第5話 小さな宴会

部屋は普通のビジネスホテルの部屋である。



如月さんはテーブルに先ほど買ったコンビニの袋を置いて、「ふう」と言ってベットに腰掛けた。



俺は窓際の椅子に腰掛ける。



部屋の薄暗い照明と、外との温度差が、俺の眠気を誘う。今寝ろと言われたら3秒以内に寝れる自信がある。



「良かったらなんですが、少し宴会でもしませんか? さっきお酒買ってきたんです」



小休止を終えた如月さんが言った。



本音を言うと如月さんをどかしてそのベットで大の字になって眠りたいくらいだが、そんなことを言う勇気もない。



「し、しましょう」



と、俺が言うと、如月さんはテーブルの上に置いてある袋から、缶ビールを取り出して、棚に置いてあるグラスに注いで、俺に渡してくれた。



「ありがとうございます」



と俺が言うと、如月さんは「いえいえ」と笑顔で答えた。



如月さんは自分の分も注ぐと、俺の向かい側の席に腰掛けた。



「乾杯」



如月さんがグラスを持ち上げてこちら側に寄せてきたので、俺もグラスを合わせた。



「ごめんなさい、私、アルコール入らないと眠れないんです」



如月さんは照れ笑いしながら言った。そう言いながらもうグラスを半分以上あけている。



俺は酒はめっぽう弱い方で、ビール1缶で顔でも真っ赤になってしまう。そのためちびちび飲む。



「新谷さんは、歳はいくつですか?」



如月さんが聞いてきた。



「25歳です」



俺がそう言うと、如月さんが「同い年だ」と言って喜んだ顔をした。



「会社はどこら辺ですか?」



如月さんが聞いてきた。



「南原です」



と答えると、また如月さんが「わあ、同じです」と言って驚いた顔をした。



「普段はどんなことをして過ごしているんですか?」



如月さんがまた聞いてきた。



「体動かすのが好きなので、ジム行ったり、ランニング行ったりとかしてます」



俺がそう言うと如月さんがへえ〜と言う顔をしている。



さっきから如月さんが質問してばかりだ、俺も何か質問しないと。



「如月さんは、普段はどんなことしているんですか?」



俺が聞いた。すると、彼女は食べているおつまみを急いで飲み込むと、



「私は、見ての通りお酒が好きなので、友達と飲み歩いたり、あとはテーマパークに行ったりとか、基本アウトドアが好きですね」



如月さんがそう言うと、俺はうんうんと頷いた。



その後もお互いの趣味を深掘りしたり、仕事の愚痴を言い合ったりした。6缶あったビールもほとんど如月さんが飲み干して、俺は最初に注いでもらった分しか飲めなかった。



そのため如月さんはだいぶ酔いが回ってそうで、眠そうな顔をしている。



「そ、そろそろ終わりにしますか」



俺がそう言うと、如月さんは頷く。しかし頷くだけで全く動かない。



もう立ち上がれないぐらい酔っているのだろう、こういう時は俺が運んでやるのが優しさというものであろうか。



しかしそう簡単にそんな恋人っぽく触れていいのであろうか。



しかし彼女はこのままでは一生椅子の上でフラフラして夜を明かす気がする。



よし、行くぞ、このくらいはやってやる。



そう思い、俺は彼女の目の前に屈む。すると待っていたかのように、如月さんが俺の胸に倒れ込んできた。



俺は如月さんの両脇を支えるようにして立ち上がる。思ったより重い。



そのままベットにそっと身体を乗せ、枕を頭の下に差し込んだ。



如月さんはベットに乗るや否やすぐスヤスヤと眠ってしまった。



寝てくれた。とりあえず一安心だ。



俺はテーブルの上をさっと片付け、歯磨きをして、寝支度を済ませた。



ここで『寝床どうするか問題』に直面する。



ベットは一つであるが、キングサイズなので、大の大人が2人はなれるような大きさである。



しかし如月さんの恋人でもなんでもない俺は、当然のように如月さんの隣で寝るわけにはいかない。



と、なると、座って寝るしかないか。



俺は廊下の棚にある、予備の毛布を引っ張り出して、椅子に座って自分の膝にかけた。



目を閉じるが、なかなか眠くならない。普段このような体勢で寝てないので慣れていないからであろう。



自分に寝ろと自己暗示するも、やはりどうしても眠れない。



ベットで眠りたい。



確かにスペースは空いている。問題は恋人でもなんでもない人が、馴れ馴れしく同じベットで寝ていいのであろうかと言う問題だ。



別に確証があるわけでもないが、彼女はあの感じだとしばらく起きないであろう。彼女が起きる前に起きてしまえば、彼女にバレることなくベットで眠ることができる。



もしバレても、今日話した感じ、本当に優しそうな女性だから、怒ったりしないであろう。大丈夫だ。



そう自分に言い聞かせると、俺は膝にかけている毛布を剥ぎ、端にそっと、振動が伝わらないようにベッドに入る。



彼女が何時に起きるかわからないので、先に起きれるかどうかはわからないが、アルコールの入り具合からそんなに早起きはできないだろうと勝手に予想し、俺はアラームを6時にセットする。デカイ音が鳴るといけないので、携帯をイヤホンに繋ぎ、耳に突っ込む。そして目を閉じると、すぐに眠ってしまった。

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