電車で隣の女子に肩に寄りかかられたから起きるまで待ってたら俺の妻になりました。
にゃんちら
第1話 クリスマス・イブのお導き
「お疲れ様です。お先失礼します」
広いオフィス内で、唯一残っている課長の
上司より先に帰る部下はどうなのかと世間では言われがちではあるが、うちの会社はいい意味でそのような考え方はない。
エレベーターで一階に降り、警備員に入館証を返し、建物の外に出ると、ザ・冬将軍と言わんばかりの風が頬に刺さって痛い。
今日は12月の24日。世間一般的にはクリスマスイブというらしく、カップルが道を埋め尽くしている。
特に目当てもなく、「クリスマスだからデートをしなければならない」という見えない法律のようなものに縛られて、人々は街に駆り出される。
デート相手もいない俺はそんな法律は知ったこっちゃ無い。現実から目を背けるように、早歩きで駅を目指す。
こんなクソ寒い上に、席まで取られてたまるかよ。
会社の最寄りから自宅の最寄りまで電車で1時間かかる。しかも乗換なしであるので、席を逃したら1時間立ちっぱなしである。
駅に着き、改札を抜けると、俺の予想通り、前や電車が出発した直後で、ちょうど待っている人が捌けた後であった。
無事、先頭を取り、ひたすら電車を待つ。
『お待たせ致しました。一番ホーム、急行
電車がホームに入ってくる。ものすごい人数が乗っているのが外から見てもわかる。
しかし今俺がいる
車内の人の入れ替えに伴い発生する、一瞬の隙をついて、座席を取りに行く。
ドアが開いた。車内から大量の人が吐き出される。
全員降りた。今だ。
ドア横の角の席が空いていて、無事に席を取ることができた。ここは電車通勤勢にとってはVIP席である、なんと言っても片方が壁なので、安心して寄りかかって眠ることができる。
俺を筆頭にして、後ろに並んでいた人たちもこの席取り合戦に参戦し、ものの5秒で全ての席が埋まってしまった。
席をとってしまえば、あとは耳に突っ込んでいるイヤホンから流れてくるジャズピアノを聴きながら、最寄り駅まで睡眠をするだけである。
席を取れた安堵感と仕事終わりの疲労感が混ざって、すぐに眠りについてしまった。
★★★★★★★★★★
「次は、本郷、本郷です」
聞き慣れた駅名が聞こえてくる。
電車は寝過ごしがちという風に聞いたことがあるが、俺は人生で一回もない。最寄り駅が近づくと、なぜかすぐ目が覚める。一刻も早く家に帰りたいという潜在意識から来ているのであろうか。
乗車した時にはあれほどたくさんいた人も、今はもう席がぼちぼち空くくらいまでになっている。
あとは降りるだけ、と思ったが、先ほどから気になっていることが一つある。
右隣に座っている女性の頭が、すっぽりと俺の肩にフィットしているのだ。
まあ、駅に着いたら起きるだろう。大丈夫だ。
電車が本郷のホームに入っていき、止まる。ドアが開き、中に数人入ってくる。
しかし、全く起きる気配がない。前にもこのようなことはあったが、駅に着く時の電車のブレーキによる軽い衝撃で、大体は起きる。
こういう時はどうすればいいのだろうか、強引に起こすべきか、それとも自然な起床を待つべきか。
悩んでる間も時間は過ぎていき、無情にもドアは閉まってしまった。
電車が動き出す。すると、女の子は「んんー」とわりかし大きめな声を出した。
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