」
「……えへへへ」
宿泊先を求めて、ピィと共に手を繋いで歩いて行く。
しかしこの時の俺達はまだ気付いていなかった。
ピィの為に割り振った【魅力】3000が……これから先、とんでもない騒動を巻き起こしていく事に。
<<安藤流斗>>
【レベル0】
【体力】3001
【力】1001
【技】1001
【速度】1001
【防御】3001
【魔力】1
【幸運】1000
【魅力】3001 ←NEW!!
【武器適正】
・剣 1(G)
・斧 1(G)
・槍 1(G)
・弓 1(G)
・杖 1(G)
【所持スキル】
・カード擬人化
(ポイントカードに肉体を与える事が出来る)
【残ステータス・スキルポイント】66999
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