すごろくにしたら7/10くらいにエロイベントが仕込まれてるタイプの王都だが?
腕輪を身に着け、紫山は馬車を降りた。
王都を見つめ、正義の味方は眉を潜める。
アマリリス王都はもう……四割ほど、女神でも見通せない領域と化していた。
ここは人間領でありながら、同時に、既に"あちら側"に成り果てている。
「形状記憶スライムを見つけたら即討伐を。多少の混乱はこの際許容します。騎士団に連行されそうになった時は自分の名前を出してください。それでどうにかなると思います。形状記憶スライムが街を彷徨いている方がリスクだと思いますので」
「わかった。そっちも気を付けて」
「? 気を付けて……とは」
「悪党の匂いがする。それも信じられないくらい長い間ここで悪いことしてそうだ」
「!」
「ガイアデビルの本拠地に殴り込んだ時以来だ。ここまで"場所"に悪の匂いを感じるのは……鳥肌が立ちそうだよ」
「……もう、そんなにも」
セレナが紫山の腕輪を外し、イリスの方に放り投げる。
『あっテメっ』
中村の文句を無視して、セレナは紫山の手を引っ張り、道の端に移動する。
「ちょっと、耳貸して。内緒話」
「おや……君が俺に敬語使わないのは初めてだね」
「いいから。耳貸して。丁寧な言葉だとちゃんと正しく伝わってないかもしれないから。あのね、あたしはあんたのこと信じられると思ってるけど、心配もしてるの」
「ああ、分かってるよ」
「騎士でもない。勇者でもない。あんた、遠いところから来ただけの普通の優しいだけの人でしょ。ちょっと強くて、結構無知なだけの。そんな人を頼るしかないあたしもあたしだけど……無理はしてほしくないのよ」
「君は、優しいね」
「優しいとかそういうのじゃないの。あたしは騎士なの。守られる側をやめて、守る側になることを決めた時、人は騎士になるの。あんたがどんなに強くても、戦う義務は無いんだから、騎士のあたしに任せてていいのよ?」
「ああ、分かるよ、その気持ち。俺も戦隊だから。それにしても……」
紫山の脳裏に、少し。
―――我らは大地の悪意、人を超えた存在
―――星の代行者すら我らには敗北した
―――そんな我らを滅ぼしかけている貴様らが人間? 笑わせる
―――強くなるため力を極めた愚かな天空の者達よ!
―――この星の上で最も"外れた"バケモノは、お前達だ!
昔の思い出が、蘇る。
「……普通の人って言われたのは、久しぶりだなあ」
「? とにかく、何かしてくれたら嬉しいけど、何もしなくていいんだからね?」
「ああ、分かった。肝に銘じておくよ」
「絶対だからね? ……コホン。ここまでの道中、姫の護衛協力、感謝致します。謝礼は後日! これは当座の礼の品です! 有難う御座いました!」
思い切り頭を下げ、セレナは去っていった。
セレナに連れられたメル姫がにこにこと手を振っている。
名もなき勇者たちも朗らかにそれぞれ別れの言葉を口にし、仕事を終えたことで街のどこぞへと消えていった。
後に合流するとはいえ、少し物寂しいものがある。
女神がそう感じているだけかもしれないが。
「今渡されたこれ、なんだろう」
『死亡回避のアクセサリーだな。使い捨てで、死亡時にHPが1残る。高いぞ』
「へぇ……ありがたいもの貰っちゃったな」
セレナから貰ったアクセサリーを、紫山はポケットにしまった。
「戦隊の俺が子供のイリスの仲間入りに忌避感あるように、騎士も一般人にそう思うのかな? 平和な所で生きていてくれ、って……」
そう思うのかもしれませんね。
「後で勇者登録だけでも、できたらしておこうかな。気を使わなくてよくなるかも」
変な気の使い方してますね……でも、いいと思います。
「おにーちゃん、とりあえずご飯食べない?」
「ああ、そうしようか。適当に王都でも回ってみる?」
「うん! 私、王都に来たのって初めて! 村も全然出てなかったから!」
「俺も初めてだよ。中村達の案内が頼りだな」
『お、聞くか? 任せろ。ここはシリーズで一番登場回数が多い街だからな。オレは目を瞑っても地理が分かるぜ。ここは基本的に縦3×横3の9マスマップで整理されてる。ま、1マスあたりの広さや建物数も大概だけどな。RPGに慣れてないやつが初期の王都マップうろつくと割と迷うとか聞いたことがあるくらいだ。だから数絞って教えるがまず覚えておくべきは中央マップだな。武器屋、アイテム屋、宿屋、合成屋、中絶屋全部揃ってる。イベントは北東マップの勇者ギルドで大体進むから中央の次に北東に行くことが多くなるかもな。王城があるのは北マップだがイベントの関係で北マップだと騎士団詰所の方に行く回数が増えるかもしれん。色んなアイテムを揃えて各ボスの対策をガチガチに固めるなら南マップの露天商・商店街に通うことになるからここも覚えておきてえところだ。ああそうそう、西マップにある修行場は無料で利用できるからTVでよく訓練してた相棒はここ使った方が鍛錬効率的にできるかもしれん。知ってる魔物なら魔力で再現できるって訓練場だからな。ゲームの仕様ならちゃんと経験値入って強くなれてたしよ。東マップの地下にある小規模風俗街は実際かなり違法なんだがここがなくなると将来困ることがあるから相棒は利用しないだろうが気付いたとしても騎士団に報告するのはちょっと待っ』
オタクってすぐ早口になりますね。
『ぐああああああああっ!!』
「うわっ長台詞言い始めたと思ったら急に叫んだ! おじちゃん気持ち悪い!」
「これは同じ男としての同情なんだがそのへんにしといてやってくれ」
街をうろつく、紫山、中村、イリス。
気持ち的には女神も一緒に街で遊んでいるくらいのお気持ち。
地上で一緒に居られなくても、一緒に居る気分で見ているだけで楽しいものだ。
とりあえず適当に、中村の知識も用いずに王都をぶらぶらしていると、真っ黒なローブで全身を隠した露天の商人が紫山に話しかけてきた。
「そこのお前。女性人気はありそうだけど男性人気はイマイチそうな顔のお前」
「え?」
「お前、種付けおじさんが大切な人の処女を喰った時どうする?」
「ええと……」
パアン。
男の平手が紫山の頬を打つ。なんで?
「判断が遅い」
「なんで俺今殴られたんですか?」
「ここが"前線"だったら、お前が答えに迷ってる間に、お前の大切な人の処女は、三度は確実に奪われている」
「ええ……」
『処女が三度奪われるってなんだよ』
「そこでですねえ! このアクセサリーを付けてると! 一回だけ処女喪失の身代わりに! 陵辱されたとしても処女でいられますよ!」
『間に合ってます。行くぞ』
すたこらさっさ。
さっさと紫山らはその場を離れる。
正解だと思います。
「おにーちゃん! 大丈夫!? 痛くない!?」
「あ、ああ。凄いな……これが王都か……」
『状態異常対策系とリスクマネジメント系は買い揃えておきてえが、ま、後で安い店行こうぜ。人数分格安で揃えばいい話なんだからな』
「今度あいつ見つけたらおにーちゃんの代わりに殴っとくからね!」
「ああ、いいよ、そういうのは。授業料だと思っておけば……」
『あ、チンピラ小屋だ。随分と懐かしいな。チンピラどもは……いるな。相棒、火を放っといてくれよ。全員ちゃんとミディアムレアになる火力で。あそこ女が足踏み入れると即戦闘始まって、負けると地下牢で延々と輪姦されるんだよな』
「……今から全員捕まえて騎士団に突き出しておくからそれで勘弁してくれ」
中村の知識と紫山の正義感が合わさると、街を歩いているだけで悪が消滅していくのだった。
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