心を一つに
魔王が笑い、バイオレットを握る強さを強める。
みし、みしみし、と音が鳴る。
スーツの耐久限界が、スーツ越しの肉体限界が迫っている。
「フ、フフフ、フ。終わりよ。さようなら、ファンタスティックバイオレット」
「俺は……信じてる……」
「何を?」
「仲間を……絆を……そして……『戦隊』を……!」
「はぁ?」
「戦隊は、無敵でも、不敗でもない……いつも、何人も、倒されてから、本番が始まる……! 何人倒されても……何人追い込まれても……無事だった奴が、仲間を助け、最後には勝つ……俺達はっ……戦隊だっ……!」
「あっ、そ。じゃ、そのへん盲信しながら死んで行きなさい。フ、フフフ、フ」
ファンタスティックバイオレットは死なない。
彼は死なない。
だって。
彼の言っていることは、正しいんだから。
「!?」
青い新幹線が、空に引かれた光のレールを通って、魔王テルーテーンに衝突した。
混乱するテルーテーンを、空中でUターンしてきた青い新幹線がまた跳ね飛ばす。
跳ね飛ばされたテルーテーンが尻もちをついて、街が揺れた。
「ぐっ、あっ、なっ、何事!?」
倒れたテルーテーンの腕、バイオレットを握っている方の腕に、赤い恐竜が獰猛に激しく噛み付いた。
噛みつき、振り回す。
噛まれた痛みと振り回す力で、魔王はバイオレットを離してしまい、バイオレットが宙を舞った。
「フ、フフフ、フ……なにこれぇ!?」
宙を舞うバイオレットを、紫の戦闘機が丁寧に弾かないように拾い、彼を乗せたまま空中でぴたりと静止する。
「な……なんだ……誰が、乗って……」
『しっかりしろ相棒! お前も乗り込め!』
「あ……ああ。俺のロボに……ゴウカのロボと、ソウカイのロボ……!?」
赤の恐竜。
青の新幹線。
紫の戦闘機。
バイオレットは戦闘機に乗り込み、懐かしい機内風景に心安らげつつ、他の二体、新幹線と恐竜の内部へと通信を繋げた。
すると。
聞き覚えのある声が二つ、バイオレットの耳に届く。
「武芸百般を舐めるなぁぁぁ! あたしに使えない武装あったら祖先への恥だわ!」
「なんかおにーちゃんの技能大体見切ってたから難しかったけど使えた!」
『セレナ!? イリス!? 無法すぎんだろ!?!?』
バイオレットの笑い声が。
そりゃもう、愉快そうな笑い声が。
機内に響いて、少女二人も通信が繋がったことを理解した。
夕焼の恐竜、ファンタスティレックス。
其は天空が生み出した赤き幻想。
搭乗者はファンタスティックレッドから、白地に赤線のローブを纏うイリスへ。
青空の新幹線、ファンタスティトレイン。
其は天空が生み出した青き幻想。
搭乗者はファンタスティックブルーから、青き髪の女騎士、セレナへ。
嵐雲の戦闘機、ファンタスティファイター。
其は天空が生み出した紫の幻想。
搭乗者は変わらず、ファンタスティックバイオレット。
夜空の重車ファンタスティレーサー、朝陽の忍獣ファンタスティニンジャ、及び強化武装と追加戦士の分はちょっと力が足りませんでした! すみません!
《はっ。十分すぎるわ。ダメ女神は卒業だな》
……! はい!
「イリス、セレナちゃん。心を落ち着けて、心を一つに。"あの魔王を倒す"とだけ考えて、念じるままに、想いを一つに」
「はーい! おにーちゃんの言う事ならー!」
「? 了解しました」
「コールだ中村! 天聖合体!」
『お、おお!? 天聖合体!』
おっ。よしっ!
ガコン、ガコンと、"コール"によって、三つのロボが変形していく。
赤き恐竜が、まず人型へ変形。
青き新幹線が、変形して足回りに合体。
そして紫の戦闘機が、変形して背中と肩に合体。
それぞれのパーツがスライドし、一つの巨人の型を成す。
光る赤。
輝く青。
煌く紫。
巨大な青き足と、巨大な紫の翼を見せつけ、泰然と腕を組み、悠然と魔王を見下ろす赤き巨人。
「『 天聖合体! ファンタスティックバロンα! 』」
ああああああああ!
リアルで!
三身合体!
ファンタスティックバロンが見られたああああああああああ!!!
天聖合体は互いへの信頼関係があって心を一つにできないと不可能だからイリスちゃんセレナちゃん紫山さんあと中村さんもその心は完全に一つで最高の仲間でうわあああああああああああ!!!!
「……フ、フフフ、フ。こけおどしね。くっついたからって何だって言うの!?」
トン、と、羽毛が地面に落ちるように軽やかに、ファンタスティックバロンは地上に降りた。
魔王は放つ。
八つの爪を。
バイオレットの背筋をひやりとさせた、九対一を作るそれを。
しかし、踏み込んだファンタスティックバロンが腕を組んだまま、左足で立ち、右足で八度、目にも留まらぬ速度で蹴ると、即座に全ての爪が消し飛んだ。
「!?」
腕を組んだまま更に踏み込み、ファンタスティックバロンは魔王に蹴り込む。
一発一発が非常に重い。
一発一発が非常に速い。
狙いが正確で、魔王の顎を蹴り上げたと思えば、顔を庇った魔王の膝を蹴る。
足首を狙っているように見えた蹴りが、急に曲がってこめかみを蹴る。
変幻自在の蹴りの猛攻に、魔王は加速度的にダメージを積み重ねていき、目に見えて一方的に押し込まれていった。
その間、ファンタスティックバロンはずっと腕を組み、一度もそれを解かない。
動かすのは足と翼だけである。
「なっ、くっ……速い!? このサイズ、この重さでこの速さですって……!?」
「皆の力が一つになる。だから合体は強い。だから今の俺達は強い。デカいから強いんじゃない! 一つになっているから強い! それが戦隊の合体だ!」
強烈なキックが、魔王を吹き飛ばす。
「フ、フフフ、フ……わたしの知らない正義……わたしの知らない勇者……」
王都の外まで蹴り出された魔王は立ち上がろうとするが、明確にふらついている。
"ここだ"と、バイオレットがその経験から号令をかけた。
「心を落ち着けて。心を重ねて。心を研ぎ澄ませるんだ。これは『合体』だ。俺達の心が一つになってないと何もできない。逆に、俺達の心が一つにさえなっていれば……なんだってできる!」
「自分にできることであれば、やります」
「心を一つにー、心を一つにー、正義ー、平和ー、おにーちゃんー」
《……お前らたぶん何も考えねえのが一番心一つになるぞ》
それは……そうですね……はい。
それぞれが、自分が乗り込んだ乗機を操作するための、輝く宝珠に手をかざす。
少しずつ、少しずつ、互いの心を重ねて……皆の心が、ピタリと重なった時。
皆の心に、一つの必殺の名前が浮かび、誰かが掛け声を口にするまでもなく同時に、叫んだ。
『「「「 来たれ閃光! 天空一刀両断! 」」」』
背中から抜き放たれた紫の剣が光を纏い、ファンタスティックバロンが空へと舞い上がって、そこから急降下。
雷のような光を纏い、雷の如くジグザクに落ち、雷の速さで紫電一閃。
瞬く間に、巨人はそこを通り過ぎて。
後には、両断された魔王、それだけが残った。
「善を踏みつけ、悪が栄えた試しなし。―――この空に、正義在る限り」
膨大なエネルギーが、魔王の残骸を爆散させる。
その爆発を背景に、ファンタスティックバロンは剣を背に収め……勝利を確認して、バイオレットは倒れた。
倒れるバイオレットを、左右からセレナとイリスが抱きかかえる。
「お疲れ様です」
「おつかれ、おにーちゃん」
あー。
ふぅ。
……勝ちましたね。
勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!
《うるせえ、ダメガキ女神》
はい、すみません。
うぅ、ダメ女神に戻っちゃった……
《ま、おつかれ。よくやった》
……はいっ!
あー。
今日の戦い、録画しとけば良かったなぁ。
もったいない。
《女神ぃ!》
ごめんなさいごめんなさい余計なこと言いましたっ!
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