デーレレー(戦隊の合体技で敵を倒した後に流れる任意のBGM)

「フ、フフフ、フ。気分が上がってくるじゃないの!」


「そうか?」


《実力が拮抗してないと戦いが盛り上がらん塩試合メーカーだしなこいつ》


 踏み込むバイオレット。


「おっと……フ、フフフ、フ! 爪は再生できるのよ!」


 悠然と構え、爪を再生し、発射する魔王。


「だろうな」


 瞬間。


 踏み込んで、振るわれる、銀剣と光刃の一筋の閃光。


《 一閃ウーノ! クチラーダ! 》


 その一閃が、発射直後の八つの爪と、八つの指を、まとめて両断していった。


 まさに、神業。


 バイオレットは研ぎ澄まし、研ぎ澄まし、この世界に来てから最高の精度で、全てを一つの線で捉える、神業の一閃を放った。


「―――!」


「お前が苦しめた者。お前が殺した者。全てに懺悔し、地獄に落ちろ」


《チェックメイトだ》


 後は、トドメの一撃でフィニッシュだ。

 最強最大の攻撃を二度当て、瘡蓋の向こうに攻撃を届かせれば勝ち。

 魔王にもう奥の手はない。はず。

 原作を熟知している中村がそう言っていたのだから、そのはず。


 今日も正義は勝つ! 勝った!


 そして―――そして―――? これ、は……?


 来ます!


「っ!」


 光が、落ちてきた。


 その光に、女神と中村は見覚えがあった。


 後方に跳んで光を避けたバイオレットだが、光の中で魔王が変化していくのを感じ、身構える。


「ああ、ああ、スズキ様……感謝致します! フ、フフフ、フ!」


 魔王は恍惚の中に居た。

 何を感じているかは分からない。

 だが、恍惚の中に居た。

 何か、何かよく分からない変化が、魔王に起きている。


《鈴木……テメエっ……本当に、魂の底の底まで……!》


 ……。やっぱり、この光、鈴木さんのですよね……?


「知り合いか? といってもこの状況で君が出す名前という時点で、もう分かるが」


《裏切者だ。裏切ったあいつの、能力だ》


「能力」


《言ったろ! 前任の女神はオレ達に力を与えたって。オレの分はもう綺麗サッパリ消えたが……裏切ったアイツには、鈴木には、まだ力が残ってる。『種族に対応した特別な力を覚醒させる』っていう能力がな》


「種族に対応した特別な力……?」


《地球人に使えば一戦闘分の身体能力強化。虫混じりに使えば一日マイナスイベントが起こらない加護。獣人に使えば半日妊娠率100%。魔族に使ったところは見たことなかったが……こいつは……》


 ぐんぐん、ぐんぐん、魔王が膨らんでいく。

 どんどん大きくなっていく。

 バイオレットの身長を超えて、建物の大きさを超えて、それでもまだ止まらない。


 ……。

 で、でっかい!

 加減を知らないくらいでっかい!

 全長72m21cm!

 第一形態の六十倍くらいまで大きくなってます!


《クソが! 魔族に使うとこうなるのかよ! 雑に巨大化形態なんて追加しやがって! 魔王の第一形態と第二形態で別々の戦闘中エロと敗北エロシーン入れてた原作者の丁寧さを見習えや!》


「言ってる場合か!」


 こっち狙ってますよ!


 魔王が地上のバイオレットに手を伸ばし、掴もうとする。


 バイオレットは抵抗・回避をしようとしたが、サイズ差と瘡蓋に覆われた手は如何ともし難く、あっさりと捕まってしまった。


「フ、フフフ、フ。あんなに強かったのに……もうこんなに弱くて、ちっちゃいわねえ……?」


 ぎゅっ、と、巨大化した魔王がバイオレットを握る力を強める。


 ああ、やめてやめて、潰れちゃう……!


「ぐっ、あああああっ……!」


《相棒! 踏ん張れ! 何か、何か……そうだ! 女神! 今姫は何してる!?》


 え、姫? あっ。


 分かりました、見てきます!






 メル姫は、崩壊した城の一角で瓦礫をどけていた。


 一体何をしているのか、女神にも見当がつかない。


「腕輪さんは神器を求めていた。それを『女神』とやらに捧げると言っていた。捧げる魔法陣も一回見せてもらった。一回見せてもらったなら、私ならコピーできるはず。さ。頑張れ、私。きっと……そこに……希望がある……!」


 ……!

 その手が!

 ああ、でも、姫一人じゃ間に合わない……!

 12歳の姫の力じゃ瓦礫は……かといって魔法じゃ全部吹き飛んじゃう……!


 どうしたら……!?


「よっ、姫様」

「泥だらけやんけ」

「頑張ってんなあ」

「あんたいっつもそんなんやな」

「よっすよっす」


「えっ……あなた達、なぜここに……? 契約はもう終わったはずでは……」


「なんかあったと思てな。案の定なんかあったみたいやし」

「自殺行為する趣味はあらんけど、姫様かセレナちゃん抱えて逃げるくらいはできるかなぁ……ってな」

「この瓦礫どければいいのかな?」

「姫、怪我の手当てが優しかったからな。ま、こんくらいの恩返しは」

「しっかしあんなでかいのがうろついとるのに、姫はまだこんなとこにいて勇気あるのう、けなげなこっちゃなあ」


「あっ……ありがとうございます! あなた達こそ真の勇者です!」


「ええてええて」

「はっ、真の勇者だってよ。普段商会の荷物運びしかしてねえのにな、おれら」

「ばかもん。セレナちゃんとミナアキ兄貴に迷惑かけた分をここで取り戻すんじゃ」

「なにせわしら」

「全員勇者じゃしな! がはは! 肩書きだけじゃが!」


「瓦礫の下で価値のありそうなもの、古そうなもの、全てを掘り出して、魔法陣の上に集めてください!」


 ゆ……勇者の皆さぁん!


 あああああ!


 私……私! 私!


 この世界を守ってって……この世界の人を守ってってお願いして……よかっ……よかった……うわあああああああんっ!!


「姫、十個くらい集まりました! これ全部神器ってやつなんですか!?」


「はい! 今から魔法陣でこれを全て神界に奉納して、力と共に打ち出します! 余波に気を付けて!」


「あの……姫、俺古物査定知識あるんすけど、これもしかして普通に国家予算数年分くらいあるんじゃ……」


「構いません! 王国が滅びればそんなものはただの張りぼて、ただのガラクタです! す! やってしまいます!」


「怖いよぉ……姫も怖いけどこの国の来期の損益計算書が怖いよぉ……」


 ひ、姫様! ありがとう! 紫山さんが握り潰される前に間に合……あれ!?


 ま、魔王! 魔王がこっち気付いて……ああああ! 攻撃を! 逃げて逃げて!


 駄目だ私の声が聞こえてない! 私の声が聞こえる人も近くに居ない!


 気付いて気付いて、早く気付いて、皆を魔王が狙ってるの! 逃げて! 早く!


 あああああ……魔王が魔法を……やめてえええええええええっ!!


「うなれ王家の淫魔術―――『男根千本咲き』!」


 !


 割り込んできた王様が、杖を地面に突き立てると、無数のだんこ……おちん……柔軟性と硬度に優れた何かが地面から大量に生え揃い、姫達を守る壁となった。


「王!」

「王!」

「お父様!」


「ふむ、久しぶりだから鈍っているか」


 アマリリス王家の先祖、水天の聖王子がサキュバスに逆レイプされ、生まれてきた子供こそが、アマリリス王家の先祖であるとされる。

 これはあまり公にはなっていない、けれど知る者は知っている、"一般人も割と知らない"程度の秘密であった。

 代々『魔の因子を抑える訓練』を重ねてきたアマリリス王族は、それを特殊な道具で引き出し『淫魔術』を行使することができる。

 その一つが、これだ。


 これなんですよね。うん。


 性技能が上がりやすく、快楽落ちしやすいアマリリス王家は、性技が上手いが、性行為に弱い。

 これのせいで大体大変に変態なことになってしまう人達なのです。


「魔王がこっちを見てない今がチャンスじゃ! 皆、武器を探し、拾え! 流れ弾から娘たちを守れ! 王命である!」


「「「 はっ! 」」」


「武器が全然見つかりません! 鎧は見つかったのでこの身を盾とします!」


「その意気やよし! 後で特別手当をやる! 死ぬなよ! 王命である!」


「「「 はっ! 」」」


 王が引き連れてきた兵士達も加わり、魔法陣の前で詠唱するメル姫を守る。


 防戦一方、しかし沢山の人が防御に全力のリソースを注ぎ込むことで、僅かなれども時間は稼げる。


 何故、魔王は魔法で攻撃するだけで彼らの武器を奪わないのか……そう思った女神が魔王の方に目を向けると、苦しみながら、スカイクォンタムで魔王の能力を妨害するバイオレットが居た。


 今、ここに。

 頑張っていない人間は、いない。

 女神はずっと、それを応援している。

 皆ずっと、頑張っている。


「―――今、この儀の主へと捧げますጪጫ ጮጮጪጮ ጫጩጪጬጮ ጫጫጬጫጩ。詠唱、終わりました!」


 だから。


 女神も、頑張らないと。


 ここで応えられなければ―――いや、応えてみせる。絶対に応えられるはずだ!


 私に、人を愛する女神の資格があるのなら!


 私に、人に寄り添う資格があるのなら!

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