あ! このエロ攻撃、進研ゼミでやったところだ!
魔族イロセはビニール紐をより合わせたような容姿の魔族である。
全身が異界科条の塊のような、どの
その全身の、ビニール紐のような体が、ほどけた。
攻撃の前準備だ。
「!」
「!」
全身のほどけた紐が、鞭のようにしなり、弾丸のように撃ち出される。
右に紫山、左にイリスが飛び、それをかわした。
イロセの前後、あるいは左右から挟み打とうと紫山&イリスは動くが、全身から生えたビニール紐の如き触手は、二方向からの攻撃に難なく対応してみせた。
魔族は、速かった。
純粋な移動速度で山賊を上回る。
振り回す触手はパワフルで、移動速度よりも更に速い。
本体が素早く動いた上で、素早く触手を振り回し、触手の合間を抜けてきた敵を余技の爪で迎撃して殺す。
それが、この魔族の特殊能力無しでの戦闘スタイルであるようだ。
『一発も受けるなよ! 触手攻撃には20%の確率で麻痺の状態異常がある! ケッ、エロシーン導入以外で使われてるの見たくなかったぜこの部位!』
破砕音が止まらない。
いや、途切れない。
合計16本の、パワーに溢れた超高速の触手が、超高速で振り回されていて、それが地面や木々を砕く音が途切れない。
それらを軽やかにかわす紫山とイリスの動きの方が、非現実感があるほどだ。
この触手は武器で防御しただけでも、道理を無視して体が麻痺する危険性がある。
ましてや、紫山とイリスは今も
集中力、思考力が、時間と共にどんどん下がっていっている。
イロセがこの状況をよしとしているのは、戦闘の長期化によって、時間が味方すると分かっているからか。
無論、それを紫山と中村が分かっていないわけがない。
あ、紫山さん! そのまま右の方に行くと地理的に追い詰められます! 多少無理をしてでも左の方に移動しながら避けてください!
「なんでこの触手の麻痺知ってんだ。初見殺しなのに。ま、いいか。ケケケ」
イロセは平静を取り戻していた。
スペックで上回っている。
能力で精神を削れる。
触手で圧倒できる。
この三要素が、焦りかけていたイロセの頭を冷やし、そこに油断を生んでいた。
「不意打ち割り込み抜きじゃあ、こんなもんだよなあ! ……そうだ」
イロセはいいことを思いついた。
今、紫山とイリスはイロセの猛攻をしのぎきっている。
堅固な防御と俊敏な動きを併せ持つ二人は、防御に徹しさえすれば、イロセが全力で攻撃し続けても倒れる気配がなかった。
逆に彼らも、イロセへの攻撃の決定打を見い出せていないようであるが。
よって、イロセは考えた。
魔族らしく。
悪辣に。
意識が先に飛んだ方を狙ってしまえと。
セレナ達の方は気絶している者、戦闘不能になった者しかいない。
そちらを狙えば、紫山とイリスが助けに行くのか。
助けに行くだろう、という確信があった。
イリスが紫山を助けに来た時点で、それは確実なものであると、イロセは悪辣に考えていた。
そこを狙い隙を突けば、簡単に倒せるだろう……そう、目論んでいたのである。
その思考が、女神の眼を通して紫山に筒抜けであることにも気付かずに。
高速で肉体を移動し、肉体以上の速度で触手を振るい、魔族の悪意が皆に迫って――
「さぁてどう動くゴミ人間ど……ぬあっ!?」
――魔族は、派手に転倒した。
魔族が何故自分が転んだのか理解する前に、その混乱が収まる前に、紫山が銀銃のアーツレバーを一回倒し、ゴブリンを一撃死させた一筋の閃光を放つ。
《
「くっ」
防いだ魔族の腕が焼けた。なんとか立ち上がろうとするが、ぬるぬる滑って滑って立ち上がれない。
そう、これは、『媚薬入りローション』である。
『やっぱり媚薬当てても性感度上昇の状態異常はつかねえか。ま、原作でも状態異常無効だったしな』
《
倒れたイロセに容赦なく、紫山が銀剣で斬りかかる。
先程まであった余裕はどこへ行ったのか、遮二無二必死に我武者羅に、イロセは爪で斬撃を防いだ。
顔に動揺を出さないようにしているが、女神の眼は見通している。
この攻勢は有効だ。
「お前、自分より強い相手と戦ったことが無いな。触手の狙いが甘い。弱ってる奴を安易に狙う。足元がおろそかだ。そういうやつはどんなに強くても、案外怖くない」
「抜かせッ!」
ビニール紐のような触手を遠方に伸ばし、木を掴んで跳ぶイロセ。
山賊と違い、魔族であればこの手の搦め手への対策手段はあるということか。
『女を陵辱するタイプのパーカーのピーター君だな』
スパイダーバースに出てこないでほしいですね。
木から木へ、軽快に触手を用いて飛び回り……触手が滑って、墜落した。
顔面から、一気に。
顔が大根おろしのようになりそうな勢いで、イロセは地面に激突した。
「ぬあっ!?」
今さっき、イロセが紫山の目の前から離れる瞬間に、紫山はイロセの視界外で揺れる触手にローションをぶっかけていた。
ローションをたっぷりぶっかけられた触手は人を叩き殺せても、木は掴めない。
滑って落ちたイロセにイリスエイルが切りかかり、イロセはなんとかローションに濡れていない触手で木を掴んで引っ張り、体を飛ばしてそれを回避した。
回避中のイロセのこめかみを、銀銃の正確な射撃が打ち据え、ダメージを与える。
「ぐっ」
『相棒! プラネッタ! こいつの弱点は斬属性だ! 射撃も打撃も効果が薄い! 攻撃タイプは射属性! さっきまではできなかったが、距離を詰めりゃ詰めるだけ戦いやすいはずだぞ!』
「なんで知ってんだよ腕輪野郎!」
なんとか体勢を整えたイロセは、紫山が前、イリスが後ろで、縦に並んで走り駆け込んでくる二人を見た。
触手での全力攻撃は間に合わない。力でまとめて潰したい。そう思って、イロセは拳をぐっと握って、RPGツクールデフォゆえ全ての魔族が持つ技―――『強撃破』を放った。
紫山を肉塊にし、その向こうのイリスも殺す。そんな欲張った破壊の一撃。
《
紫山が銀剣のアーツレバーを一回操作。
すると、光が剣に包まれ、太く、長くなる。
強力化された銀剣と、魔力の込められた拳が衝突。
二つは拮抗し、光と闇の火花が散った。
並行して触手で女の方を攻撃しねえと、と、魔族が思ったところで気付く。
イリスの姿が見えない。
紫山は計算して迎撃していた。
『強撃破』をどこで防いで鍔迫り合いをするかを考えていた。
細かな計算、及び戦闘思考が、『紫山の体と剣と火花が邪魔でイリスを必然的に見失ってしまう』という状況を作り出す。
「見えねっ……!?」
明らかに狙ってやっていると気付いた時にはもう、イロセの背がイリスによって深く深く切られていた。
「ガアッ!? クソがあああああああっ!!」
触手を遮二無二振り回し、狂乱の攻撃でイロセは周囲を無差別に薙ぎ払う。
……と、見せかけて。
実は、冷静に周りを見ていた。
狂乱の演技で周囲を無差別に攻撃しているように見せかけて、その実その眼は常に冷静に紫山を捉えており、意趣返しと言わんばかりに、自分の体で角度的に隠していた触手を、紫山の心臓に向け音速の五倍ほどの速度で撃ち出した。
しかし、そんなものは奇襲にならない。
紫山には、見えているのではなく、聞こえているのだから。
するっ、と紫山はその一撃をかわした。
「……なんで見えてんだよぉ!」
『お前には分からんだろうが、オレ達が"戦隊"だからだ』
「意味分かんねえことほざきやがって! 知らねえよ! 人間が好きなものなんざ全部無価値に決まってる! その戦隊とやらもゴミだ!」
戦隊未視聴型ヘイトツイート勢です! 撃って!
『私怨?』
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