第6話 騒々しい朝
目が覚める。
天井を見つめて、いつもと違う景色であることに一瞬違和感があったが、すぐに今の状況を理解した。
横を見てみると、暗くてよく見えないが、人間の背中のようなものが見える。如月さんだ。どうやらまだ寝ているようだ。
暗闇の中、ベットサイドテーブルに置いてある携帯を手探りで探し当て、電源をつけると、時刻は5時55分を指していた。
携帯を照明代わりに片手に持ち、そっとベットから離脱する。
カーテンを少しだけ開けて外を見てみると、まだ太陽は出ていない。
早起きすぎた、、かな。
元々そんなに寝起きは良くなく、アラームの爆音で目が覚めるのが日常であるが、今日は鳴る前に起きてしまった。原因はなんだろう。いつもとの環境の違いか。
今日は土曜日、仕事は休みだ、如月さんも昨日の晩酌の時、明日は休みだと言っていた気がする。
問題はここからどうするか、だ。
昨日は疲れからか特に後のことは何も考えずに如月さんについてきて、そのまま寝てしまった。冷静に考えて、恋人でもなんでもない人と一緒に寝たというのは俺にとっては大事件だ。
とりあえず、このなんとも言えない状況から脱したいが、、。
ホテルなんぞ自分1人で泊まることがほとんどである、なので自分以外の人といる時の勝手がわからない。
自分で予約を取っていれば、さっさと荷物をまとめて帰りたいのだが、今回は如月さんが予約担当である。そのため支払いをするのは如月さんであろう。
まあ別に、支払いのタイミングまで居る必要はないし、宿泊代と昨日のお酒代をテーブルの上に置いて、書き置きでも残して帰ろうか。
俺はそう決意し、館内着から、クローゼットにかけておいた昨日着たシワシワのシャツに袖を通し、ズボンを履く。
洗面所の水道を捻り、痛いくらいの温度の水を顔にジャブジャブかける。
その温度に膀胱が刺激されてしまったので、トイレに入る。
便座に座り、持っていた携帯で、帰りの電車を調べようとすると、急に「ジリリリリリリ…」と大きな音を出した。
俺をびっくりして、手から携帯を落としてしまった。デカイ音が鳴り続ける。
急いで拾い上げて止めると、時刻は6時ちょうどになっていた。
爆音の犯人は昨日の夜に自分で設定したアラームだ。
如月さん、起きちゃったかな?
相当デカイ音が鳴っていた。しかしトイレの扉に遮られているので、実際はどの程度如月さんに聞こえているかは分からない。
と、とりあえず出よう。
ドアを開けて、携帯で足元を照らしながら荷物が置いてあるベット横に向かう。
すると、
ゴツン。
と頭に何か硬いものが当たったような衝撃があった。
痛い。思わず手で頭を抑える。
顔を上げてみると、如月さんがいた。どうやらぶつかってしまったようだ。彼女も俺と同じく頭を押さえている。
「あ、、すみません、、大丈夫っすか?」
俺が言うと、如月さんは手をあげて「大丈夫です」と言った。
「なんか、火事のベルみたいなすごい音がしたので、思わず飛び起きて見に来てしまったんですが…」
如月さんが言った。
言われてみれば、俺のアラームは火事のベルのような感じがする。俺はすぐ起きれるので気に入っていたが、初めての人には少々刺激が強すぎたようだ。
「いや、すいません、これ携帯のアラームなんです、お騒がせしてすいません」
俺が言うと、如月さんは少し驚いた顔したが、「なるほど」と言って、トイレに入っていった。
完全に帰るタイミングを逃してしまった俺は、とりあえず落ち着こうと椅子に座った。
昨日出会ったばかりでたまたま一緒に泊まることになった男に朝の6時から火事のベルに見せかけたアラームで起こされる如月さんの気持ちはどんなであろう。完全に変人だと思われているだろう。
トイレから如月さんが出てきて、部屋の電気をつける。
すると、俺のスーツ姿を舐め回すようにして、
「あれ、新谷さん、今日お仕事でしたか?」
と言った。
「いや、休みです」
俺が言った。
「ど、どうしてもう着替えてらっしゃるんですか?」
如月さんが言った。
あなたが寝てるうちに帰りたかった、と言える勇気も当然なく、
「さ、寒かったので」
と適当な言い訳をした。
如月さんは、不思議そう顔をしつつも頷いた。
少し立っていたが、如月さんはテレビの電源をつけると、ベットに座った。
真っ暗な画面は、音と共に天気地図に変わった。
「本日の天気ですが、朝からとても冷え込むので、お出かけの際はしっかりと防寒しましょう、一日中雲がない快晴ですので、雨の心配はありません。最高気温は9℃、最低気温は氷点下2℃です」
いつも仕事に行く前に見ているテレビ、『モーニングタイムズ』のお天気お姉さんが言った。
画面が変わり、お天気お姉さんが引っ込むと、小太りの男が映った。
「続いては、天野のキニナルのコーナーです」
これも『モーニングタイムズ』の名物コーナーであり、レギュラーコメンテーターの天野という芸人が今話題のスポットを取材するというコーナーである。
「本日はここ、南北線の端、笠間本町駅から徒歩5分…」
俺は聞いたことある名前に思わず反応する。如月さんも食い入るように見ている。
「行列のできるパン屋さん、ラヴーレの紹介です、ここの名物はなんと言っても、このクリームパンです。他のパンと違って、モチモチな生地が特徴です」
「美味しそ〜」
テレビを見ている如月さんが目をキラキラさせながら言った。
確かに美味しそうだ、そういえば昨日の昼飯以降、何も口に入れていない。晩酌のおつまみも如月さんが全部食べていた。
天野のキニナルが終わり、CMに入る。
「あの…」
しばらくCMを見ながらぼーっとしていた如月さんが言った。
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