第3話 終電終了、宿探し

女性が言った。マフラーで口元が隠れているから顔は良く見えないが、かなり可愛い顔をしている。



「はい、?」



俺は言った。



「もしかして、私が終点まで連れてきてしまった感じでしょうか?」



連れてきた、、?



何を言っているんだ、と思ったが、私のせいで降り損ねた、と言う意味だとすぐに理解した。



「いや、、まあ、、でも寝れたので大丈夫です」



「本当ですか?」



彼女は心配そうにこちらを見て言うので、俺は頷く。



というより、今何時だ?



腕時計を見る。10時10分。



会社を出て電車に乗ったのは、7時過ぎだ、3時間以上乗っている計算になる。会社の最寄りから自宅の最寄りである本郷ほんごうまでは1時間ほどだ、と言うことは引き算をして、単純計算でここから本郷までは2時間かかる。



窓越しに電光掲示板を確認する、『各駅停車 真品町しんしなまち行き 10時30分』



真品町というのは、本郷より笠間本町側の駅である、後の電車も全て真品町行きであり、最寄りを通る電車はない。



あの時起こしておけば、という後悔は全くない、どうせ無理だ、俺は女の子に触れることに対するハードルが他の人の何倍も何倍も高いのだ。



とりあえず、この女性の快適な睡眠をサポートできたと言う達成感に浸ろう。



「あの、、この後、どうしますか?」



女性が言った。



どうする?? と言われても、俺はこの早く疲れ切った体を癒したいと言うのが本音だ。



「とりあえず、泊まるところ探そうと思ってます」



「そうですよね、私も、探します」



と女性は言うと、自分の携帯と睨めっこを始めた。



俺も、携帯を取り出して、『笠間本町 ホテル』と検索ボックスに打ち込む。



何個か出てきた。とりあえず一番上に出てきた『ホテルグランドマスター 笠間本町』について調べる。



ホームページに移動すると、元々書いてある記事を隠すように、でかでかと、



「「改修工事の為、しばらくの間休業させていただきます」」



と、書かれている。



一度、検索画面に戻り、2番目に出てきたホテルのページを開く。



「「404 not found」」



これも不発である。よく見かけるヤツだ。



もう一度、検索画面に戻り、3番目のホテルを開く、どうやらそれ以降は駅からかなり遠めのホテルである。



どうやら営業しているみたいだ、21時以降は電話予約のみだと書いてある。とりあえず、この情報を伝えたほうがいいよな。



「あの」

「あの」



「あっ」

「あっ」



奇跡的にシンクロした。しかも2連続。



「あ、先どうぞ、、」



俺は彼女の顔を見ながら手をクイッとやって促した。



「いやいや、そちらが先にどうぞ」



彼女も負けじと返す。日本人の伝統芸能『譲り合い』が発動している。



ここで譲り返すと埒があかないと思ったので、俺が先に喋り始める。



「あの、泊まるところなんですけど、調べたら駅近だと一個しかなくて、部屋空いているか聞いてみますね」



俺が言い終わると、彼女は待っていたかのように話した。



「えっと、さっきそこ電話してみたんですが、空き部屋が一つしか無いみたいで、そこ使ってください。私は他の宿を探します」



彼女はそう言うと、手でグットマークを作った。



いつの間に電話していたのか。



いや、そんなことはどうでもいい、とにかく、こんな寒空の中、女の子を1人でホテル探しの旅をさせる訳にはいかない。



「いや、僕が他を探します、見つけたのはあなたなので、あなたが使ってくださって結構です」



「いやいや、私のせいでここまで来てしまったのは事実です、何か少しお役に立たせてください」



この女性は一歩も引く気がない。



でもここで「2人で泊まりましょう」などと言えるのか、女の子とまともに会話すらできない俺が一夜を共にするなんて、できるのか。



なんて悩んでいた時、彼女が口を開いた。

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