作戦会議と火の雨
種付けおじさん達が全滅する前に王城に駆け込んで、仲間と合流、どうにかそこから逆転の道を見つけなければ。そう思考し、紫山は走る。
これ字面が最悪ですね。
『今の内に回復だ。店に金投げ込んで走りながら商品かっぱらってけ』
「くっ……なんて行儀が悪いんだ。すみませんすみません、本当にごめんなさい!」
『行儀の話するタイミングか今!?』
崩壊していく王城。
城から逃げてくる人々。
城で、街で、響く爆音。
街は慣れた様子のパニック状態だ。
全体で見れば凄まじいパニック状態なのだが、個人個人をよく見ると皆落ち着いていて、「また魔族かなんか来たのかよ!」と叫んでいる人が定期的に見える。
まさに、慣れたパニック状態だった。
怪人が出ても「なんなんだよあれは!」ではなく、「また出たぞ!」で対応する戦隊世界の民衆のような反応で避難していくので、紫山がとてもやりやすそうだった。
あ、そこの道まっすぐ行かない方が良いです。
人が詰まって渋滞してます。
そこの交差点から右に行って迂回した方が早いと思います。
「了解」
『せめて王都じゃなくて他の街だったらな……セックスしないと出られない部屋にオレと魔王で入って永久封印もできたんだが……』
「それは、君は今、自分を犠牲にする前提の作戦も選択肢に入れてるのか」
図星をつかれ、中村はちょっと言葉に迷った。
「必要ない。君を犠牲にするほど追い詰められた状況ではないと俺は考える」
『……ハッ! それで勝てるんならいいんだがな!』
「それで勝つ。低い可能性でも俺に賭けてくれ。必ず勝ってみせる」
『フン。じゃあなんか案出してみろよ。言っておくがオレは今、相当絶望してるぞ』
「二回だ」
『あ?』
「せめて二回。二回フィニッシュアーツが撃ちたい。だがあいつに有効打にするにはアーツレバー三回操作分の技が要る。戦闘中に隙を見つけてから二射分、レバー操作六回分の時間を捻出するは現実的とは言えない。いったいどうしたものかな……」
紫山の腰にはファンタスティレットが吊り下げられている。
イリスが取り返してくれたものだ。
しかし握ることも、構えることもできない。
体から離して吊り下げた状態にしておかなければ、『装備』や『所持』の状態になってしまうため、あの魔王の力で剥奪されてしまうからだ。
せいぜい、使えて一回。
魔王の認識外から銀銃を全力で一回撃つのが限界だろうか。
ただそれでも当たるとは限らない。
戦闘中に隙を見つけてねじ込む、という形も作らなければならないのか。
城で魔王が能力を使った時、奪った装備は謁見の間の者達のものだけだった。
つまり、あの能力の効果範囲は街一つを覆うようなものではないということ。
魔王の認識範囲において発動するものである、と推察できる。
魔王が全力で剥奪しておらず、本気を出せばもっと広がるという可能性もあるが、少なくとも現段階では、遠距離からの奇襲を一回は刺せるはず。
認知範囲外で銃を握れば、おそらく初撃は問題なく撃てるはずだ。
ほとんどの魔法は届かない距離だが、アーツレバー三回分、ファンタスティレットの最大火力ならば十分に届くはず。
遠距離から先手を取って当てる以外の攻撃なら、あえて先手を譲ってから、隠れて待ち伏せしても当てられるかもしれない。
『相棒は、最大の技二回当てれば倒せる自信があるってことか?』
「奴は寄生型なんだろう? 経験上、寄生タイプの敵は本体は弱いことが多い。その上体も小柄な少女で、素早いタイプに感じた。流石に生身じゃあの速度にはまるで歯が立たなかったが……もしかして、硬いタイプの魔王じゃないんじゃないか?」
『ほぉー……よく見てんじゃねえか』
確かに、その通りだ。
あれは下位の魔王。
その中でも、素の防御値はかなり低い方だ。
イリスクロニクル初代はシステムの黎明期だったのもあって、ラスボスの魔王テルーテーンには付け入る隙が特に多い。
だが、打てる手が少ない現状、それがどうしたという話だが。
「気付きの起因は"イリスに腰が引けていた"ことだな。経験上、本当に硬いやつほど気が緩みやすい。余裕ぶって無駄に攻撃を体で受ける。だが奴はどうだ? 攻撃を丁寧に防御していた。あの爪で丁寧に攻撃を弾く癖がついていた。眼球への攻撃すら効かなかったのに。最後には、距離を空けて魔法だ。……奴はもしかして、俺が思ってる以上に脆いんじゃ? 当てれば倒せるんじゃ? と思った」
『いい目の付けどころだな。そうだ。あの目も瘡蓋なんだよ。目の形をした瘡蓋だ。武器さえ装備してりゃ、あの瘡蓋は1~2回の攻撃で剥がせる。その下の皮膚は弱く、かなりのダメージが入る。そういうギミックを搭載してんだ、あのラスボス野郎は。まあ現時点まで一枚も剥がせてなかったから意味ねえ話だったが……』
「……! やはり、あの
えっ目とかあれ瘡蓋なんですか!?
『まーな。目蹴って剥がせてたら素手でもワンチャンあった。相棒が二回攻撃当てればってのは、そういうことだろ? 一回当てて剥がして、次の一発で確実に倒す……そういうことだ。違うか? 瘡蓋は剥がすもんだからな』
「ああ」
『原作ゲームのRTA動画投稿者も基本はこれだったな。四人仲間揃えて、二人で確実に瘡蓋を剥がし、一人がアタッカー、一人がヒーラー。あるいはイリスを二刀流の二回攻撃にして、一回目で剥がして二回目でダメージとか』
「あーるてぃーえー……?」
はえ~。おふたりともすっごいですねえ。
「セレナもイリスもあまり動かしたくない。 ダメージが相当なもんだ。できれば、俺一人で二回当てたい」
『問題がいくつかある。まず、どう当てるか。あいつは素でかなりの速さで、爪の防御技巧は相当なもんだ。次に、一回目当ててから二回目使うまでどう乗り切るか。最後に、第二形態に移らせる前にちゃんと一撃で仕留めきれるのか』
「当てる方法は考えてある。それはそれとして、第二形態? それはあれだろうか、倒した敵幹部が強くなって戻ってくるあの……」
『……ああ、お前RPGもあんまやってないんだったか。戦闘中にHP20%以下になると変身すんだよ、テルーテーンは。HPは全回復して更に強くなる。RPGじゃよくあることなんだがなぁ』
「なるほど。アルナちゃんが時々言ってた『本気』ってそれか。仕留め損なったらそこで終わり、と思っておいた方がよさそうだな」
『おう。だからイリクロ1だと方法は二つだ。第二形態になってからも押し切って倒す。あるいは裏技だが、体力残り21%以上の状況から一撃で倒す』
「急所の瘡蓋を剥がして、すぐにもう一撃全力を当てられればなんとか……いける気がする。勘だけれども」
『そうか。なら、あとは二つ目の問題だけだな』
「奇襲で大技を当てて、次に撃つまでの間に、確実に
走りながら、二人は思案する。
あと一つ。あと一手。何かがあれば。
紫山は二回撃てない。
二回撃つまでの間に
逆に、魔王テルーテーンも最初の
何かしらの方法が要る。
『……方法はある』
「本当か?」
『おうとも。だが複雑すぎる計算でやることだ。二重三重に仕込まなきゃ策は策とは言えねえからな。要は、お前の一回目の攻撃の後二回目を撃つ時間がありゃいいんだろ? 説明してる時間がねえ。後で説明してやるから、とにかくお前は大技を二回当てることを考えろ』
「ああ。分かった」
詳細は女神にも分からないが、あの中村の策だ。そこに疑う理由はない。
城が見えてきたが、同時に魔王も近付いてきた。
無音で、空の闇に紛れて飛ぶことで紫山の感覚を誤魔化す気であるようだが、地上からはほぼ見えなくても、天上の神の世界からはよく見える。
紫山から後方約800mの上空。
紫山と中村視点、二番目に大きな雲と三番目に大きな雲の間辺りだ。
先程の移動速度から考えれば、おそらく800秒は大丈……魔法が来ます!
「!」
『!』
炎が降った。
数は18。いや、もっと唱えられている。もっと魔法の数が増える。
空でたっぷりと詠唱された魔王の魔法は、威力と射程を大いに伸ばし、紫山を狙う火の矢、いやもはや火の雨となって降り注いだ。
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