三人で一人の

 主要戦力が出払っていたとは言え、ここはアマリリスの王城。

 この国で最も厳重な警備がなされていた施設である。

 当然、武器も防具も大量に保管されていた。


 第二形態へと移行した魔王テルーテーンは、その全てを剥奪できる。

 それどころか、従属させることすら可能としている。

 城から引き剥がされた武装の全ては、魔王に従う鉄の群れ。

 まず無数の剣が、戦隊を食い潰さんと飛来した。


 イリスが笑って、額から垂れる血、頬を伝う血を拭い、片手剣を逆手に構えた。


「さて、じゃあ、まず、道を開くよぉー! うーの! どーす! とれす! くちらーだ!」


 逆手でぶっ放す光刃。紫山の必殺斬撃の模倣が、剣の群れを吹っ飛ばしていく。


 しかし、剣は囮。

 魔王の魔法で視覚的に見えにくくされた大量の槍が、迂回して上空から降り注ぐ。

 されどそれは、天上の視点からは見えている。


《イリス! 上もだ!》


「うーの! どーす! とれす! てぃろてーお!」


 逆手に持った剣の柄から、紫山の必殺射撃の模倣が光弾を放ち、羽虫を吹き散らすように槍の群れを吹き飛ばす。

 あまりにも自由。

 あまりにも反則。

 どんなポーズからでも、どんなところからでも、見切った技が飛び出してくる。


「フ、フフフ、フ! じゃあこれはどうかしら!」


 城から剥奪した鎧が集まっていく。

 組み上がっていく。

 そして、30mはある巨大な蛇になった。

 無力化するのではなく、剥がし、奪い、我がものとする力。

 鎧を編み上げ"悪なる蛇"として操ることなど、造作もない。

 蛇は地面ごと食い潰す勢いで、矮小なる人間達、戦隊へと噛みつきにかかる。


 全身の包帯に血をにじませながら、セレナが城を壊すために魔王が剥がした城の柱―――20mはあろうかというそれを、筋力強化薬を飲みながら両手で持ち上げる。

 ……。

 ……。

 ……。

 え、まさか振れるんですか?


「貴様が剥奪した城の柱……国民の血税の塊を、今こそ国防に使わせてもらう!」


《と、トンチキ女……》


 振り下ろされた城の柱が、鉄の蛇を叩き潰す。

 轟音。

 地震。

 粉砕音。

 振り下ろしたセレナは息を切らせていて、息を整え、もう一度柱を持ち上げ、もう一度振り下ろして蛇を叩き潰した。


 ね、念入り……怖い。


 魔王は盾や弓を組み合わせて数匹の鉄の獣とし、そこから次々矢を放つ。

 セレナは柱を地面に突き立ててその陰に隠れたが、魔王の狙いはそれだった。

 柱を握るセレナに手をかざし、魔王は武装剥奪キルスティールを発動する。

 しかし、無駄。


 仲間を守るべく、前に出たファンタスティックバイオレットのブレスレットが黄金に輝くと、『奪う力』は霧散し、武装剥奪キルスティールは失敗に終わった。

 盾と弓で出来た獣は、前に出たファンタスティックバイオレットを殺すべく攻撃しようとする、が。


「くぅぅぅあぁぁぁぁっ!!!!」


 ぶん回された柱が、鉄の獣を地面ごと薙ぎ払った。


 まだ来る。

 まだまだ来る。

 大量に来る。

 第二形態の魔王の力は及ぶ範囲全てから武装を剥奪できるがゆえに、生み出せる鉄の獣の数は事実上の無尽蔵。

 しかし、道は開けた。


 攻撃で生まれた正面の鉄の空白地帯は、魔王テルーテーンへと続く道。


 セレナとイリスの声が重なる。


「「 いけーっ! ファンタスティックバイオレット! 」」


 信じられない速度で紫の閃光が道を駆ける。

 それこそがファンタスティックバイオレット。

 天地を駆ける紫光の流星。

 その後を追おうとした鉄の群れを、イリスとセレナが叩き潰した。


 魔王は当然、武装剥奪キルスティールは使わない。

 効かないことが分かっているから。

 ただただ、魔王として堂々と待つ。


 この先は、実力勝負だ。


「踊りましょう? 慈悲の勇者さま!」


「悪いが、ダンスは苦手でね。戦いばかりやってきたものだから」


「わたしもよ!」


 互いに初撃に選んだものは、最速の一撃。ゲームで言えば確定先制の最速攻撃。


 正義の銀剣と、魔王の黒爪が、空中にて激突した。


「ふっ!」

「しっ!」


 そして、振るわれる高速の連撃。

 魔王の両手と、正義の剣は、手数において魔王が勝る。

 しかし、"自分より強い相手"との戦闘経験において、ヒーローが勝る。

 爪が振り下ろされ、剣が切り弾く。

 剣が突き出され、爪が受け流す。

 爪が左右から挟み込むように振るわれ、剣の一閃が二つ同時に打ち払う。

 0距離で機関銃を打ち合うような。

 0距離で機関銃の弾を撃ち落とし合うような。

 超高速の、凄まじい攻防。


「互角……!? 第二形態に至った、このわたしが……!?」


「ファンタスティックスーツは、着用者の総合戦闘力を数十倍に高める。託された人々の祈りの力だ」


「魔王の第一形態から第二形態への強化倍率平均値とほぼ同じ!? ただの祈りの力が!? フ、フフフ、フ!」


「この世界に来てから、俺も素の能力をかなり鍛え直したつもりだったが、それで互角か。少し凹むな!」


 両者が渾身の一撃をぶつけ合い、反動で互いの体が後方に吹っ飛び、ひらりと舞って、両者同時に着地した。


 と、同時に。魔王の両手の、親指以外の全ての爪が"剥がれた"。


「!」


 剥がしの魔王。然らば、その瘡蓋かさぶただけでなく、爪も剥がれる。


 剥がれた爪が、ファンタスティックバイオレットを狙って弾丸のように発射された。初速からして、必殺の速度。


 その一つ一つに、ファンタスティックバイオレットは必殺の気配を感じ取る。


《相棒! こいつはラスボスらしく基本八属性全てを使える! 爪は八個、一個につき一属性だ! 『四大元素』、火、水、風、地! 『物理四則』、斬、突、射、打! 爪の属性は変わらねえ! 的確に防げ! 来る順番を見切って教える! まず飛んで来るのは打撃だ!》


 空中で、弾丸の速度で飛ぶ爪が軌道を変えるのを見て、ファンタスティックバイオレットの背筋に冷たいものがひやりと走った。


《打、斬、火、水! フェイントだ突は来ねえ! 次、斬、射、地、打!》


 八属性、八つの爪。

 ゲーム的には、第二形態の魔王テルーテーンが呼び出す仲間魔物のように扱われる。

 手堅い攻略法はレベルをしっかり上げたメル姫を連れていくことなどで、1ターン目に全体魔法で一掃すれば、第二形態をとても簡単に倒すことができる……らしい。


 しかし、今のバイオレットにそういう攻撃手段はない。

 バイオレットは、絶技にてそれに立ち向かった。

 事実上の、九対一だ。


 打撃を、衝突の瞬間柔らかく受ける。

 斬撃を、剣の刃で受ける。

 射撃を、剣の腹で受け流す。

 突撃を、横からぶっ叩いて逸らす。

 経験をもって爪の属性を見極められる中村の助言を受けながら、ファンタスティックバイオレットは全てを見事に処理していった。


《斬属性は射撃に弱い、撃て! 射属性はその逆だ、斬撃で落とせ!》


 斬の爪を撃ち落とし、射の爪を切り落とし、攻撃の際に出来た隙を必死で埋めつつ残りをかわして―――


 あ、魔王の魔法です! 回避して!


 全身全霊で対処しなければならない八つの爪で意識を引き、堂々不意打ち。

 まさに魔王の戦い方と言ったところか。

 しかし、バイオレットは魔法も跳んでかわす。


「フ、フフフ、フ。本当に、いくつ眼があるのかしら、貴方」


《突属性の弱点は打撃だ、殴れ! 打属性はその逆だ、剣先で突け!》


 崩壊の過程で地面に突き刺さった大きな城の壁を駆け上がり、爪を引きつけ、強化スーツの拳で爪を思い切り殴って粉砕する。

 地面に着地し、剣を構えて、突き出せば……


 地面スレスレと頭上から魔法で視認し辛くされた爪が来てます!


 ぐるん、と、バイオレットは跳んで回った。

 膨大な炎を纏って突っ込んできた地面スレスレの爪、氷の刃を連続発射しながら突っ込んできた爪を見事にかわす。

 そして無駄のない動きで、打属性の爪を剣先で突き壊した。


「ようやく半分か」


《四大元素は魔法がないと対の属性をぶつけられねえ、通常攻撃で根気強く対処!》


「いや、スーツがある今なら……一撃だ!」


《 一閃ウーノ! 二閃ドース! クチラーダ! 》


 爪の数を半分にしたことで出来た、時間の余裕。

 一秒にも満たないその余裕で、銀剣のアーツレバーを二度操作。

 かくして、銀剣の五連撃が放たれた。


 操作一回は単発技、操作三回は最強技、操作二回は対多数技。

 射撃技ティロテーオより更に力の収斂度を高めた斬撃技クチラーダは、四つの爪を一瞬にして切り落とした。

 ばらばらになった爪が、それぞれの属性を宿しながら地面に墜落していく。


 ……そういう仕様だからしょうがないですけど、斬撃一回分余りましたね。

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