第2話 終点到着、そして

お、やっと起きるか?



と思ったが、声を出しただけで、体は微動だにしない。



何もできず、ただ時間だけが過ぎる。



車内案内板に表示されている電車の現在位置が、段々と終点の駅に近づいていく。



『次は、笠間本町、笠間本町、終点です、本日は南北線をご利用くださいまして…』



次は終点らしいが、未だに俺の肩にすっぽりと収まっている。



電車が笠間本町のホームに入っていく。南原なんばるであれだけいた乗客もすっかりいなくなり、同じ車両には中年のサラリーマンと少々肥満気味の女性が居るだけだ。



電車が止まり、ドアが開く。



サラリーマンと肥満女性は颯爽と出ていき、電車内にはとうとう俺とこの俺の肩に収まっている女性の2人になってしまった。



車内に流れる沈黙。俺の肩に収まっている女性のスヤスヤという寝息が聞こえるくらいだ。



さて、ここから先は電車は進まない。どうするか。



この状況を打開するために考えられる策は3つ。



1つ目は、素早く立ち上がって全速力で走る。しかしこれだと、俺がいなくなった途端支えるものが無くなって、この女性が頭をぶつけてしまいかねない大変危険な方法だ。



2つ目は、そっと立ち上がり、彼女を俺が座っている席に移して、体勢を安定させてから、颯爽と逃げる。しかしこれは見知らぬ女性に対してのボディタッチが必要な上、移動させる時に起きてしまう可能性が大である。



3つ目は、この女性が起きるまで待つである。しかしこの方法はかなり無謀である、彼女がいつ起きるかわからない。



悩んでいるところ、足音が聞こえてきた、どうやら見回りの乗務員が来たようだ。こちらに気付いて近づいてくる。



「お客さま、終点ですが、どうかされましたか?」



乗務員が何か不思議なものを見ているような目で見てくる。



「いや、あの…」



女性が寝ていて降りることができません、と正直に言うべきか、いやでもこの女性のせいになってしまうのは可哀想だ。



俺が明らかに困っていそうな顔をしていると、



「お客さま、終点でございます」



と、乗務員が女性の肩を優しく叩いた。



「んん、はい、、あ…」



女性が声を出すと同時に、俺の肩から外れた。そしてこちらを見る。



「いや、、あ、すいません、ごめんなさい、私…」



そう言いながら、恥ずかしそうに顔を背けた。



「あ、大丈夫っすよ、気にしないでください、とりあえず、外出ましょうか」



「あ、はい」



俺は女性と一緒に外に出た。と同時にドアが閉まり、電車は車庫に向かって発車した。



目の前に待合室があったので、中に入って座った。



女性もついてきて、俺の座った席の隣の隣に座った。



上着のポケットから携帯を取り出す。



位置情報を確認すると、笠間本町駅と書かれた場所と自分の位置が重なって表示されている。



南北線は毎日使っているが、端まで来たことなど一回もない。この笠間本町は名前だけ知るばかりで何県の何市の何処にあるのかもわからない。



「あの、、」







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