第9話 あの、、

さて、食事は終わったが、、。

 


普通なら一息つかずにさっさと会計を済ませるのが俺の中の当たり前であるが、なんと言ってもここはカフェだ。牛丼チェーンとは違って、基本時間に追われている人たちが来るような店ではない。よって多少の長居は覚悟する必要がある。



俺はコップの中のコーヒーを空にすると、満腹感からずっとあった緊張感のようなものが薄れて、眠くなってきた。



店内を見回してみると、至る所に装飾が施されている。造りこそあまり新しくないが、これもまた味を出しているのかもしれない。



世の女の子はこう言う場所に来て、写真をパシャパシャ撮るのであろう。SNS上に溢れ出ているオシャレなカフェの画像はどこから来ているのか、ここに来てわかった気がする。



「行きましょうか」



如月さんが言った。俺は「はい」と返す。俺はてっきり彼女が長居するつもりだと思っていたので、意外だ。



俺は如月さんが上着を着るのを待ってから、立ち上がってレジに向かう。



店員さんに伝票を渡すと、「3960円です」と言った。



よくわからないが、お会計はどうすれば、、こういうのは相手の分も出すのが普通なのか?



俺は満腹感からか値段も気にならなくなってきたので、千円札を4枚トレイに置いた。



「4000円、お預かりします」



店員さんがそういうと、レシートとお釣りの40円を俺の手の平の上に置いた。



そのまま外に出ると、温度の違いに思わず身震いする。



「新谷さん、さっきの」



如月さんはそう言うと、財布から2000円を取り出して、俺に渡そうとしてきた。



「い、いや、大丈夫です。僕が出します」



俺はそう言ったが、如月さんは、「いや、ダメです」と言って俺の手を取って2000円札を握らせた。



如月さんの暖かい手が触れ、俺は少々ドキッとした。



「じゃ、じゃあ、受け取ります。ありがとうございます」



彼女はなかなか折れなさそうなので、俺の方から折れることにした。



先ほどの行列もほとんど無くなっていたが、いまだに二、三組が順番を待っている。



そんな人たちを横目に、駅まで歩き始める。



ホテルから出た時は凍るような寒さであったが、今は陽射しが出ているからか、放射熱で少しマシな温度になっている。



今日は土曜日であるが、帽子をかぶり、ランドセルを背負った小学生の集団と何度もすれ違う。



それにしてもこの道路、歩道が本当に狭く、ほとんど無いみたいなものだ、こんな道が通学路とは、危なっかしい。



狭いだけならいいが、そばを通る車が全体的にスピードが速めだ。まるで轢いてしまうんじゃないかと思うくらいだ。



俺の右隣を歩く如月さんの右手に持っているバックが、後ろから来る車に巻き込まれないか、心配になったので、俺が右に回り込む。



如月さんはびっくりした顔をしたが、すぐに、



「ありがとうございます」



と言った。俺は「いえ」と返す。



やっぱり少し怖いな、と思っていたのかもしれない。



俺は如月さんと出会って初めて、彼女に対してアクションを起こすことに成功した自分を誇った。




『南北線 笠間本町駅』と書かれた看板が見えてきた。



改札を抜け、ホームに入る。



目の前に電車が止まっている。どうやら家の最寄りの本郷まで行ける電車みたいだ。



朝のラッシュを終えたぐらいの時間帯なので、車内はガラ空きである。お気に入りの角の席を見つけることができた。



「こっちどうぞ」



俺は如月さんに角の席に座るように促すと、如月さんは「ありがとうございます」と言って座った。俺はその隣に座った。



椅子の下に内蔵されているヒーターから出る温風が、足元にダイレクトヒットしている。満腹で既に眠くなっているので、すぐにでも眠ってしまいそうだ。



如月さんも眠そうな目をしながら、窓の外の景色を見つめている。



ドアが閉まり、電車が動き出す。窓から見える家の高さが段々と高くなっていくにつれて、都会に近づいていることがわかる。



車内へ入ってくる人数も増えていき、席が埋まり、立っている人たちも見え始めた。



「新谷さんはクリスマスの予定はありますか?」



ずっと静かだった如月さんが口を開いた。



こ、これは、どういうことだ。本当にわからない。ただ話をしたいだけなのか、それとも誘っているのか。



「いや、何もありません」



俺は言った。



如月さんはしばらく黙っていたが、



「あの、、」



と言った。



この流れからして、「この後予定なかったら、どこか行きませんか?」とでも言うのかな?



今までの如月さんの「あの、、」は全て何か誘う前のフレーズだった。なので今回も何か誘われるに違いない。



「は、はい?」



俺は期待してドキドキしながら答えた。




























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