第3話 ポイントカードはヒロインになれますか?

「なぁ……えっと、ポイントカードちゃん? と呼べばいいのかな?」


『私に名前などありません。マスターの好きなようにお呼びください』


「……それじゃあ、うーん」


 ちょっと聞きたい事があって話しかけたが、流石にポイントカードと呼び続けるのもどこか味気ない。

 カードに名前を付けるのも変な話だとは分かってはいるが……


「ピィ、とかでいいか? ポイントカードのPから取って!」


『……安直ですね。捻りもセンスもありません』


「うっ!?」


 そりゃあこの歳で女の子と付き合った経験も無いような童貞だもの。

 センスが無いのは重々承知しているさ。


『しかし……マスターが与えてくれた名前です。私は気に入りました。ぶっちゃけその名前以外は受け入れられません』


「あ、ありがとう」


 本心なのか、俺の事を気遣ってくれたのかは分からないけど。

 とりあえず認めて貰えた良かった。


「えっと、名前も決めたところで……ちょっと質問させて欲しいんだ」


『はい。なんでも聞いて下さい。マスターの為ならスリーサイズでもお応えします』


「……ちなみにスリーサイズは?」


『約5.4cm、8.6cm、0.1cmのナイスバディです。うっふーん』


 うん、それはそうだろう。

 というかカード界ではそれ、一般的なスリーサイズなんじゃないかなぁ。


「あー、本題なんだけど。このポイントって今すぐ使い切らないといけないのか?」


『いいえ。必要な分だけを使用して頂ければ問題ありません』


「了解。なら、最初は【体力】に3000P割り振るよ」


『懸命な判断です。【体力】は生き残る為に必要なステータスですからね』


「それから……【防御】にも3000Pを」


『……マスター。もしかしてビビってます?』


「い、いやいやいや! そんな事はないよ! ほら、俺ってまともに喧嘩した事すらないから、痛みに対する耐性が弱いと思うんだ」


『なるほど。それは盲点でした。流石は私のマスターです』


「それから……【力】【技】【速度】【幸運】に1000Pずつでいいか。これで、ええと」


『ちょうど1万Pとなりますね』


「よし、じゃあ今のところはそれでお願いするよ。今後何があるか分からないし、残ったポイントは慎重に使っていこう」


『はい。SP配分の申請を承認。マスターのステータスを強化します』


「お?」


 ピピピピピピピッと機械的な音が鳴るのと同時に、俺の体が光に包まれる。

 しかし特に、見た目に変化があったわけじゃない。

 てっきり筋肉がムキムキになったりするのかと思ったけど。


「うーん?」


 俺がしげしげと自分の両手を見つめていると、世界に色が戻る。

 どうやらステータスの割り振りが終わったので、メニュー画面が閉じられて時間の流れが元に戻ったのだろう。


「……って、あれ?」


 待てよ? 止まっていた時が再び流れ始めたという事は……


「フゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「うおわっ!?」


 そうだ。今俺はまさに、オークから攻撃を受けようとしていたんだった。

 やべぇ! 反応が遅れたせいで、俺の脳天に振り下ろされた斧が直撃……


「フゴォッ!?」


 した直後、ゴガギィーンッという金属音が鳴り響く。

 そして俺の頭上で、斧は粉々に砕け散ってしまった。


「……痛くない」


『それはそうでしょう。【防御】3001ですからね』


「じゃあ今度は……攻撃か」


 とりあえずこのオークとの戦闘で自分が死ぬ事はありえない。

 それが分かった俺は、ちょっといい気になって拳をボキボキと鳴らしてみる。

 気分はすっかり、世紀末暗殺神拳の使い手だ。


「フッ、フゴォ!!」


 しかし俺が近付くよりも先に、オークは背中を向けて逃げ出してしまった。

 どうやら武器が壊れた事で戦意喪失したようだ。


『マスター! 勝機です!』


「勝機と言われても、追いつける自信が無いけど……」


 ピィに急かされた俺は、オークを追いかける事に走り始める。

 一歩、二歩、三歩とステップを踏んでいくのと同時に……周囲の景色がまるで、車に乗っている時のように高速で後ろに流れていく。


「うおおおおっ!?」


「フゴゴゴッ!?」


 急ブレーキでズザァァァッと地面を抉りながら、俺は立ち止まる。

 そしてそんな俺の目の前には、さっき逃げ出したばかりのオーク。

 どうやらこの一瞬で、俺はオークに追いついてしまったようだ。


「ゴ、ゴォッ!?」


「とりゃあ!」


 追い付かれて慌てふためくオークの隙を見逃さず、俺は拳を振るう。

 ブヨブヨとしたオークのでっぱった腹部に右ストレート。

 ズムッと肉にめり込んでいく右腕……そして。


「ふごでぶぅーっ!?」


 パァンッとオークの体がまるで風船のように破裂する。 

 いや、上半身が消し飛んだと表現する方が正しいかもしれない。


「……うげぇっ」


 自分でやった事とはいえ、グロテスクな光景を眼の前で見せつけられた俺は一気に吐き気を催してしまう。

 しかしそこは気合で堪えて……俺はピィに訊ねる。


「ちょ、ちょっと強すぎない?」


『そうでしょうか? この世界にはまだ見ぬ強敵がたくさんいるかもしれませんよ』


「たしかに、オークってぶっちゃけ下から数えた方が早そうな魔物だもんな」


 今後はもっと強い魔物と出会う可能性もある。

 オークに圧勝したくらいで慢心していたら危ないな。


『ちょうどいいチュートリアル相手だったと思う事にしましょう』


「ああ、そうするよ。それとピィ……ありがとう」


『……はい? 何の感謝でしょうか?』


「何って、ピィが色々と教えてくれたから俺は助かったんじゃないか」


『私は当然の事をしただけです。私はマスターのお役に立つ為に生み出された存在なのですから……』


「うっ……ぐすっ……」


『おや、泣いておられるのですか? 私は何か、失礼な事を言ってしまったでしょうか』


「ずびっ……ち、違うんだ……俺、こんなに尽くしてくれる子に出会ったのが初めてで。両親も妹ばっかり可愛がって、俺の事なんていないものとして扱っていたから」


 いくらカードとはいえ、自分の為に尽くしてくれる存在というのは嬉しい。

 しかも可愛らしい女の子の声なのだから、その嬉しさは倍増だ。


『そうですか。もしも私がこんな姿でなければ、マスターの涙を拭いて差し上げたいのですが……』


「あははは、その気持ちだけで嬉しいよ」


『……』


 涙を拭いながら、俺は手の中のピィを撫でる。

 思えばこの子は十年前からずっと、俺の心の支えだったんだよなぁ。


「……ん?」


 ティロン。

 そんな音が鳴るのと同時に、俺の前にウィンドウが浮かび上がる。

 一体なんだと思いつつ、その内容に目を通すと――


【カード擬人化】(消費20000P)

・ポイントカードに肉体を与える事が出来る


「これは……」


『スキルヒントですね』


「スキルヒント?」


『はい。マスターが何らかの能力についてヒントを得た場合……その能力に応じた必要Pを払う事で習得が可能となるのです』


「ああ、今の話の流れでこのスキルが出てきたってわけか」


『そのようです。しかしこれは流石に消費が高すぎますね。20000Pも支払う価値は無いスキルだと断言できます』


「ピィ、このスキルを習得するよ」


『……えっ? 今、なんとおっしゃったのですか?』


「このスキルを習得したいんだ」


『な、なぁ……!?』


 俺が繰り返して言うと、ピィは困惑した声を出す。


『何を考えているんです? 私を擬人化させる為だけに20000Pも消費するんですか?』


「そうだけど」


『も、もしかして恋人をお求めですか? それなら【魅力】のステータスを上げるか、この世界でご活躍なさるべきです。そうすればハーレムだって夢じゃ……』


「そんなつもりじゃないよ」


『じゃあ、どうして?』


「俺にとってピィは大切な存在だから。一緒にこの世界を冒険出来たらいいなって」


『マスター……』


「それにピィは10年間も俺のポイントを守ってくれていたんだ。20000Pを受け取る資格はあるよ」


『……かしこまりました。スキル習得の要請を承認します』


 ピィがそう答えた瞬間、カード全体が真っ白に発光する。

 あまりの眩しさに俺が目を背けると、次第に光は弱まっていき……


「こちらを……見てくださいマスター」


「……おお」


 目を開くと手の中のカードは消えていて。

 その代わり、目の前に一人の少女が立っていた。


「へ、変じゃないでしょうか……?」


 歳は小学校の高学年……10歳前後くらいといった感じ。

 真っ白な長髪に赤いメッシュが入った髪型。

 身長や幼い顔立ちとは裏腹に、出るとこは出ている大人びたスタイル。

服装は比較的オーソドックスな冒険者服だ。


「変じゃないし、すごく可愛くてびっくり」


「……!! マスター!」


 不安げに俺の顔を覗き込んでいたピィであったが、俺がそう答えると満面の笑みを浮かべて俺の腰に抱きついてきた。


「ありがとうございます……! このご恩は決して忘れません……!」


 可愛い女の子に抱きつかれるなんて、元の世界の俺ならば失神KOしてもおかしくない状況ではあるが……ピィに対しては不思議とそんな感覚は無かった。

 異性というより、家族に近い感覚なのかもしれない。

 いやまぁ、本当の妹にはクソほど毛嫌いされていたんだけどさ……


「じゃあ改めて。これからよろしく」


「はい、マスター。一生お仕えさせて頂きます」


 俺に抱きついたまま顔を上げて、上目遣いに微笑むピィ。

 そのあまりの可愛さに、現代社会で荒んでいた俺の心がどんどん癒やされていく。


「(これはもう、頭を撫でてやりたいんですが! 構いませんね!!)」


 堪えきれず、イケメンだけに許された禁断の行為。

 頭ナデナデをしようと俺が腕を上げた……その時。


「貴様ら! そこを動くなっ!!」


「「えっ!?」」


「取り囲め!!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 突然、森の中から十数人もの人影が飛び出してきたかと思うと、俺とピィを取り囲む。

 しかもそいつらは全員、ゴツい甲冑と兜に身を包んでおり……手にした槍の切っ先をこちらに向けてきている。


「……おいおいおい」


 オークの次は兵士との戦闘になるのか?



※ステータスが更新されました


<<安藤流斗>>

【レベル0】

【体力】3001

【力】1001

【技】1001

【速度】1001

【防御】3001

【魔力】1

【幸運】1001

【魅力】1

【武器適正】

・剣 1(G)

・斧 1(G)

・槍 1(G)

・弓 1(G)

・杖 1(G)

【所持スキル】

・カード擬人化

(ポイントカードに肉体を与える事が出来る)

【残ステータス・スキルポイント】69999

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