第4話 彼女の名前は如月さん
「ふ、2人で泊まるのはどうでしょう? もう夜も遅いですし、探しても空いているか分からないですし、、その、」
女性が言った。
「え…、いや、そんな、、」
俺はまさかの提案に驚きはしたが、正直その通りだと思った。見た感じ周りは田舎だ、そんなにすぐ泊まれるところがあるとは思わない。
しかしたった今知り合った(?)人、そして女性と同じ部屋で過ごす。俺にはハードルが高すぎる気がする。
俺は言葉に詰まるが、彼女の顔をチラッと見てみると、困ったそうな顔をしている。きっと他の宿を探すとはいいつつも、多少はめんどくさいぐらい思っているのだろう、そういう顔をしているようにも思える。
「わ、わかりました、行きましょう」
疲れがどっと出て、もはや新たな提案を生み出す気力も無くなってきた俺は、折れて彼女の提案を受け入れることにした。
待合室を出て、改札を抜ける。駅前には数台のタクシーが停まっている程度で、閑散としている。
地図アプリを見ながら案内してくれる彼女に着いていく。周りを見渡しても、高い建造物があるのは駅前のみであり、駅前を抜けると古びた一軒家が並んでいて、街灯もところどころ消えている。
道なりを歩いていると、『ホテル JAMES《じゃめす》』の看板が見えてきた。目的地到着だ。
ホテルの手前にコンビニがあり、地元のヤンキーっぽい人が3、4人喫煙所でオラついている。
「申し訳ないですが、少しコンビニで買い物してもいいでしょうか?」
彼女がコンビニを指さしながら言った。俺は頷く。
彼女がコンビニに吸い込まれていくのを、喫煙所にいるヤンキーがジロジロと見ている。
俺はコンビニのゴミ箱の隣に置いてあるベンチに腰をかけた。
それにしても、さっき知り合ったばかりの人、しかも女性と同じ部屋に泊まるなんて、初めての経験だ。大丈夫であろうか。
こんな時、モテる男ならなんの心配もせず、うまくやり過ごせるのであろう。大学の時も常に女と遊んでいる奴がいた。羨ましいとは思わなかった、それくらい部活とバイトだけで充実していていたのであろう。恋愛関係は特に音沙汰無く俺の大学生活は終わってしまった。
女友達はいた、でも授業やゼミ関係の事務的な会話をするだけの関係に過ぎなかった。
ちゃんと彼女とか作っておけばよかったなあ、と思うことはあるが、思うだけで結局行動しない。
俺が小さなため息をついた時、コンビニのドアが開いて、両手に袋を持った彼女が出てきた。
「お待たせしました、行きましょう」
彼女が言った。
「はい」
俺たちはまた歩き出す。
ホテルの目の前に着いた。そこそこ新しめである。回転扉を抜け、受付まで歩く。彼女が受付の女性に話しかける。
「すみません、先程電話した、
彼女が言った。どうやらこの子の苗字は如月というらしい、もう出会って4時間くらい経つが、ようやく彼女の個人情報が1つわかった。
「あ、如月様、お待ちしておりました、当店をご利用されるのは、初めてということですよね?」
受付の女性が聞き返す。如月さんは「はい」と答える。
「そちらですと、お客様情報の登録が必要ですので、こちらにお名前と電話番号の記載をお願いします、あ、お連れ様もお願いします」
受付の女性が紙をひらひらさせながら言った。
「は、はい」
俺は渡された紙にせっせと個人情報を書き込んだ。
如月さんも書き終わったみたいで、2人同時に受付の女性に渡す。
「ありがとうございます、それでは、お部屋の方、5階の502号室となっております、何かありましたら内線にてフロントにお電話くださいませ、ごゆっくりどうぞ」
如月さんが鍵を受け取ると、エレベータホールに向かい、エレベーターを待つ。
ホテル内は深夜のためほとんど人影がなく、館内BGMがうっすらと聞こえるぐらいで、閑散としている。
如月さんは携帯をいじっている。ちょうど彼女の斜め後ろにいる俺は内容が見えてしまう。どうやらメールを打っている。
エレベーターが迎えにきた。
ここまで着いてきているだけで申し訳ないと思い、俺は如月さんより先に入って、「5」と書かれたボタンを押す。
「ありがとうございます」
如月さんが言った。俺は「いえ」と言った。
ドアが閉まると、如月さんは携帯をポケットにしまって口を開いた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね、私、
如月さんが軽く頭を下げて言った。
「
俺も頭を下げて言った。
「「5階でございます」」
アナウンスと同時にドアが開く。
エレベーターホールを抜けて右に曲がるとすぐに長い廊下がある。502号室は手前から2番目の部屋だ。
如月さんが部屋の鍵を開け、玄関の電気をつける。
靴を脱ぎ、部屋の奥まで入っていく。
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